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令嬢騎士と平民文官のささやかななれそめ  作者: 礼(ゆき)
『令嬢騎士と平民文官のささやかななれそめ』短編版
10/90

10

 王太子は王になった。

 長く臥せっていた王が静かに息を引き取り、喪が明けるとともに、王位に就く。フレディは王の望むままに上位の文官となった。


 王太子妃は三人の子を産み、ルーシーもまた三人の子を産んだ。出産時期が似通っているのは、王とフレディの仕事の波が同じだからだろうと二人で納得し合っていた。


 二人の長男も八歳になる。


 王族の子は八歳にお披露目される。幼児期に命を落とす子もいるため、それまでは生まれていても公表されることはない。

 今回はお披露目と同時に、立太子されることもあり、セレモニーは大々的に行うことになった。


 国中の貴族を呼び、舞踏会が開かれる。


 となれば、責任者はフレディとなり、彼は多忙になる。ルーシーは仕方ないわと王妃と笑いあう。六人の子供たちを追いかける日々に、剣を持つだけの方がいかに楽だったかとため息を吐く。女仕事は楽だとふむ男が、目を背け、何も知らないで、軽々しい口を叩いているか、実感するばかりだった。ただ単に、男は女より上として、質の違いを上下の違いに置き換えて、尊厳を守ろうとしているだけかもしれないけど。


 舞踏会に呼ばれても、フレディは表に裏に出たり入ったりと大忙しとなる。


 ルーシーは、幼馴染のイベントだからと、長男と祖父である父を連れて行くことにした。新たな王太子もイベントの最初だけ顔を出し、裏へ引っ込み、子どもとして寝かしつけられる予定だ。

 息子も幼馴染と会わせた時点で帰らせようと、祖父と算段していた。


 新たな王太子が引っ込むと、フレディの使いがルーシーに声をかけ、祖父と息子を連れて奥へと下がった。大人しくかえってくれればいいけど、とルーシーは重々しい気分になるが、祖父に任せた以上、何とかしてもらおうと思った。


 フレディがいる以上、ルーシーだけ先んじて帰るわけにもいかなかった。


 立太子のイベントは表向きであり、貴族同士の顔合わせや、内外に国が盤石であることを示す一面もある。

 一人になったルーシーは、壁の花になった。会場全体に意識を巡らし、不穏な様子はないかと、周囲に気を配る。警備は問題ないだろうけど、普段から気を回す癖が出た。


 場は穏やかであり、ゆっくりとした曲が流れている。

 貴族同士の歓談風景を眺める。


 視界の端に、懐かしい子爵の男がいた。妻を連れてきている。あの時抱かれていた彼の子どもは、十歳くらいになったろうか。

 二人は相変わらず、仲がよさそうだった。


『幸せそうで何よりだわ』

 ルーシーは心から、そう思った。


 幸せになっていると、世界に不幸な人なんていないような錯覚をしてしまう。現実はきっと違う。どこかの誰かは、きっと歯を食いしばって、悲しみをこらえて生きている。理不尽に嘆き、暴力に耐えている。

 そんな当たり前のことを忘れてしまいそうになるぐらい、ルーシーは幸福だった。


 ふっと横に気配を感じた。 

「ルーシー」

「フレディ」

 二人こそっと名を呼び合う。

「大丈夫なの、出てきて」

「ああ、少しは時間がとれた。どうだった」

「大変よ。あの子はまだここにいたいと駄々こねるもの。幼馴染が奥で待っているわよと父と一緒に引き下がってもらったわ」

「こっちもだ。奥で、俺の息子が待っていると言って無理やり引っ込めた」

 額つき合わせて、互いにため息を吐いた。


「困った子達ね」

「まったくだ」


 二人になると、途端に「グレイス殿」とひっきりなしに声をかけられた。主にフレディが談笑し、ルーシーは横で笑顔を振りまき、黙っていた。


 子爵の男も声をかけてきた。軽く挨拶した。それだけだった。


『俺は、あっちも幸せそうで良かったと思うよ。これで、ルーシーが引け目を感じることがないだろう』


 蘇るフレディの言葉に、ルーシーは心より賛同した。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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明日から、『お家騒動を経て婚約破棄! 行き遅れになるかと思いきや、発端となる渦中の公爵様に突然求婚され、あれよあれよと婚約同居する運びとなりました』のエリックサイドストーリー『竜殺しの騎士団長の一人娘は、婚約破棄された伯爵令息へ好きと素直に言えないわけがある』が始まります。


おまけ:おじいちゃんには男児二人を御すことができず、ルーシーが裏に引っ込み雷を落とすことになりました。慄く新王太子は大人になってもルーシーにかないません。いわゆる、ヒーローにとって頭が上がらない年配の女官(元乳母)様のなれそめ話でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 文字数、展開、程よくスッキリまとまりながらも、それぞれのキャラが生き生きと動く様子がとっても良かったです。 読後感がさっぱりしつつも滋味豊か。時間置いて再読したくなる素敵な作品でした。 […
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