グレイ
東京上空に突如出現した、灰色の巨大な雲について、政府は緊急事態宣言を発令した。
発令したからどうなのか、国民の多くはわからなかったが、何か大変な事態なのだろうということは想像できた。
その巨大な雲は、風に押されることなく、その場に停滞した。
形を変えることもなく、空に固定されていた。
日本の首都を、ただじっと暗く覆ったのだった。
数日して、たしかに緊急事態だったと、国民の多くが気づいた。
東京の人間が、だんだんとおかしくなっていったのだ。
具体的には、その雲を見た者は、著しく決断力が衰えた。
意思を決定する力が弱まり、着る服、食べるもの、話すことまで決められなくなった。
仕事に行こうか行くまいか、考えられずに無断欠勤が相次いだ。
経営者も、為政者も、大事な決断を迫られる場面に身を置くことすらできなかった。
テレビ局は放送を放棄し、エッセンシャルワーカーは都会を浄化できず、あっという間に東京はディストピアと化した。
首都としての機能が壊滅状態となったため、他の都道府県が、あらたな首都に名乗りをあげた。
大阪、京都、名古屋、福岡、北海道、宮城、愛知、神奈川。
どれも良くて、どれも微妙だ。
はて、どうしたものか。
選択するのは、残念ながら立候補した側ではなかった。
どこに移したらいいものか、延々決めあぐねているという。




