入社式行ってきた!
こんにちは、ナコです! 今日は入社式です! 私が入る会社はこちら、株式会社芋冷やしです! ひたすら芋を冷やすことを生業としている企業で、地元の方からとても愛されているんです! 私にピッタリだと思いませんか?
「エー、ヘムホムバ、ロビスボンボ、ムミス、ボルバ」
お辞儀をし、席に戻る社長。心に染みるいい言葉だった。なに言ってっか分かんなかったけど。
こんな大事な日なのに、めちゃくちゃ鼻水が出る。朝からこうなんだけど、ポケットティッシュもう2つ目開けてるよ。今お食事会なんだけど、全然食べられない。
「大丈夫? ナコちゃん」
心配してくれているのは高校時代からのお友達のあさひちゃん。高校時代は私と並んで学校一の美少女と呼ばれていた。てへ。
「もう鼻水凄すぎてやばいよ⋯⋯鼻もかみすぎてめっちゃ痛い」
もう私の鼻真っ赤っかよ。具体的に言うと、美味しいイチゴくらいの赤さ。
「安いティッシュだとすぐ痛くなるよね」
まだあさひちゃんが心配している。駅前で配ってたやつだからなぁ、これやっぱあんまり良い紙じゃないのかな。
「それにしても本当に凄いね、鼻水」
あさひちゃんがそういった直後、私の前にコップを持った男性社員が来た。男性社員は私の鼻の下にコップを差し出し、私の鼻を押した。すると、鼻から黒い液体が注がれた。彼はドリンクバーと勘違いして私のところへ来ていたようだ。
「ナコちゃん、あれなに味なの?」
「醤油味。っていうか醤油そのもの」
一気飲みした男性社員が救急車で運ばれ、私は殺人未遂の容疑で捕まった。これって私が悪いの?
「すげー、これが養老の滝かぁ」
警察署に着くと、私の鼻を養老の滝と勘違いした観光客が集まってきた。
「なんだ、養老の滝か」
私を捕まえていた警察官はそう言うと、私の手錠を外し、解放してくれた。そうだよね、滝を逮捕する訳にはいかないもんね。
「おかえりー! もうお食事会終わっちゃったよ! ちょうど今からお仕事の説明!」
あさひちゃんが小声で教えてくれた。エクスクラメーションマークついてるけど、小声だったよ。
ゴロゴロドーン!
雷が落ちた。この音はだいぶ近いのではないだろうか。
「きゃあ! へそだけ出しビキニ着てるからこわい!」
あさひちゃんが雷様にへそを取られるのではないかと怖がっている。そんな迷信信じてるなんて可愛いね。へそだけ出しビキニって名前なんだねその穴の空いた全身タイツ。ていうか全身タイツで入社式ってすごいね。
しばらくして、雷が収まった。あさひちゃんが焦るから私もなんか喉乾いちゃったよ。お茶飲も⋯⋯あれ、ないぞ。忘れちゃったかな。
「デスソースならあるけど、飲む?」
あさひちゃんが察して気を遣ってくれた。でもデスソースは飲み物じゃないだろ。
「辛いのはちょっと⋯⋯」
「そんなんじゃインド人になれないよ?」
そんな⋯⋯それは困る。
「じゃあ、ひと口ちょうだい!」
私はデスソースを勢いよく飲み干した。これで私もインド人になれる!
「そんなに飲んじゃダメだよ!」
あさひちゃんの言う通りだった。辛い、辛すぎる。もはや辛いなんてもんじゃない、痛い!
私は口から炎を吐き散らし、会場は見る見るうちに炎に包まれた。
「頭を低くして非常口へ向かうんだ! こっちだーっ!」
男の人が誘導している。
「こっちに来るなぁー! 助けてくれぇー!」
みんな私から逃げていく。まるで怪獣扱いだ。コメディなんだから辛いもの食べたら炎くらい吐くでしょ。そんな本気にしなくてもいいのに。
翌日みんなで出勤したら、倉庫にあった大量のさつまいもが見事な焼き芋になっていた。本来冷やすために仕入れた芋だったが、昨日の私の炎ビームで焼けてしまったようだ。
「うまーい!」
「うまい!」
「さつまいもにこんな調理法があったとは!」
「冷やすだけじゃないんだな、芋は!」
社員たちは各々感想を言い合っている。
「こんなの偽物だね」
ムッ、私の焼いた芋に文句があるのか、このヨレヨレのスーツを着た男は。
「みんなもこんなものをありがたがって食ってちゃいけない」
こんなものって、なんなんだコイツは。何様なんだ。
「みんな、明日またここへ来てくれ。本物の焼き芋を食わせてやる」
そう言うと、無礼な男は帰って行った。仕事ほっぽり出して帰るようなやつにとやかく言われるのは私も癪だ。明日は私も本気の焼き芋を作ってこよう。