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under rain  作者: 亮太 ryota
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第二話 「祭囃子」 chapter 2

 白猫の案内で斉藤が身を隠している場所に同行すると、彼女は複雑な心境を覗かせるえも言われぬ顔で二人を迎えた。

 白猫には道中で簡潔に相川の事を知らせた黒猫も、斉藤にはその真相を伝えなかった。事が事であり相川の行動が全てを物語っているが、この状況下でめそめそされては脱出もままならない。


「山田組の気配は今の所ない。外はどんな感じだった?」

 白猫もまた彼女にはまだ伝えず、廃工場からの生還と脱出に気持ちを据えるようだ。黒猫の見た限り、白猫にも斉藤にも目立った外傷はない。どうにも山田組が関わっているにしては、都合が良過ぎている気がした。


「誰もおらんかったぞ。派手に暴れるあいつらが、拉致監禁しといて何もしてけぇへんってのはあり得へん」

 自身の所業を棚上げして黒猫は答える。ドンパチを想定して武装してきた彼は不完全燃焼気味である。

「それもそう。とりあえず、何か武器を貸しなさい。こんな重いの使ってられない」

 溜め息混じりの白猫がバールを杖のようにしながら、黒猫へ手頃な武器を要求する。

「ナイフで我慢せぇ、銃はこれだけや……斉藤はどうする?」

 バールも案外様になっているように感じた黒猫だったが、足手纏いにならない程度の武装を渡す。


 黒猫は基本的に刀と拳銃を駆使して戦う事が多いが、それしか能がない訳ではなかった。刃物全般の扱い方は虎徹を現代にて魔改造して創り出した人物から教え込まれ、更に銃の扱い方は銀猫から叩き込まれた。武器を持たない状態からでも相手の武器を奪って、徒手空拳すらも日々の悪漢達とのエンカウント戦で培われている。


「私は……バール? で大丈夫です」

 斉藤は黒猫の持つ拳銃や刀を見て、少し遠慮がちにバールを抱えた。単純に武器が恐ろしく感じた事もあるが、使い方が分かりやすくリーチもあるバールが望ましくもある。

「斉藤さんは自衛ぐらいの気持ちでいてください。もし襲われそうになったら思いっきりぶん回せば大丈夫です」

 白猫は手に持っていたバールを斉藤へ渡す。的確な説明に思えたが、先程襲い掛かられた黒猫としては周りへの配慮を優先してもらいたい所である。

「とりあえず二人は無事やったし、こっからは俺も遠慮なくぶちかませるわ」

 黒猫にとってはここからが主戦場と言えた。敵対者を殲滅するという単純明快なやり方が彼本来の仕事の流儀である。

 潜伏する存在はいないと判断してライトを存分に使うと廃工場の中は随分と歩きやすかった。闇に包まれた室内も快適に進み、入り込んできたシャッターの抜け穴から脱出出来た。


 晴れていた空がいつの間にか薄くどんよりと曇っていた。今にも雨が降り出しそうな空とスクラップに紛れる不穏な人影が黒猫達を待ち受けていた。


「黒猫って通り名はお前には似合わないと思うぜ。クソ生意気なガキんちょよりも、妖艶でセクシーな女にこそ相応しいだろ」

 高く積み上げられた廃材の山の上で、一人の男が押し付けがましい持論を垂れる。

 黒猫は暗がりでよく見えないが複数人に取り囲まれた事を察知する。これまで不自然な程に手を出してこなかった山田組がとうとう姿を現したようだ。

「お前が真鍋か? 回りくどいやり方しよって、ビビってたんか?」

 黒猫は手持ちのライトを向けて高説を宣う男を照らす。光量が足りず表情を窺い知ることは出来なかった。

「正解! ビビったとかとは違うんだな。こういうのは演出が大事なんだ。それより真琴ちゃんと楽しんだか? キメてるともう堪らないんだ。俺達は兄弟みたいなもんだろ」

 場違いな程に高揚した真鍋は舞台役者気取りの大きな身振り手振りで声を発する。薬物による症状か、はたまた素の人間性からくるのか。


「斉藤さん、危ないので中に隠れてください」

 白猫は安全確保を優先して動く。周囲に潜む悪意から斉藤を遠ざけて黒猫から少し離れた場所に並び立つ。


「真鍋さん、無駄話はそれくらいで。祭の続きを始めましょうよ」

 業を煮やした手下達がぞろぞろと暗闇から姿を現した。黒猫としても気狂いジャンキーと長く話すつもりもなく、さっさと本題に入りたい所ではあった。


 突如唸るようなエンジン音を上げて二台の車が廃工場前に滑ってくる。ハイビームに照らされた黒猫は顔を顰めて何事かと待ち受けた。

 その車は自動運転が主流になり、現代では珍しいとされる古の時代のクラシックカーであった。マニュアルトランスミッションかオートマチックトランスミッションかで分けて免許を発行していた頃の名残りで、自動運転技術の進歩で運転免許すら義務教育に統合された今は骨董品に近い。

 二台の車を中心に向かって対称に停車させると、光で即席の決戦場染みた場が作られた。意図が汲めない黒猫は不機嫌に真鍋を睨み付ける。


「マニアックだろ? 山田組のやり方でな、不義理のリンチはサシのステゴロって決まってるんだ。多少のルール変更は聞いてやる。祭は楽しくなきゃやってられねぇだろ」

 スクラップから軽快に飛び降りて、真鍋は仰々しくステージの中央に躍り出る。ひょろ長く線の細い体は糸で吊られた操り人形のようで、顔の中心に寄った三白眼は左右で微妙に違う方向を見ている。

 

 宿敵同士が顔を突き合わせて一体何をしようと言うのか。山田組の言う祭の意味を何となく察して黒猫は、黴臭い風に乱れた長い髪を掻き上げた。

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