残業
初めまして!もしかしたら既に私を知っている人がいるかもしれません。柊漓虎です。夏のホラー2023には2回目の投稿です。
それではお楽しみください!
今日の話は私、澗口鏡歌が体験した帰り道での出来事です。
毎日残業。昨日も一昨日も先週もずーっと残業。逆に定時で帰れたことなんてあったかな、と思うほどここのところ残業が続いている。そのため、いつも終電ギリギリに駅に駆け込む。
今日もその繰り返しで終電に駆け込んでため息。電車内に客はほとんど居ない。見かけるのは同じく残業帰りのサラリーマンかそこらで飲んできた酔っ払いくらい。
酔っぱらいの意味不明な言動を見て再びため息をつく。
最近の会社はブラックなとこが多いのか知らないけど若者をコキ使いすぎじゃないかと思う。新人である若者の精神を削り過ぎたらそれこそ今問題になってる人手不足に繋がるんだから。私だってまだ24歳なのに…。
そんなことを考えていたら目的地に着いたので電車を降りる。視界は闇に包まれていた。乏しい電球の明かりが私を照らしている。その電球の周りには蛾と思わしきものが飛んでいて虫嫌いな私には少々気持ち悪い。
改めて不気味だな、と思う。朝出勤するときは人がそこそこいて賑わっているのに夜になると途端に静まり返る。
怖いから早く帰ろうと思い足を進ませたがすぐに止まる。…今何時?
「1時…半……」
いつも確認している時間だけど、今回は変なことを考えたせいでその数字が恐ろしく感じた。
「大丈夫、なにもないから」
いつも変な事件は起こっていないから、と自分に言い聞かせて歩き始めた。
都市から若干離れたところに住んでいるので急に田舎臭く感じる。田んぼが多いわけではないが無いわけでもない。しかもこういう時に限って人っ子一人歩いていない。周辺にアパートとか一軒家はあるくせにどこも電気は消えている。まるで私だけがこの街から追い出されたみたいに。
その時、後ろから音が聞こえた。一瞬身体が強張ったがすぐに人の足音だと気づき安堵する。
なんだ、人、歩いてるじゃん。
そのままペースを変えずに歩いていると不意に生暖かい風邪が私の耳をくすぐった。びっくりして振り返るも誰も居ない。気のせいかと思ってまた歩き始めると、今度は左側から。怖くて速歩きにしても後ろの気配はなくなることなく、ぴったりとくっつくかのようにまとわりついている。
「い、いや、誰…?」
勇気を振り絞って後ろの相手に呟く。しかし返事はない。一瞬で恐怖が迫り上がってきて慣れないヒールの靴で必死に走った。後ろの足音もそれに連れて大きくなる。
「いやあああぁぁぁぁぁ!」
手に持っていたバックを後ろに振り回すと、ドスっと鈍い音が響いた。
「え?」
しっかりと何かを殴った感覚に思わず足を止める。そして後ろを振り向いた。
しかし、そこには誰も居なかった。
大量の冷や汗を流しながら再び走り出しなんとか家に着いた。今日のは夢だ、幻だ。呪文のように唱えながら私は就寝した。
ちゃんと寝られるはずがなく、洗面台で見た私の顔にはクマが出来ていた。そこで私はハッとした。
「そ、そうだ、警察…」
昨日のことを警察に知らせなければ。翌日じゃ遅いかもしれないけど対応はしてくれるだろうと一縷の望みを持って警察に電話をした。
「も、もしもし…」
「はい、警察です。どうしましたか?」
私は昨日のことを何一つ隠さず警察に伝えた。もちろん、自分が誰かを殴ってしまったことも。
「場所はどこですか?」
昨日の大まかな場所を伝えると警察は軽くため息をついた。
「鏡歌さん、あなたよく助かりましたね。あなたのしたことは正当防衛です」
私はうまく意味が汲み取れなかった。警察は言葉を続けた。
「あなたが教えてくれた場所の近くの田んぼから気を失った男性が出てきたんですよ。その男性の顔には痣があったんですが、それはあなたが持っていたバックで殴ったからでしょう。ああ、あと、その男性、ストーカーと通り魔で有名な人だったんです。あなたの対応が遅ければ殺されているところでした。犯人は無事逮捕されましたので安心してください。くれぐれも夜道には気をつけて帰ってくださいね」
「残業」どうでしたか?前回の参加した小説は学生が主人公でしたが、今回は社会人にしてみました。期間中、また企画に参加するかもしれません。ちなみに、前回は「ずっと、一緒。」という作品で投稿しました。他にも企画以外で書いている作品があるので、そちらもよければ読んでいただけたらなって思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました!