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人外魔境~魔物と人類の共存は可能ですか?  作者: ゆうき けい


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13/22

13 反撃

「シャルルマーニュ?

あなた、何をしているの?」

弟の行動に驚いたのはマリー・クレールも一緒だった。

役に立てとは言ったが、アレクサンドルの未来視を潰せ、とは命じていない。

折角、ここまで順調に進んでいるのに、何故、攻略できている義弟に大怪我を負わせ、夫・ラインハルトに不信を抱かせるような行動をするのか、全く理解できない。


「お前たち、シャルルマーニュを抑えなさい!これ以上、勝手な真似をさせないで!」

彼女を護るベイリン帝国騎士達に命じる。

しかし、誰も彼女の命令には従わなかった。

「無駄ですよ、姉上。彼らは僕が連れて来た帝国騎士です。僕の命令しか聞きません。」

そう言うシャルルマーニュを姉マリー・クレールは馬鹿にしたように見る。

「わたくしの異能を見くびってもらっては困るわ。

ベイリン帝国の誉れある騎士達よ。第二皇女マリー・クレールの名において命ずる。

”シャルルマーニュを捕らえよ”。」

平原にマリー・クレールを中心に一際、甘い匂いが広がるが、それは直ぐに、未だ衰えを知らず、平原を舐め尽くす炎と生き物を焼く匂いに搔き消された。

マリー・クレールに従う騎士は一人もいない。


「どうして?わたくしの異能が効かない?」

「姉上、姉上の異能”魅了”は強力です。但し、閉鎖空間であれば、との注釈が付きますが。」

ゆっくり、一歩、また一歩と近づいて、シャルルマーニュが諭す様な、優しい声音で告げる。

「姉上もご自分の欠点をお分かりだ。だから、吐息にも異能を乗せ、更に、直接触れる事で確実に発動する様にした。違いますか?

けれど、ここは、何も遮る物のない平原です。更に、戦場。周囲は血と肉の焼ける匂いが溢れている。そんな中、姉上の魅了の声と匂いが、何処まで届くとお思いか?」

改めて指摘されて、漸くマリー・クレール気が付いた。


「そんな・・・。」

「帝国皇女の名に懸けて命じたにも拘わらず、彼らが従わないのが何よりの証明。」

「シャルルマーニュ!お前如きが、お前如き、追跡能力しか持たない変性者に、わたくしが劣るとでも言うつもり?」

「追跡能力しか持たない、ではありませんよ。」

シャルルマーニュは、憐れみを込めて姉を見る。

「僕たちは生まれたその瞬間から、帝位争いの渦中にいる。能力を隠すのは当たり前。違いますか?貴女が同腹、と言う事で、僕を味方、いや、使える駒と見ている事は知っていました。そんな姉相手に、自分の能力の全てを晒すはず、無いでしょう?貴女が、吐息や接触で能力強化を果たした事を隠していた様に、僕も自分の異能を意図的に歪めて、伝えていたからと言って、非難される事は無いでしょう?」


何か薄気味悪いものを見る様な視線が実の姉から注がれるのに、シャルルマーニュはまるで他人事だ。

「これで満足されましたか?なら、さっさとその蜘蛛を連れてこの場を離れますよ。他にも彼らの味方はいるようですからね、今、何故ここにいないのかが、わからない以上、愚図愚図してはいられません。」

そう言うとシャルルマーニュはヒューを見て笑った。

「ヒュー君?ヒューさん?あなたには人質としての価値がありそうです。一緒に来てもらいましょうか?」


そのシャルルマーニュの言葉に従って、エルエルの登場で固まっていた騎士達が動き出す。

エルエルを取り囲み牽制する一団と、アリアドネを運搬する一団。

けれど、ヒューに伸ばされたシャルルマーニュの腕は、何かに弾かれた。

「?」

「無・シン・者、ヒュー・触・不・可。」

エルエルがさっきリンクが呟いた言葉を繰り返す。

「どうやら君は、しん無き者、と判断された様だね。」

「エルエル?」

「リンクが、ヒューにかけた護法は、この子に触れる者を選ぶ。”しん”とは、信、真、芯、心、清。君にはそれが無い。」


身重の女性を抱きかかえ、騎士達に囲まれ、身動きが取れない状態にも拘わらず、エルフの態度は余裕だ。

その理由は直ぐに判明した。

エルフの足元が、急に盛り上がった。大地がうねり、騎士達が倒れる。そのまま、土のドームがエルフを包み、その後、何事もなく現れた彼の腕に女性はいなかった。

「では、自己紹介をしましょうか。

私はエルダーエルフ。この世界の創世に関わった四人のエルダーの一人です。」


エルダーエルフ。

それは、創世神話に語られる、無限の魔力で創世神の天地創造を手伝った創世神の使徒。火・水・風・地の4属性を管理し、全ての命あるものの上位種。

そんな存在が、目の前にいる?


