わたくし、長辺 奈子と申します
こんにちは、私、はげぬる王国に住んでおります長辺 奈子と申します。奈子と呼んでくださいまし。私の住む地域にはおかしな方たちが沢山住んでいらっしゃるんです。今日はそんな方たちの紹介をさせていただきましょう。
「あ、奈子さんおはよ〜」
この男性はぬいぐるみ殺人鬼さん。ぬいぐるみの振りをして100万通りの殺し方で殺人事件を起こした伝説の男なの。毎日100人ずつ殺害しているらしいわ。殺人鬼なのに普通に挨拶してくるからめっちゃ怖い。
「奈子さん、今日もいい天気ですね!」
この男性はストロー男・陽さん。歩きながらドリンクを飲んでいる人を見つけると、自前のストローを勝手に刺し、好きなだけ吸って去っていく。指名手配犯なのに普通に挨拶してくるから怖い。
「奈子さん⋯⋯今日もお綺麗ですね⋯⋯」
このじめっとした男性はストロー男・陰さん。歩きながらドリンクを飲んでいる人を見つけると、自前のストローを勝手に刺し、唾を注入して去っていく。指名手配犯なのに普通に挨拶してくるから怖い。
せっかく面白い人たちを紹介しようと散歩しているのに、指名手配犯にしか会わないなんて、今日は運が悪いわねぇ。
「にゃあ〜〜〜にゃぁああ〜ん」
この子は女子大生のミーシャちゃん。学校の銅像に毎日鼻くそをつけてたら螺髪みたいになって、めっちゃ怒られて停学中らしい。大学も停学ってあるんだ。
「にゃぁああああああああ! あああ!」
暇なので国王様のモノマネの練習をしているところだったそうだ。このミーシャちゃん、実はとんでもない特徴を持っている。歯がめちゃくちゃ硬く、顎の力もワニ並なのだ。いつも公園にあるピラミッドを齧っている。あ、今から齧ろうとしてる!
「奈子さん、おいしいよ! 奈子さんも食べなよ!」
『せっかくだし、ご一緒させていただこうかしら』
私たちは仲良くならんでピラミッドを食した。
『ご馳走様、じゃあねー』
まだ食べているミーシャちゃんに別れを告げ、また歩き出す。
「ご馳走様って言われても、このピラミッド私のじゃないからね。公園の人に見つかったら怒られるからね」
いつも食べてるミーシャちゃんに説教をくらうとは。ミーシャちゃんは何度も怒られているのだろうか。ちなみにピラミッドは砂の味だった。今も口がジャリジャリしている。まあ、口なんて無いんだけどね。
この国に来て7年経つが、まだ私のことを珍しそうに見る人は多い。いくらはげぬる王国といえど、私のような髪の毛だけの存在は珍しいのだ。
とはいえ、普通の生活は出来ているつもりだ。会話も出来るし、買い物も出来るし、食事も出来る。会話する時は私の髪を相手の脳に刺し、少し動かすことで意思を伝えることが出来る。買い物も自由に動かせる髪で難なくこなしている。食事は髪をストローのように使って栄養を取っている。この髪ストローを使えば人の脳を吸うことも出来る。絶対にバレないので完全犯罪が可能だ。
「おや、奈子さんではありませんか。あなたもこちらのスーパーによくいらっしゃるんですか?」
当然のように全裸で歩き回っているこの男は、このはげぬる王国の国王・ウヌルァーン様だ。全裸は普通に考えてNGなのだが、この国王は自分の気に入らない者や楯突いた者をすぐに粛清してしまうのだ。なので誰も何も言えない。
『家から1番近いスーパーなので、重宝してます』
奈子は例によって国王の頭に髪を刺し、会話をしている。
「にゃぁああ〜〜! にゃんっ」
出た、国王の発作だ。国王は満月を見るとみるみるうちに体からネクタイや靴下が滲み出てきて、最終的にスーツをビシッと決めたイケメン国王になるのだ。そして鳴き声が猫っぽくなる。でもおかしいな、今は昼だから満月は出ていないし、そもそもここは室内だし。
「あ、そういえば奈子さん。あなたの息子さん、今日私のことを全裸マンと揶揄しました」
背中がぞわっとする。背中などないのだが。私の大事なひとり息子が、この暴君に粗相をしてしまった⋯⋯
「今お墓でお通夜してますよ」
ああああああああぁぁぁああああ!!!!!
黒男が! 私の大事な黒男がぁ!!! こ、こ、殺してやる、殺してやる殺してやるぅ!!!!!
「では、失礼致します」
『はい、ではまた』
えーっと、今日はツナカレーにする予定だから、ツナ缶買わなきゃ。カレールーはいつも買ってるやつでいいかな。黒男もいつも喜んでるし。シーフードミックスも買っちゃおうかな。ダシ出るし! 人参は黒男が嫌がるから、野菜は玉ねぎとじゃがいもだけにしようかしらね。
全部揃えた私は、会計を済ませ家に向かった。