レオの計画
アカデミアの灯りが無い室に、怪しい三人が集まっていた。下から照らされる光によって、空中に顔が三つがそのまま浮いているように見え、恐ろしい雰囲気を醸し出している。
「フフフ……さて、会議を始めようか」
真ん中のリーダーらしき顔が声をひそめて話し始める。恐ろしい雰囲気を作りたいのか、わざと低く喋っているが、妙に上ずった声が台無しだ。
リーダーの声に釣られて、右の顔が呆れたように目を細め、ため息をつく。
「……ねぇ、緊急の用事があると言われて集まったけど、これどう言う状況?」
右の顔、もといカイは呆れた目をレオに送る。
「……で? 緊急だって言われて集められたけど、これどういう状況なんだ?」
その言葉に、左側の顔――エミールも静かにうなずく。
「ぼくも説明してほしいな、レオ君。何が始まるのか、さっぱり分からないよ」
カイとエミールの視線を浴びても、レオは神妙な表情を崩さず、顔の前で手を組むポーズを取った。どっかから借りたのか、メガネが無駄に光を反射する様子に、カイの苛立ちが増していく。
「静粛に、これは由々しき事態である」
「普通に喋れ、そのポーズやめろ、ふざけてるなら僕は帰るぞ」
「カイ君、帰るも何も、ここがぼくたちの部屋だよ」
二人の茶々を無視して、レオは「静粛に!」と手を振り、一人だけ深刻そうな顔をする。
「これは非常に重大な事態なんだ!」
妙に力の入った言葉に、カイは呆れた目でレオを見つめる。
「それで、具体的には何が『重大』なんだ? またナンパして振られたのか?」
「違う! いいか、これは……ノアの話だ!」
その言葉に、エミールが首を傾げる。
「ノア君? 何かあったの?」
「聞けよ、最近ノアの様子がおかしいんだ。エリオス先輩とやたら仲良くしてるし、図書館にこもりっぱなしで、朝食と部屋にいる時間以外ほとんど俺たちと一緒に行動しないじゃないか?!」
レオの真剣そうな表情に、カイは思わず額に手を当てる。
「……それのどこが問題なんだ? 友達とつるんでるだけだろう。それに、テストが近いから勉強に集中してるだけじゃないのか?」
「いや違う! ノアのルームメイトとして、この状況は見過ごせない。俺たちはノアと一番仲がいいはずだろ!?」
レオはテーブルに手を叩きつける勢いで立ち上がった。その顔には使命感が宿っている。
「俺たちがアカデミアで一番最初にノアと友達にになったのに、後から来たやつの方がノアと仲がいいのは俺のプライドがゆるさねぇ! それにな、俺はいまだにあの“コインで人を気絶させる技”を教えてもらってねぇ!」
「後半が本音だろうが!」
カイが怒鳴るように突っ込むと、エミールは困ったように宥めに入った。
「まぁまぁ、でもレオ君、ノア君は結構自由な人だから……僕たちが何か言っても変わらないと思うよ?」
「甘いな、エミール。ここで黙ってるようじゃルームメイトの名折れだ」
レオが得意げに胸を張る。その顔には、悪巧みを思いついた子どものような表情が浮かび、それを見たカイのこめかみがピクリと跳ねた。
「……その顔、殴りたくなるな」
「カイ君、落ち着いて。とりあえず、レオ君が何を考えてるのか聞いてみよう?」
エミールが必死に制止する中、レオは両手を広げ、得意げに宣言した。
「来週に迎春祭が始まる、アタリカ全地域で行われる大きなお祭りだ、その間アカデミアの授業も休みになる! そこでノアを誘って一緒に迎春祭を回る!」
レオがこれ以上名案がないとばかりに口角が上がる。
「俺はアタリカの迎春祭を何度も参加して来たからな! アタリカに何があるのか知り尽くしている! ノアを完璧にエスコートして楽しませる、それで俺たちの仲がより深まるってわけだ! 最高のアイディアだろ? 俺様の天才的な頭脳に驚くぜ」
「……うん、悪くない案だけど、ノアは参加するのか?」
カイが冷静に指摘すると、自惚れていたレオが固まってしまう。
確かに、ノアが迎春祭に興味を持たなければ、どれだけ語ろうと意味がない。レオはすでにノアと一ヶ月以上生活を共にしていたが、未だにノアの考えや興味を完全に掴むことができていなかった。それだけに、ノアが迎春祭に参加するという確信も持てないままだった。
「照明もつけないで何をしてるの?」
「うわっ! ノア!? いつから居たんだ?」
「今帰ってきた」
レオが考え込んでいると、玄関の方からノアの声が響く。同時に、カッと眩しい光が室内を満たし、暗かった部屋が一気に明るくなる。
ノアの無機質な青い目が三人を見渡し、エミールはそこから困惑の感情を読み取った。
レオがあわてて伊達メガネと小型照明をしまう。何か悪いことをしている訳でもないのに、なぜかやましいことをした気持ちに襲われる。
これは背後で誰かの噂をしていたら、噂の本人が登場した時の気まずさだ!