「そんな馬鹿な!?」

誰もがそう思った。

確かにその美貌は人間離れしている。けれど、彼からは絶対強者の圧、を感じない。せいぜいがエルフの魔法使い、だ。

はったり。

マリー・クレールたちが、そう結論付けたとて、おかしなことは無い。


そんな敵対者の態度も、織り込み済みで、エルエルは仕方ないとばかりに肩を竦め、

「ですので、私達もこの辺りで年長者らしいところをおみせしなくてはね、アリア。」

と、言った。

その不穏なセリフに反応して、ずっと凍り付いたまま沈黙を守っていたアリアドネの八つの目が、開かれる。夜の闇を切り取ったかのような美しい黒真珠の瞳。けれど、その半数は光を失いドロリとしていた。

その体を覆う氷が溶けていく。

「ありがとう、ライム。もう十分よ。」

そして、パリン、と軽い音を立てて、アリアドネの体から、氷の幕が砕けて剥がれ落ちた。

同時に、アリアの腕から、意識の無いリンクの体が、ほのかに赤く熱を発するゼリー状の物質に包まれて離れた。

それは、ヒューに寄り添うと、すり、と触手を伸ばして、ヒューの涙をぬぐった。

「ライム・・・。ありがと。」


ライム。

傷口を抑えながら、アレクサンドルは、納得する。ヒューたちの使用人と思っていた存在。声を聞いた事が無い理由は、それがスライムだったからか。


だが、ライムは普通のスライムではない。いくつもの核を持つ、多核のスライムだった。

今、アリアドネの氷を溶かしたのは、ヒート(熱)スライム。一般的には、灼熱の体を持つ、動くマグマのような存在だ。けれど、ライムはその温度調節が出来る。何故なら、他にアイス(氷)スライムと言う氷属性のスライムの核を持っており、ヒートとアイス、その二つの核の発現率を上手く調節して、適度な熱を発するようにしているからだ。

その他にも、アシッド(酸)やポイゾン(毒)、エレキ(電気)など、いくつかの核を持っている。

昔、遥か昔、どこかの国の狂った研究者が、作り出した歪な命、それがライムの過去だ。

組み込まれたいくつもの核が暴走し、その国は滅んだが、ボロボロになったライムを救ってくれたのが、エルエルだった。

だから、ライムはエルエルに付いてきた。

そして、アリアと出会い、ヴァンが合流し、リンクを助け。

そうして、魔の谷に捨てられたヒューを受け止めた。

その時から、ライムはヒューの保護者になった。

幾つもの核を持っていても、基本はスライム。魔物の序列の中では戦闘力は最低ランクに位置する。けれど、そのライムでも人間の赤ん坊よりは強い。ライムは初めて、自分より弱い存在を知り、護る意味を知った。


だから、ライムはヒューを護る。

ライムは分裂する。

ヒート、アイス、ポイズン、エレキ。

アシッドの核は今、ヴァンと一緒に破壊工作に行っている為、攻撃能力のある核はこの4つだ。

リンクを保護している本体と、非戦闘系の核はそのままに、4体のスライムは、ヒューを護るようにその周囲に展開した。


それを確認し、アリアがエルエルに答える。

「十分に魔力は練りました。わたしは何時でも良いですよ。」「では。」「ええ。」


そして、蜘蛛の魔物の上半身、美しい女性体が優雅に舞うように腕を躍らせると、アリアの周囲を囲んでいた騎士達が、バタバタと倒れた。中には、突然腕が切り飛ばされた者もいる。

「何?」

そう言ったマリー・クレールの頬にも鋭い痛みが走り、細い細い赤い線が生まれ、そして、ぱっくりと傷口が開いた。

「痛い、痛い、痛い、痛い。」


それは、アリアの指先から伸ばされた超極細の蜘蛛の糸による攻撃。魔力を込めて極限まで硬化した糸は恐ろしい殺傷兵器へと変わる。

「蜘蛛の糸腺が7種類ある事をご存知かしら王太子妃様。」

「貴方のお望みのアリアドネシルクを作る糸腺はもう枯れてしまったわ。わたしに残されているのは、巣を作る為の糸と卵を護るための糸、そして、獲物を捕まえるための糸。」

アリアが再度腕を振ると、あっという間にマリー・クレールそして、シャルルマーニュは、ぐるぐる巻きになった。


「さて、ベイリン帝国の皇女と皇子、あなたたちに相応しい罰を与えましょう。」

黒真珠の瞳の中には、熾火のような真っ赤な怒りが確かに燃えていた。





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