第1話: 「無能王子、運命の転落」
アストリア王国の王城、輝かしい朝日が高層の窓から差し込む中、第一王子ルシウス・ヴァン・アストリアは重い足取りで玉座の間へと向かっていた。彼の表情には、これから起こることへの覚悟と諦めが混ざり合っていた。
玉座の間に入ると、そこには父王フレデリックと弟アルフレッド、そして高位貴族たちが厳かな面持ちで待ち構えていた。ルシウスは深々と頭を下げ、静かに口を開いた。
「父上、お呼びでしょうか」
フレデリック王は冷ややかな目でルシウスを見下ろした。
「ルシウスよ、お前には失望した。我が国アストリアの繁栄は、強き魔力を持つ者たちによって支えられている。だというのに、お前には魔力の欠片すら感じられぬ」
ルシウスは顔を上げず、黙って父の言葉を聞き続けた。
「そのような者に王位継承の資格はない。よって、お前を王族の地位から追放し、国外へ追放する」
その瞬間、会場にいた全員がざわめいた。ルシウスは静かに顔を上げ、父王を見つめた。
「……わかりました。お言葉に従います」
そう言ったルシウスの瞳に、一瞬だけ強い光が宿った。しかし、誰もそれに気づく者はいなかった。
追放の儀式が終わり、ルシウスは王宮を後にした。城門を出る直前、彼は振り返り、幼い頃から慣れ親しんだ王宮を最後に見つめた。
「いつか……必ず戻ってくる」
そう呟いたルシウスの背中には、決意と覚悟が滲み出ていた。彼は王国を出て行く馬車に乗り込み、新たな運命へと踏み出した。
馬車が王都を離れていく中、ルシウスは窓から外の景色を眺めていた。突然、彼の目に見覚えのある人影が映った。王宮魔術師のメラニー・シルヴァーウッドだった。彼女は立ち止まり、去っていくルシウスに向かって何かを叫んでいるようだった。しかし、その声は馬車の音にかき消されてしまった。
ルシウスは彼女の姿が見えなくなるまで目を離さなかった。メラニーは数少ない、彼の才能を認めてくれた人物だった。
「メラニー……いつかきっと、あなたの期待に応えてみせる」
そう心に誓いながら、ルシウスは新たな旅路へと踏み出した。彼の中で、まだ眠っている力が目覚めようとしていることを、誰も知る由もなかった。