第二章 5 『買い物へ行こう①』
支度を整えて外に出ると、ポカポカ陽気の気持ちのいい朝だった。
昨夜は気が付かなかったけど、この家の裏手には綺麗な小川が流れていて、暑い季節には涼しい風を運んでくれそうだし、この川で野菜や果物を冷やすのもいいかも?
スサノオ「めりりーそろそろ行くよ。」
声の方を振り向くと、馬車の御者席からスサノオが呼んでいた。
めりり「はーい!うわぁ!馬車??すごいね。どうしたの?」
スサノオ「今日は荷物が多そうだから借りてきたよ。さあ、乗って!」
スカートの裾を気にしつつ、スサノオの隣の席に乗り込んだ。
サラブレッドより逞しく大きな馬は、栗色の毛で優しい目をしていた。
めりり「この子なら荷物も沢山運べそうね。」
スサノオ「そうだね。家具とかは店に配達を頼むけど、細々したものはこの馬車で一気に運べるね。」
めりり「うん。
ねぇスサノオ?もしかしたら・・・だけど。
スサノオって、荷物や持ち物は、普段はアイテムボックスに入れてます〜って感じ?
私がやっていたゲームだと、そういう設定があるんだけど。
あ、私、変なこと言ってたら、ごめんね?
お家の中の物が異常に少なかったし、魔法が使える世界なら、そういうのもあるのかなぁって。
ちょっと気になっちゃって・・・」
スサノオ「ん?あぁ、そうだね。僕はアイテムボックスを使えるよ。
今は身の回りの物とか、冷やしたい食材とか飲み物を入れているけど。
これからは家に食材を置くようになるから、冷蔵庫が必要だね。
それと、家族が増えたから、備蓄するものとかも今日買い足さないと。
めりり、はい。これどうぞ。」
そう言いながらスーッと目の前の空間をなぞると、一粒の飴を取り出して、私に手渡した。
めりり「え?なに??
うわぁ!飴ちゃん!!!ってか、アイテムボックスとか本当にあったのね!
空中から飴ちゃん・・・当たり前だけど、はじめて見たわ。これ、マジックとかじゃないよね?
アイテムボックスかぁ〜憧れだったんだよね・・・
スサノオ!凄いね!!」
スサノオ「あはは。凄いかな?この世界だと、使える人とか種族とか結構いるよ。エルフとかは生まれつき持ってるスキルだし。まぁ、保管できるサイズは人それぞれでピンキリだけど。
・・・あ!めりり!その飴ちゃんは、今食べちゃダメだよ。馬車が揺れて、喉に詰まったら危ないからね。
ふふっ、飴ちゃんか・・・可愛い呼び方だな。」
めりり「え??あぁ!そうだよね。うっかり口に入れるところだったわ。
あのね・・・私のいた国の、ある地域ではね。
おばちゃんたちがいつも飴ちゃんをカバンやポケットに忍ばせていて、飴ちゃん食べる?飴ちゃんどうぞってくれるんですって。
それがコミュニケーションの一環で、その地域に住む人達は、明るくてフレンドリーなタイプが多いみたい。
なんかそういうの、良いなぁって思う。
飴ちゃん呼び、普通にしてたけど、言われてみれば確かに可愛いね。」
スサノオ「うん。めりりの話しは興味深いな。もっと色々聞かせてよ。」
めりり「私なんて・・・
ううん。私でよければ何でも聞いて。」
今、私なんて普通の主婦だし、おばちゃんだし、無理だよ・・・って言いそうになった。
そんなこと言われたら、スサノオは困るのに。
親切にしてくれるスサノオの役に立ちたいし、私もこの世界の色々なことも知りたい!
めりり「ねね、私にもたくさん教えて?
この世界のことも、スサノオのことも。」
スサノオ「OK!でも、それは後でね。
ほら、めりり見て。村の入口が見えてきたよ。」
あ、ホントだ!立派な看板がある『カリュの村にようこそ』だって。
ん?あれ?これ、昨夜もあったっけ?
私、こんな大きな看板を見逃してた?
確かに昨夜はちょっと浮かれてたけど、そもそも家と村の中心って、こんなに離れてたっけ?
スサノオ「めりり、なんか難しい顔してるけど、どした?」
めりり「ねえ、スサノオ。私、もしかして、ここに初めて来た?
記憶がおかしいのかな?
この看板、見たことない・・・と、思う。」
焦る私にちょっと吹き出しながらスサノオが言った。
スサノオ「この道が初めてだよ。今日は馬車だから、大回りして街道沿いを通ったんだ。
昨夜は村の中を歩いてショートカットしたから。」
そうなんだ!!!びっくりしたわ。
言われて見れば、見覚えがあるような、ないような・・・
うん。やっぱりないわ。
いや、昨夜は暗かったし?わからなくて当然だよね。
昼間のカリュの村はどんな様子なんだろう?
さて・・・行きますか!!
馬車から降りて村の中心まで歩くと、確かにそこは昨夜通った場所だけど、夜の静けさとは打って変わって、大勢の人々で溢れていた。
見回すと、圧倒的に人間が多いけれど、時々、純粋な人間ではない種族の人達もいるのね。
通り沿いには食べ物屋さん、仕立て屋さん、花屋さん、家具屋さん・・・他にも色々なお店や露店があって、買い物客で賑わっている。
めりり「この村って、昨夜は閑散としてたけれど、こんなに沢山の人がいたのね!
村と言うより、町って感じ。お店も色々あって、活気があって。ワクワクしちゃう!」
スサノオ「そうだね。ここは街道沿いだし、近くに小さい港もあるんだ。
そのおかげで商人や旅人が立ち寄るから、人の行き来は他の村より多いし、色々な物があって賑わっているよね。
人種も種族も多種多様だし。
ねぇ・・・めりりは・・・その・・・
昨日も思ったけど、この雰囲気を見ても、あまり驚いていないみたいだけど、大丈夫?」
めりり「いや、すっごく驚いているよ?
私の住んでいた世界とは大分勝手が違うし、珍しいとは、思う。
でも、受け入れられないとは、思わない。
だって私自身もかなり特殊な部類・・・でしょ?」
めりり「それとね、私、小さい頃から物語やお話が大好きで、これでもかなりの読書少女だったのよ?
大人になってからは、ラノベやコミックの中の異世界に憧れて、そういうお話しを読み漁ってたし。
まるで自分自身がお話の主人公か、友達みたいな感じで没頭しちゃってね。
RPGのゲームもそう。
ゲームの中のいくつもの世界で、色々な人に出会って、冒険して、生活をしていたの。
私にとっては、その世界の中もリアルな居場所だったんだよね。
・・・変なこと言ってると思うかもしれないけど。
ここの人とか世界観は、失礼な言い方だったら申し訳ないけれど、こういう世界もあるんだ・・・って感じ。
私にとっては、はじめてのことで、珍しいことだらけで、戸惑いはあるけど、嫌悪感も違和感も全くないの。
むしろ好奇心が抑えきれないくらい。
だから、スサノオ。心配しなくて大丈夫だよ。」
スサノオ「参ったな。僕が気にしていたの、すっかりバレちゃってるし。めりりは想像以上に柔軟な思考の持ち主だね。
めりりだったら、この世界を十分に楽しめると思うよ。さあ、行こう!」
めりり「うん!まずは・・・昨夜の雑貨屋さんね。」
スサノオ、気遣ってくれてありがとう。
私の新しい冒険は始まったばかり!
ここはゲームで言うところの『はじめの村』ってことよね。
今の私には、心強い仲間のスサノオが居てくれるから、とっても楽しみで、ドキドキしかないよ。




