第6話: 「故国の危機、因縁の地への帰還」
第6話「故国の危機」
アストリア王国の首都エルミナに、不吉な影が忍び寄っていた。国境の城塞都市が次々と陥落し、敵軍の侵攻が迫っていたのだ。
王城の会議室では、緊急の対策会議が開かれていた。
「このままでは、一週間ともたないでしょう!」
軍師のバルトが、焦りを隠せない様子で叫んだ。
「……それほどまでに、事態は深刻なのか?」
アルフレッド王子が、青ざめた顔で尋ねる。かつて兄を追放した彼は、今や王位継承者として重責を担っていた。
「はい。敵の魔術師たちの力が、我々の想像を遥かに超えているのです。どうやら、古代魔術を解き明かしたようで……」
メラニー・シルヴァーウッドが、静かに、しかし重々しく答えた。
「こうなったら……あの方しかいない」
老宰相が、震える声で言った。
「あの方……? まさか」
アルフレッドが息を呑む。
「そうだ。『漆黒の覇王』だ」
会議室に重苦しい沈黙が降りた。『漆黒の覇王』――この数年で急速に名を上げた謎の魔術師。その力は国家レベルと言われ、すでに複数の国で英雄として称えられていた。
「だが……どうやって連絡を?」
アルフレッドが問いかける。その時、一人の兵士が慌てて飛び込んできた。
「報告! 『漆黒の覇王』が、城門に現れました!」
全員が息を呑んだ。まるで、召喚されたかのように。
城門に集まった群衆の中、一人の仮面の男が立っていた。漆黒のローブに身を包み、銀色の仮面で素顔を隠している。
「久しぶりだな、アストリア」
低く響く声に、アルフレッドは心臓が高鳴るのを感じた。どこか聞き覚えのある声……。
「お願いします、漆黒の覇王様。我が国をお救いください!」
アルフレッドが頭を下げる。仮面の男は、ゆっくりと仮面を外した。
「さて、アルフレッド。久しぶりだな、弟よ」
そこにいたのは、かつて追放された兄、ルシウスの姿だった。