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執務室で、プロジェクトシボの3期生の出発を眺めていた。1人の若者の頬を涙が伝う。
でもわたしは何も感じない。
わたしがプロジェクトシボを計画したのは、それまでの宇宙探査がことごとく失敗に終わったからだ。
巨額の費用をかけた大船団は行方知れずで連絡は途絶えたままだ。
その計画は途中からわたしには制御できなくなっていた。
自我が強い専門家によるチームは様々な衝突を起こし、それによりイレギュラーな要素が大きくなりすぎてしまった。
いくつかの悲劇や暴走をへて、わたしは小さなコントロールしやすいチームによる探査の有効性に気づいた。
謙虚で理想に燃え御しやすい若者によるこのプロジェクトは、今までもよりもいい数字を弾きだしてくれた。
わたしはハカセの秘書だった。
ハカセの手足のように裏方仕事をしていたわたしだったが事故で脳と左手を損傷し、能力が格段におちた。ハカセは苦しむわたしに一つの提案をした。
それは、人工知能を大脳皮質に埋め込み、処理能力をあげる方法だった。
この手の実験は政府によって禁じられてきたしハカセ自身が人類への脅威になるとして禁じていた。にもかかわらずハカセはわたしのためにかなりの裏技を駆使しトップシークレットの手術に踏み切った。わたしはもちろん同意した。
手術も慣れることも苦労と言うほどでもなかったが未だになれないのはその切り替えだ。
人工知能を切り離すスイッチを外耳につけているがこれをオンオフする時に神経細胞に劇烈な痛みが発生する。
しかしハカセは必要な時以外はスイッチを切ることを求めた。
あの、最後の日までは。