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第六話 夕ご飯の時間に、父さんにもアルバイトをしたい理由を話した。

 

 第六話



 


 自室を後にして居間へと向かった俺は、扉を開けて中へと入る。

 すると中からカレーの良い匂いがしてきた。

 そして、テーブルには父さんが既に座って夕ごはんを待っていた。

 台所では母さんの手伝いを結花がしていた。


「お帰り父さん。仕事お疲れ様」


 俺がそう声をかけると、父さんが椅子に座ったままこちらに顔を向けてきた。


「ただいま裕也。アルバイトをしたいって話は母さんから聞いてるよ」

「あはは。それなら話は早いね。その様子なら反対って感じじゃなさそうだね」


 軽く微笑みを浮かべている父さんに、俺は少しだけ安堵の気持ちを抱きながらそう言葉を返す。


「そうだね。裕也の『変わりたい』という気持ちは私も尊重したいからね。ただ私も美香(みか)さんと同じように、裕也は自己評価かが低過ぎる。という見方だよ」

「あはは。母さんにも言ったけど、それは身内が相手だからだよ。少なくとも俺は、自分のことは下から数えた方が早いレベルだと思ってるからね」

「うーん……裕也の場合はその自己評価を上げてくれる人が現れてくれることを願ってるよ」


 そんな話をしていると、作り立てのカレーを持って母さんと結花がこちらへとやって来た。


「はい。お待ちどうさま。ふふふ。今日は雅也(まさや)さんの好きなカツカレーですよ」

「おお、ありがとう美香さん。とても美味しそうだね」

「明日は久しぶりのお休みですからね。お仕事ご苦労様でした」


 母さんが父さんの前に出したのは、大きめのカツが乗ったカツカレー。

 ちなみにカツは最寄りのスーパーで買って来たものを使っている。


 まぁ『父さんだけのためのカツカレー』だからな。


「はい。お兄ちゃん。こっちはお兄ちゃんの好きな牛丼カレーだよ」

「おお!!やっぱりカレーはこうだよな!!」

「あはは。祐也のカレーは面白いトッピングをしてるよね」


 父さんが『俺だけのためだけのカレー』を見ながらそう呟いた。

 俺の牛丼カレーはカレーの上にレトルトの牛丼の素をトッピングしたカレーだ。

 牛丼チェーン店で食べたカレー牛丼が美味しかったから、家でも食べたいと願い出たからだ。


 ちなみに、我が家のカレーはノーマルのカレーの上に、各自が好きな物をトッピングしていくスタイルになっている。


 父さんはカツ。

 俺は牛丼。

 結花はチーズ。

 母さんは目玉焼きだ。


 食卓にはカレーが並んでいるが、誰一人として同じカレーが並ばないのが面白いところだと思ってる。


 そして、全員分のカレーと飲み物の準備が整ったところで、皆が席に着いた。


「それじゃあみんな揃ったし、食べようか」


 父さんのその言葉の後、全員で『いただきます』と言葉を揃えてからカレーを食べ始めた。


 俺は一口分のカレーと牛丼を混ぜ合わせてからスプーンで掬って口に運ぶ。


「……あぁ。うめぇ……幸せの味がする」

「ねぇねぇお兄ちゃん。チーズカレーを一口あげるから、私にも牛丼カレーちょうだい」


 俺の様子を見た結花が『いつものように』俺にカレーをねだってきた。

 なので俺は牛肉がたっぷりの場所をスプーンで掬って結花に差し出した。


「あぁ、いいぞ。じゃあ……ほれ、あーんだ」

「あーん」


 俺がそう言うと、結花は小さな口を大きく開けて、雛鳥のように待っていた。

 なので俺はそっと彼女の口の中に牛肉たっぷりカレーを入れた。


 そして、結花はゆっくりとそれを咀嚼して、笑顔で俺に言ってきた。


「……うん。美味しいね!!お肉マシマシで嬉しくなるね!!」

「そうか。そう言ってくれると嬉しいよ」


 すると、今度は結花がチーズたっぷりの場所をスプーンで掬って俺に差し出してきた。


「はい、お兄ちゃん。あーん」

「あーん」


 俺も結花の言葉に従い、口を開けてチーズたっぷりのカレーを頬張る。

 うん。美味いな。チーズというのはやはり何と併せても美味くなる。

 だが、カロリー爆弾でもある。これは罪の味だな。


 常に水泳でカロリーを消費してる結花だから、食べることが許されているようなものだな。

 今夜の筋トレは増やさないと。


 七瀬さんに相応しい自分になる。

 なんて決意しておきながら、ぶくぶくに太った男なんて論外だからな。


「美味しいよ結花。ありがとう。だけどこれは今夜の筋トレは量を増やさないといけないな」

「あはは。たった一口で何かが変わるとは思えないけど、お兄ちゃんのそういう真面目なところは好きだよ」

「まぁ、結花のお兄ちゃんとして、ぶくぶくに太った姿にはなりたくないからな」

「えへへ。お兄ちゃんならどんな姿でも大好きだよー」

「ははは。結花のその好意に甘えたくないだけだよ」


 俺がそう言って結花の頭を撫でていると、冷めた目でこっちを見ている両親の姿があった。


「……ねぇ、美香さん。私たちは何を見せられているんだろうか?」

「……そうね。雅也さん。兄妹のイチャイチャと言うよりは、バカップルに見えてきましたね」


「……バカップルは無いだろ」

「そうだよ、お父さんにお母さん。『カップル』なんて言葉で括らないでよ。私とお兄ちゃんは『夫婦』になるんだから」

「……いや、それも違うだろ」


 目尻を釣りあげながら変な事を言う結花に、俺は小さくため息混じりで言葉を返した。


「……まぁ、兄妹仲が良いことはいい事だからね」

「そうね。良過ぎるようにも見えるけど」

「まぁ結花の言う夫婦とは違うけど、俺にとって結花が『特別に大切な存在』であることは間違いないからね」

「えへへ……もうお兄ちゃん……。私のことが大好きなんだからぁ……」


 俺の言葉に結花は目尻を下げながら、チーズたっぷりのカレーを口に入れていた。


 そんな会話をしながら、南家の夕飯の時間は過ぎて行った。

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