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ショートショート3月~2回目

でかい私、小さい皆さん

作者: たかさば

 私はわりとでかい方だ。


 女性の平均身長はおよそ158センチというから、164センチの私はやや大きい部類に入ると思われる。


 平均身長というくらいだから、私より大きな人もいるはずなのだが。

 何故か…気のせいか、最近、自分より大きい人になかなか出会えない。


 学生時代は…私よりも大きな人がわりといた。


 藤井さんは私よりちょっと視線が高かったし、洋子ちゃんは175センチあってモデル体型だった、れなちゃんは170センチで細くてポニーテールがよく似合っていたし、そこそこ見上げる女子というものがいたように思う。


 ところがどうだ、ここ最近、自分よりも小さい人ばかり目につくのだ。


 バイト先では私が一番背が高いし、本屋に行けば小さなおばあちゃんにあそこの本を取ってくれんかねと声をかけられる。

 買い物に行けば、自分より小さなおばちゃんたちの後ろに並んでお会計を待つことになる。


 おかしいなあ、人類(主に女子)は皆縮んでしまったのか……?


 いやいや…娘は170あるので私よりは大きい。

 でかい女子はいるはずなのだ。


 だが、どうにも日常生活において私よりでかい女子が見当たらない。


 病院に行けば胸辺りまでの身長しかないおばあちゃんとすれ違うし、買い物に行けば棚に手の届かないチビッ子サイズのおばちゃんに遭遇する。

 毎朝公園ですれ違う女性たちもみな…寒くて背を丸めていることもあるだろうけど、やけにこう、小さいのだ。


 とりわけ…週3日通っているスーパーのオープン前、店出入り口の自動ドアの前に並ぶときに驚愕する。


 いつも行くスーパーには2階部分に道路を挟んだ向こう側にある駐車場とつながる屋根付きの通路があり、そこに開店待ちの皆さんがずらりと並ぶのだが。その皆さんのつむじが…丸見えなのだ。


 つむじって、明らかに自分より背が低い人じゃないと見えないっていうか、低いと見えちゃうっていうか、なんかこう、目に付くって言うか…。

 目の前にずらりと並ぶつむじを見ると、自分のでかさをまじまじと感じてしまうのである。

 人気の店なので、20~30人くらい並ぶのだけど、まあ、そろいも揃って小さいのなんの…。

 なんで私はこんなにもでかいんだろうと、毎回毎回、思い知らされてしまう。


 ……ふわりと脳裏を横切るのは、学生時代の苦いワンシーンだ。


 ―――ええー、自分よりでかい女はちょっと!

 ―――ムリムリ、女は小さい方が良いでしょ!

 ―――あいつでかくね?つか絶対俺よりも重いじゃん、ヤダよあんなの!


 わりと身長を気にせず恋愛につっ走った私は、ボチボチけっこうかなり相当頻繁にきつい言葉を受けた経験があり、そのトラウマ的なものがバッチリと魂に刻み込まれていたりする。

 ああ、ここに並んでいるちびっ子い皆さんは、きっと背の低い男子達に好きと言えて好きと言ってもらえてラブラブした青春を送ったんですねイイですね150センチない人は愛されてどうせ私はでかくて可愛くないから恋愛対照にすらなれなかったんですけどねと卑屈になってしまうほどに、私は傷ついた魂を抱えているのだ。


 平日の朝10時という事で、男性客がほとんどいないってこともあるけど、明らかに自分が一番背が高くて、微妙にこう、げっそりしてしまうのだな……。

 平日の朝10時という事で、女性客のほとんどが年配の女性ってこともあるんだよ、明らかに成長期をとうの昔に終えた、縮んでいく世代ばかりで、絶妙にこう、げっそりしてしまうのだな……。


 …ああ、でもそろそろ自分も背丈の縮んでくる年齢だ。

 この忌々しいデカイ体が縮めば、このような苦々しい気持ちも湧かなくなるのかもしれない…。


 自分もいずれ小さな人間になれるのだろうか……。

 自分もいずれ物を取ってあげる側ではなく、取って貰える側に回ることが出来るのだろうか……。


 そんなことを思っていたら、車の中にクリーニングに出さないといけないスーツがあったのを思い出した。

 しまった、持ってくるのを忘れてた、取りにいかねばなるまい……。


 つむじの並ぶ出入り口前からくるりと方向転換をし、駐車場へ向かおうと。


 …前方に、やけに大きな…女性たちがいるのを見かけた。

 私の後方に並んでいた女性達のうち、何人かが…明らかに私よりも大きいのだ。

 若い世代の人たちじゃない、お年を召した方も、同世代もいる……。


 なんだ、大きな女性もいるじゃないか、そう思って、一歩二歩と歩いていたら、お店がオープンしたようで…人が流れ始めた。


 私は常日頃から自分が大きいことを自負しているので、自分よりも大きい人を見かけると、ついどれくらい大きいのか確認したくなるくせがある。

 すれ違う人をそれとなく横目で見ながら、その大きさを、確認……。


 ……あれ?


 なんか、こう、違和感が……。


 すごく大きいなあと思ってた皆さんが、なんかこう、やけに…小さいというか、あれえ?


 これは一体どうしたことかと、立ち止まって振り返り、すれ違った人を目で追ってみると。


 ……ちょ!


 つむじ、見えとるがな!!!


 スーパーの出入り口の中に吸い込まれていく人たちのつむじが、思いっきり見えてるんですけど?!


 これはどうしたことかと思ったら……何のことはない、実は通路が傾斜していて、出入り口側が低くなっていただけだったという……。


 世の中には、おっちょこちょいで思い込みの激しい人がいるんだよという、あきれた話ですよ……。


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