第3話: 「漆黒の覇王、その名を世界に」
月明かりの下、一人の男が静かに佇んでいた。その姿は黒いマントに包まれ、顔には漆黒の仮面が輝いていた。かつてのルシウス・ヴァン・アストリアの姿はそこにはなく、今や彼は「漆黒の覇王」と呼ばれる謎の魔術師となっていた。
彼の前には、魔獣に襲われた村が広がっていた。村人たちは恐怖に震え、助けを求めていた。
「恐れることはない」
ルシウスの声が夜空に響き渡った。
「私が……この魔獣どもを討ち滅ぼす」
彼は優雅に腕を上げ、複雑な魔法陣を描いた。瞬間、無数の黒い雷が空から降り注ぎ、魔獣たちを次々と打ち倒していった。
村人たちは目を見張った。
「あ、あの方は……噂の漆黒の覇王様!」
「私たちを救ってくださったのですね!」
歓声が上がる中、ルシウスは静かに立ち去ろうとした。しかし、一人の老人が彼を呼び止めた。
「どうか、お名前を……」
ルシウスは振り返り、仮面の下でわずかに笑みを浮かべた。
「私は……漆黒の覇王。それ以上でも以下でもない」
そう言い残すと、彼は夜の闇に溶けるように消えていった。
翌日、漆黒の覇王の噂は瞬く間に広まった。各国の王族や貴族たちは、この謎の魔術師の力を求めて使者を送り始めた。
ある日、ルシウスは自分の アジト で、来訪者を迎えていた。それは、かつての故国アストリアからの使者だった。
「漆黒の覇王様、我がアストリア王国はあなた様のご協力を切に願っております」
使者は丁寧に頭を下げた。ルシウスは仮面の下で冷ややかな笑みを浮かべた。
「ほう……アストリア王国か」
彼の心の中で、復讐の炎が燃え上がった。しかし、表面上は冷静を装った。
「私にとって、どの国も同じこと。相応の対価を払うのであれば……協力しても良いだろう」
使者は喜びの表情を浮かべた。
「ありがとうございます!必ずや、ご期待に添えるよう……」
ルシウスは使者の言葉を遮った。
「ただし、私の素性を探ろうとする者には容赦しない。それが王であろうと、貴族であろうとな」
その言葉に、使者は背筋を凍らせた。
使者が去った後、ルシウスは仮面を外し、鏡に映る自分の姿を見つめた。
「もうすぐだ……復讐の時が」
彼の瞳には、かつての王子の面影はなく、ただ冷徹な覇王の姿があるだけだった。
しかし、その心の奥底には、まだ誰にも気づかれていない温かさが残されていた。それは、これから出会う真の仲間たちによって、再び呼び覚まされることになる。