全くもってその通りでしかないが。
「それで、何をしていたの?」
閉め切ったカーテンを開けながら、ノアが問いかける。部屋を真っ暗にして自分の顔に光を当てる行動。本で読んだことのない行動に、ノアはこうすることの目的に興味を持った。
「あー、ノア、これはだな……」
「ノア君も一緒に迎春祭を回らないかって話をしていたんだ」
レオがしどろもどろに説明を試みるも、言葉が続かないため、エミールが代わりに答えた。
「迎春祭……今街で準備している祭りのことか。でもどうして部屋を暗くするんの?」
ノアが視線をレオに移すと、彼は何とも言えない表情でうつむく。
「ほら、レオ、お前の案なんだ。ちゃんと説明してやれよ」
カイが笑いを噛み殺しながらレオの背中を押す。
「いや、えーっと、ほら……かっこいいだろ? 雰囲気とか、演出とか……分かってくれ」
「……?」
首を傾げるノアに、レオは居た堪れなくなって、大きな体を縮めようとする。この時初めて体が大きいことを不便に思った。穴があったら入りたい。
しばらくレオを見つめた後、ノアは興味をなくしてエミールの言葉について考える。
迎春祭……。
迎春祭とは冬の終わりを喜び、春の帰還を祝う祭りだと、ノアはヘレナから聞いた。祭に参加する人は春に咲いてる植物を身に纏うことで、春の帰還を祝うとか。昔は西大陸全体で盛大に行われていたお祭りだが、今では多くの場所で廃れてしまった。その中でもあたりか地方の迎春祭が最大規模のものらしい。
――でも、僕には関係ない。
ノアは迎春祭についての興味が薄かった。人が多い環境よりも静かな環境を好む上、まだ秘宝の手掛かりが見つからない以上、祭りなんかに呑気に参加している暇なんて――
「あ、そういえば迎春祭にしか出されない料理が出るって本で見たけど、レオ君、それって本当?」
「あ、あぁ、本当だ! 街のみんなで春の食材をテーマに寄せ鍋を作るんだ。これがまた美味いんだよ!」
「……」
エミールがレオを肘で突いて、レオがハッとして補足する。エミールの経験上、ノアは食べ物の話になると、興味を持つ可能性が高かった。
……暇なんて――
「近頃勉強ばっかしてたし、こういう時こそ息抜きが必要だな」
「そうだな! 勉強ばっかじゃ疲れちまうぜ!」
「……」
ノアが固まったのを見て、カイが追い打ちをかける。
「レオ、お前はもうアタリカの全部を知っていると言ったな、屋台とかにも詳しいのか?」
「もちろんだ! どこに何があるのか全部覚えてるぜ! 完璧なエスコートを期待しとけ!」
「……少し時間が欲しい、明日には答えを出す」




