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令嬢騎士と平民文官のささやかななれそめ  作者: 礼(ゆき)
『令嬢騎士と平民文官のささやかななれそめ』長編版
40/90

第30話:女史から見た彼の評価

 時間がないと、パール女史は衣装を持たせたフレディを「別室で着替えてきて」と一室に追いやる。着替えが終わるまで、その部屋にいるようにと念を押し、扉を閉めた。


 振り向いたパール女史は私を見定めるように再び上から下までじっと見てから、「着替えましょう」と言った。


 私たちは急いでドレスの着替えを始める。彼女の手際は良く、店で着替えた時より、幾分早く着ることができた。胸周りも調整されており、フィットする。


「すごいですね」

「なにが」

「サイズが合っている」

「即席よ。時間がなかったもの」


 パール女史は、一人掛けの椅子を運んできた。大鏡の前に置くと、私に座るように指示する。私は言われるままに椅子に座った。


 ブラシで綺麗に髪を梳きはじめる。


 仕事をこなす、パール女史の顔は真剣。引き締まった表情はかっこ良かった。


(できる女性ひとよね)


 商家の顔を見せたフレディと彼女は、つり合いがとれている。


(こんなに素敵な女性が身近にいるということは、他にも素敵な女性が身近にいてもおかしくない。年頃の商家の娘さんだって大勢いるわ。フレディが結婚しないまま来た理由って、ただ縁がなかっただけなのかしら。結婚しようと思う女性が現れなかったから?)


 殿下の意向をくみ、フレディを紹介した妃殿下。もしフレディに恋人がいたなら、二人が私を紹介することはないはず。

 堅実な仕事をしているフレディを見ても、恋人一人作らないほうが不自然な気がした。ぱっと見でも、彼は十分もてそうなのに。


(それだけ、殿下の元で働くのは激務だったのかしら)


 髪を梳いていたパール女史が、小首をかしぐ私の視線に気づいた。


「どうしたの、なにか気になることでもあるのかしら。それとも、なにか要望がおありですか」


 パール女史は手を動かしながら私に問うた。


「パールさんは、長年、フレディと働いているのよね」

「いきなり、それ?」

「とても親しそうに見えたのだもの」

「そうね。親しいと言えば親しいわ。彼が学生時代からの見知っているもの」

「そんなに長いんですね」

「まあね」

 

 手作業を続けるパール女史に、私はぽつりと本音を漏らす。


「ねえ、パールさん。私、フレディが結婚をしたがらないのも、恋人らしい女性ひとがいないのも信じられないの。

 昨日、会ったばかりで、今日、一緒に過ごしたけど、フレディなら独り身でいる方が変よ。商家の子息としても、文官としても、彼は申し分ないように見えるわ。

 文官だって堅実な職業だし、パールさん方を支援するような仕事だっけ、そういう仕事だって、よく分からないけど、すごいと思うのよ。

 そういうフレディに特定の女性がいないなんて、ありえない気がするの」


「そりゃあね。家の規模や仕事だけを見て、フレデリックを判断する人は沢山いるわよ。でもね、彼の場合、そういう女性ひとを見た時に、先が見えてしまうのよ。

 この女性ひとと一緒にいたらどうなるかってね。


 フレデリックは、堅実よ。ばくちは打たないの。


 彼の実家や、彼が保有している仕事から、彼を遊び金の提供者のように見る女性ひとは一定数いるわ。

 三男という立場も、気楽そうにみえるしね。長男や次男のような責任はなく、それなりの事業を保有し、そこから利益を得ている姿を見れば、この人の配偶者に収まれば、悠々自適に暮らせそうという打算を打つのは容易でしょう。

 フレデリック側からみると、自分のことを金づるとしか見ない女性ひとはやっぱり嫌なのよ」


「それは嫌ね。それってフレディ自身じゃなくて、彼の持っているお金とか権力ちからを、自分のために利用しようとしているみたいじゃない。

 利用されるために、結婚なんて、無理よね」

「そういうことよ。

 不測の事態だってあるかもしれない。時には事業を広げたいこともあれば、損切りし撤退する可能性もある。

 そうなった時に、遊び金で資金が溶けていたら、大変なことになるでしょう」


 パール女史は手を動かしながら、淡々と話し続ける。


「そもそも、フレデリックは、事業で得たお金は次の投資に回したいタイプなの。循環させたいのよ。そこを、伴侶だからと我が物顔で、踏みにじられたくない。それがフレデリックの本音。

 生活だけなら、文官の収入だけで十分だものね。

 こちら側の世界にいると、彼をそういう目で見る女性ひとが多くてね。フレデリックはいつも警戒しているのよ」


「配偶者を探すのも大変ということなのね」

「そう。お金がある、ということもまた、配偶者を選びにくくするのよ。

 三食昼寝付きで、欲しい品は何でも買い放題。そんな勘違いをした女性ひとは願い下げなのよ」


「私、それなりの収入があれば、無難に結婚できると思っていたわ」

「出来るわよね。相手を選ばなければ。

 フレデリックの場合、事業を通して、どれだけ多くの人が生きているか、よく分かっているの。そういう繋がりを無視する節操のない女性ひとが嫌なだけよ」


「商家の世界で出会うのはそういう女性が多いのかしら」

「そうとも言えるわね。さっきも言ったけど、三男だもの。責任はないけど、能力もあり、稼ぐこともできるとなれば、打算的な女性ひとが寄ってくるのは避けられない。

 親の差し金と言うこともあるし、実家との繋がりもあるため、無下にもできない。

 色々、気遣うことが多くて、気難しくなっているのよ」


「気難しい? 誰が」

「フレデリックがよ」

「嘘。あんなに、親切な人が!」

「あなたの前では親切なのよ。本当に、なんでかしらね。出会った傍から、家族と親しい人にしか呼ばせない呼び名を許しているなんて。私からしたら、そっちの方が信じがたいわ」


 髪を結いあげたパール女史が、アメジストがあしらわれた髪飾りをつけてくれた。

 前に回り込み、私の顎をくいっと上げさせると、今度は大きな鞄を開き、中から化粧道具を取り出した。


「フレデリックは堅実で慎重なのよ。挑戦はするけど、無鉄砲や破天荒じゃないの。

 あなたも彼に対して、性急に判断していないわよね。似ていると言えば、似ているわね」

「慎重で堅実なのは、うちが武門の家柄だからですよ」

「武門の家柄だからこそ、好戦的で、武器の扱いに長けた武人になるのではないの」

「違います。将軍まで出した家柄だからこそ、最後まで戦わずに済む道をギリギリまで模索するものなんです。

 物理的に戦うのは最後の手段です。最初から戦いありきじゃないんですよ」



いつもお読みいただきありがとうございます。

時々、チェックするとブクマも増えていて嬉しいです。多謝。


追伸。誤字報告、とても助かります。



本編には出ない裏設定を少々。

パール女史の元性別は男性です。女装家ですね。

本編には関係ないので出てきません。

なので、ルーシーはずーっとパール女史を女性だと思っています。

一人称の小説なので、ルーシーの見方しか出ないのです。

地雷なりますかね?

この裏設定気に入らない方は、女性と思ってくださっても大丈夫です!

本編に出ることないので!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 先日より楽しく拝読させて頂いております 短編は後にしようと思い、長編から先に読んでいます ルーシーの堅実で誠実なところや、フレディの少し掴みきれないけど穏やかな雰囲気が好きです [気になる…
[一言] パール女史がもと男性という設定を聞いて、モヤモヤが減りました。婚約者候補の前で他の女性と親しい様を見せつけるなんて〜ってモヤモヤしてたので。
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