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ヒソヒソ( ´д)ヤダァ(д` )ネェ、キイタ?( ´д)オクサン(д` )アラヤダワァ

「あの人すごい顔してるね」

「顔もそうだけど、頭ツルツルで眉毛も無いよ」

「女性っぽいね、けっこう綺麗かも」

「てか、あの人テレビで見た事あるかも!」

「憤怒って辞書で調べたら図として載ってそうな顔してるね」


 無い眉を吊り上げ、赤く充血した目を見開き、歯を食いしばっている。そして周囲の人間を1人残らず睨み倒している。しかし、その顔はなんとも美しく、この街で有名なとある人物に似ている。


「チッ、どいつもこいつも人の顔見てヒソヒソ言いやがってよ⋯⋯」


 彼女はいつものようにテレビ局へ向かう。女優というわけではないが、7年ほど前からよくテレビに出るようになった。


「さぁ今夜も始まりました、世界の不思議大辞典!」


 今日彼女が出演するのはゴールデンタイムに放送している大人気バラエティ番組のようだ。この番組は世界の不思議を解明すべく、現地に赴き本人たちに話を聞きに行く。今回のゲストである彼女は近所に住んでいるので、スタジオまで来てもらったとのこと。


「宇宙人は見ましたか?」

 

 司会の男性が彼女に質問している。


「見てねーつってんだろうが! 何回答えてると思ってんだ!」

 

 他の番組でも同じことを何度も聞かれているのだろう。人気者はこういうストレスもあるようだ。


「では、UFOは見ましたか?」


 少し怯え気味の表情で司会が再び質問をする。


「アダムスキー型UFOだったって言ってんだろーが! 他の局で出した情報をわざわざ聞くんじゃねぇ! そんな誰でも知ってる情報ばっか放送してると視聴率0%だぞ!」


 イライラした女性は溜まった怒りを司会にぶつけている。


「先日UFOに毛を連れ去られた長辺(ちょうへん) 奈子(なこ)さんでした。ありがとうございました」


 こんな調子で番組は終わり、彼女は帰路についた。最初の頃は持て囃されて楽しかったが、最近は同じような質問をされるだけで、なにも面白くない。

 

「はぁ⋯⋯」


 ナコは大きなため息をついた。こういった番組に出た夜は必ず思い出すのだ、あの日のことを。7年前、私から全てを奪ったUFO。あれ以降髪の毛が1本も生えないのだ。それから私は仕事を辞め、実家に戻り親のスネを齧る生活を送っていた。


 ちょうどここだ。この道のこの場所にUFOが来たんだ。ナコはその場所に立ち、しばらく目を瞑って動かなかった。何かを思い出しているようだ。


――


 ファンファンファンファンファン


 UFOの出す謎の光によって髪を引っ張られ、宙に浮くナコ。


「痛い! 誰か助けてぇ!」


 そんなナコの必死の叫びも虚しく、ブチブチと髪は抜かれていった。最終的に頭はツルピカになり、眉毛も無くなっていた。


「返せーーーーーっ!」

 

 ナコの声はUFOには届かず、どこかへ消えていってしまった。一瞬の出来事だったのでしばらくは現実を受け入れられず、次の日の夕方までその場で1人笑っていたという。


――


 目を開けたナコは、今私の髪はどうなっているんだろうか。と空を見ながら考えた。ナコよ、お前の髪は立派に生きているぞ。はげぬる王国にて立派に母親をやっている。


「あれから7年。私には自我も芽生え、家事も出来るし、ご飯も食べられる。まさに人間ね」


 黒い物体が独り言を言っている。彼女の名は長辺(ちょうへん) 奈子(なこ)。体のほとんどが髪で出来ている。7年前UFOに連れ去られ、宇宙人との間に子どもを作らされた。宇宙人が奈子を狙った理由は、毛というものが珍しかったからだという。


「今日は授業参観だから、おめかしして行かないとっ」


 奈子は張り切っていた。人生初の授業参観だからだ。小学1年生の息子はそれはそれは可愛く、いつでも見ていたいほどだ。そんな息子が学校で活躍する姿が見られるなんて、とワクワクしている様子だ。


 学校に着いた奈子は、息子のいる1年1組の教室へと向かう。なんと、今日は給食も一緒に食べられるというのだ。奈子にとってはこの上ない幸せだろう。程なくして、授業が始まる。


「ぼくのお母さん。1年1組長辺 黒男(ブラメン)


 タイトルを聞いた瞬間、奈子の目には涙が溢れた。目など無いのだが。作文を発表するとは言っていたが、何を書いているのか頑なに見せてくれなかったのだ。


「ぼくのお母さんは髪が自慢で、すごくツヤツヤできれいな髪をしています。みんな第一印象が髪だと言います」


 うんうん、そうだね、と頷く奈子。


「夜は、お母さんと一緒にお風呂に入ります」


「ヒソヒソ」

「黒男、かーちゃんと入ってんのかよ」

「ヒソヒソ」

「あー恥ずかし、やーいやーいマザコン」


 奈子は悪口を言った生徒全員に髪を刺し、脳を少し刺激してあげた。


「黒男くんは素晴らしいと思います」

「黒男くんは素晴らしいと思います」

「黒男くんは素晴らしいと思います」

「黒男くんは素晴らしいと思います」


 奈子はうんうん、と涙をためながら頷く。


「お母さんはいつもぼくの頭を洗ってくれます。ぼくの髪を洗うお母さんは、まるでカツラのようです」


 黒男は実は人間ではない。人間の髪と宇宙人のハーフなのだ。体がとても細く、肌は完全な黒色である。鏡に映る彼の姿はまさに大の字だ。大の字になって寝転がるというのを唯一完璧に実行出来る存在だ。


「夜はお母さんと寝ています。たまに首が絞まりますが、大好きなお母さんなので大丈夫です。おわりです」


「ヒソヒソ」

「やだぁ」

「ねぇ聞いた? 奥さん」

「あらやだわぁ」


 今度は保護者たちが騒ぎ始めた。奈子はわざと首を絞めているわけではない。勝手に絡まってしまうのだ。例によって髪の毛を脳に刺す奈子。


「あなた方親子は素晴らしい親子です」

「あなた方親子は素晴らしい親子です」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「あなた方親子丼は素晴らしい親子丼らしい親子丼です」


 1人おかしくなってしまったが、仕方がないことだ。それから楽しく皆で給食を食べたのであった。


――


「あーほんとに私の髪どうなったんだろ」


 ナコはまだ空を見ていた。またUFOが来るかもしれない、そう思っていつも見ているのだ。しかし、あれ以来全く現れなくなっていた。


 テレビ出演で多少は稼げてはいるが、いつまでもこんな事をやっていても仕方ないとナコは思った。はやく何かを始めなければ⋯⋯!


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― 新着の感想 ―
[一言]  同じネタでテレビに何度も出てる人は、同じことを繰り返すの、大変ですね。  落語家さんとかも、同じネタ何回もやるから大変だなあ。……って、それは、ミュージシャンが同じ曲やるのと同じか。  本…
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