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令嬢騎士と平民文官のささやかななれそめ  作者: 礼(ゆき)
『令嬢騎士と平民文官のささやかななれそめ』長編版
65/90

第55話:トワイニング家からの招待状

 今日の午後に、実家へ赴くことは知らせていたので、祖母と母はいると思っていた。

 まさか、そこに父と祖父までいるとは思わず、目を剥いた。


 うちで一番広く、豪華な応接室へと案内される。

 豪華と言っても、一般的な貴族と比べてであり、フレディの実家と比すれば地味。建国以来、伯爵家としてやってきただけの歴史的な調度品が飾られていることで体面が保たれているにすぎない。


 家族全員にフレディを紹介し、フレディにも私の家族を紹介した。

 父と祖父は、神妙な顔をしていた。まるでお葬式に参列しているような顔つき。母はいつも通り、平静な表情。

 私と並んで座るフレディの真ん前に座る祖母が、背筋を伸ばし、真剣な表情で切り出した。

 

「一昨日、殿下と妃殿下が直々にいらっしゃいました」


 これには驚いた。

 横に座るフレディを見上げると、眉一つ動かさず、真顔で祖母を見つめている。


「直に対応させていただいたのは私ではなく、娘のアンナ。ルーシーの母ですが、彼女経由で殿下のご意向は受け止めました」

「それって、フレディとの婚約から結婚までも認めると言うこと?」


 祖母は力強く頷いた。

  

「殿下自ら、説得に来られたのです。我が家にとっては王命を授かったも同然です」


 根回しがすごい。

 私がフレディと遊んでいる間に、伯爵家まで足を運んでいるとは思わなかった。しかも殿下と妃殿下が二人で。

 この状況下では断れないわ。


 祖母は大きなため息を吐き、ぽつりと言った。


「もし、殿下と妃殿下が揃って、いらっしゃらなければ、うちとしましては、この縁談はお受けしかねました」

 

 私一人が、妃殿下からの紹介だといっても納得しなかったというなら、フレディが懸念した通りだ。

 私は慎重に祖母に問うた。

 

「それはフレディが平民だからダメなの」

「そういう反対ではないわね」

「商家だから」

「それも違うわ」

「理由を聞いたら、教えてくれる?」

「フォーテスキュー一家の方だからよ」

「それは商家としてなりあがってきた経緯が気に入らないの」

 

 彼曰く、宿場から金貸しなど初期は綺麗なことだけでなく手広くやっていたという。その成り立ち、または、城を買い取った経緯もあるらしい。商家が城を買い取ったことを快く思わない貴族もまだいるとフレディは言っていた。

 祖母は過去に照らして、彼の家を判断しているのかしら。


 祖母は首を横に振った。


「子細はいいの。

 ルーシー、私たちは殿下の意向に従う、それだけです。

 フレデリックさん。グレイス家当主として、私はあなたを迎え入れます」

「ありがとうございます」


 祖母は威厳をもって言い切り、フレディは慇懃に受け止める。


 この関係はなに?

 平民だからというわけでもなさそうだわ。

 祖母がこんな強い態度で臨む理由が分からない。

 

 領地の経営には厳しくても、私については甘い祖母らしくない。

 

「ねえ、お婆様。私は殿下と妃殿下に紹介されたからフレディを選ぶのではないのよ。ちゃんと、この方がいいと思っているの。

 フォーテスキュー一家をお婆様がどう受け止めているのか、わからないけど、彼自身はとても優しくて、良い方よ。

 彼の実家も暖かい家庭だったわ。

 家という色眼鏡じゃなくて、ちゃんと彼を見てもらえれば、申し分ない方だと分かるはずよ」

「ルーシー。そのようなことはもう分かっています」

「本当? 私は、ちゃんと彼が好きよ。フレディと結婚したいと思っているわ。私の気持ちも含めて、分かってくれている?」


 祖母は表情変えず受け止める。

 視界の端に、父が一人掛けの椅子でうつむく姿が映る。

 

 母が口を挟んできた。


「お母様。ルーシーはなにも知らないわ。我が家についても、フォーテスキュー家についても。

 ルーシーにとっては、妃殿下からのご好意としての、ご紹介、なのよ」

「それは分かっています。

 よりによって、フォーテスキュー家からというのがね……」

「フレディのご実家となにがあるの?

 彼の家では、我が家から出た将軍を褒めていただけたわ。フレディの実家はうちのことを悪く思っていなかったのに」

「そうでしょうとも。

 かの家が台頭していく足がかりとなったのは、将軍による頑なな不戦の姿勢なのですもの」


 小国、つまりは現在のトワイニング公国、当時のトワイニング皇国との戦争が無かったからフレディの実家が台頭できたとは聞いている。

 商家の台頭と、将軍が不戦を貫いたことが間接的にかかわっているだけじゃないの?


「過去がどうあれ、私とフレディには関係ないはずでは?」

「ルーシー」


 祖母は黙り、母に名を呼ばれた。


「なんでしょうか、お母様」

「長い時のなかで、再び動き始めたことがあるのよ。それは建国時に貴族として立ててもらった経緯、武門の家柄として長らく認知され、将軍まで輩出し、ある時、不戦を望むことで没落した過程までも包括するの。

 そして、今もまた、フォーテスキュー家とご縁を得て、もう私たちは表舞台からゆっくりと消えていくはずが、こうやって家名だけ利用されるように駆り立てられることを含めて、因縁を感じているだけ」

「そんな古くからえにしがあるの?」

「ええ、そうよ。古い家ですもの、なにもないということはないのよ。でもね、結局は、私たちはあなたの心配をしているだけなのよ」


 母がフレディを見つめる。


「この数日、あなたが休みを希望し、ルーシーと出かけられていることも殿下から聞きました。

 そのために、数日分の仕事を睡眠を削って為されていることも伺っています。

 フレデリック様、あなたが一人の女性にそのように時間を割くことは今までになかったと殿下はお話しされていました。

 妃殿下からは、()()()()()()()フレデリック様が、珍しく興味を示しているともお話されていました。

 どれだけ、ルーシーに良くしていただいたかは、この子がこの屋敷に帰ってきた時にはもう見てわかっております」


 私ははたと衣装を見た。

 彼が用意してくれた衣装に、昨日もらったレッド・ベリルが添えられたアクセサリーも身につけている。それらを見て、母はフレディの心を看破したのだろう。


「フレデリック様、あなたが私たちの娘に誠意を示してくれたことに心より感謝いたします」


 母が頭を下げた。

 父は少し悲しそうで、祖父は優し気に私を見ている。


 祖母だけは真顔でフレディと私を凝視する。

 そんな祖母の手へ、背後から近寄った侍従が何かを渡した。それはハンカチに包まれた手紙だった。

 真っ黒い封筒だった。封蝋がされている面を上に差し出される。

 くっきりと押された紋に見覚えはなかった。


「フレデリック様は見たことがおありかと思います。

 これは、辺境のトワイニング公国を治める、トワイニング家からの招待状です」



 






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