第9話: 「次元の歪み、世界存亡の危機」
アストリア王国の危機は去ったかに見えた。しかし、ルシウスの鋭い直感が、さらなる脅威の存在を感じ取っていた。
「この国には、まだ根本的な問題が残されている」
ルシウスの言葉に、イリスが頷く。
「そうですね。表面的な平和だけでは、真の安定は得られません」
その時、激しい地鳴りが響き渡った。
「な、何だ!?」
アルフレッドが叫ぶ。城の窓から見える風景が、徐々に歪んでいく。
「まさか……『次元の歪み』!?」
オスカーが驚愕の声を上げる。古代魔術の禁忌、世界の根幹を揺るがす現象だ。
「やはり来たか……」
ルシウスは、静かに杖を構えた。
「兄上、これは一体?」
「簡単に言えば、世界の崩壊だ。長年の魔力の乱用と、人々の負の感情が積み重なってできた歪み。これを治めなければ、この国どころか、世界が消滅する」
アルフレッドは青ざめた。そんな危機が迫っていたなんて……。
「私に任せてください」
ルシウスは、城の最上階へと向かった。そこから見える景色は、まさに終末的だった。空が裂け、大地が割れ、あちこちに次元の亀裂が走っている。
「さあ、行くぞ」
ルシウスは、古代魔術の詠唱を始めた。その言葉は、誰も聞いたことのない響きを持っていた。
「『創世の調和』!」
膨大な魔力が、ルシウスから放出される。漆黒の光が世界を包み込み、歪んだ空間を少しずつ修復していく。
しかし、それだけでは足りなかった。
「みんな、力を貸してくれ!」
ルシウスの呼びかけに、イリス、ゼノビア、オスカーが応える。さらに、アルフレッドやメラニーも加わった。
そして、驚くべきことに、王国中の人々の思いが、ルシウスの魔法に呼応し始めた。希望、感謝、そして未来への願い。それらの想いが、魔法の力となってルシウスに集まる。
「ありがとう、みんな……」
ルシウスの魔法が、さらなる高みへと到達する。漆黒の光は、今や祝福の輝きとなって世界を包み込んだ。
やがて、光が収まると、そこには元通りの風景が広がっていた。しかし、何かが決定的に変わっていた。人々の心に、新たな希望の灯がともったのだ。
「やりました、兄上!」
アルフレッドが、喜びの声を上げる。
ルシウスは、疲れた様子で微笑んだ。
「ああ。でも、これは終わりじゃない。新しい始まりだ」
こうして、アストリア王国は真の意味で救われた。そして、ルシウスを中心とした新たな国づくりが、始まろうとしていた。