営業マン平井さん
平井さんは営業成績トップだった。
平井さんの目標は、社内の女性全員に手をつけることだった。
そのためなら何だってできた。
成果のためなら手段を選ばない、自分磨きに余念がない。
結果として、平井さんはこの上なく魅力的な人になった。
次々と女性社員が彼のことを受容した。
しかし、最後の一人が堅牢だった。
お局の和子さんは、定年間近で独り身だった。
彼女が退社してしまう前になんとか落としたかったが、和子さんは営業成績がちょっとやそっと良かったり、容姿が整っていたり、話が面白かったりするくらいでは、まったくなびかなかった。
平井さんは焦っていた。
平井さんの営業成績は、もう頭打ちかと思われてから、さらに二倍にも三倍にも膨れ上がった。
まるで魔法のようであった。
社長も会長も、平井さんには頭が上がらなかった。
ところが平井さんは、そんなことよりも和子さんのことで頭がいっぱいであった。
社長賞を貰ったその足で、会社の屋上へ駆け上った。
焼きそばパンを齧る和子さんのところまで行くと、叫んだ。
それは、まさしく愛の言葉だった。
都会の空に、聞いているこっちが熱くなるような台詞が飛び交った。
二人は晴れて結ばれた。
揃いの指輪がそれぞれの左手に輝いていた。
いくらしたんだと噂されるほど巨大な石だった。
和子さんは満面の笑みで、なんと寿退社することとなった。
退社するときは平井和子という名前になっていた。
しばらくして、平井さん自身も、自分で会社を起こすと言って退社した。
誰にも止められなかった。
営業のエースと、事務のお局が去った会社は、もはや抜け殻となり、みるみる業績を落としていった。
会社は奇しくも、平井さんがお父さんになった日に、ついに倒産してしまったという。




