第7話 相『討つ』
勝負は一瞬であった。
聖に高速で放たれた4本の触手。
ビュンビュンと鋭い音を立て、バグスライムへと走る聖を襲う。
攻撃をを全て躱し、防ぎ、聖はバグスライムへと真っ直ぐ走る。
握りしめていた木の棒は粉々に砕け、武器になりそうなものは何も無くなった。
それでも聖は足を前へ繰り出す。
作戦通りに、絶対に退けない。
バグスライムが眼前へと迫ると、聖は歯を食いしばって飛び掛った。
強く蹴った地面は砂埃が巻い、風が聖の背中を優しく押す。
充血した眼で見据えるのは、目の前の敵の核のみ。
一方バグスライムは、伸びきった4本の触手を根元から切り離し、再度捕食体勢へと移る。
悦びに体をブルンブルンと震わせ気味の悪い笑顔をつくると、大きな口をグパァと開けて獲物が口に収まるのを待った。
飛び掛った聖はバグスライムの口から体内へと入る。
───グバァァバァァバァァ!
バグスライムの捕食者としての本能が勝利を確信した。
鋭く歪な形の歯が聖の締まった肉へズブリと突き刺さり、骨が軋む音がする。
バグスライムの眼が幸福感でとろけた。
「がぁぁぁぁあ!」
痛い、痛い。
左肩に、首筋に、下腹部に、脛に、焼けるような激痛がジワジワと聖を襲う。
血が体中からとめどなく流れ、ぐわんぐわんと視界が揺れる。
目の前にはリンゴの大きさ程の弱点、バグスライムの核。
武器も既に無い、手も痺れて感覚がない。
それでも体内まで来た。
勝てるどうかじゃない、勝たなきゃいけないから……。
「人間を、舐めるんじゃねぇよ……」
聖は核をガッと、右手で鷲掴みにした。
表面はぐにぐにとしていて中身は固く、大きさはリンゴ程の核を、聖は渾身の力を込めて握る。
出血し過ぎた。既に活動限界だった。
それでも絶対に離さない。
「俺がぁ、この世界のヒーローに……ヒーローになるんだ!!」
ギチッ、ギチギチっと核は音を出しながら変形する。
バグスライムの顔は一変、苦痛に歪む。
その人間は餌ではないと、自分が狩られているのだと、バグスライムはようやく気づいた。
───ゲェェェァァアアァ!グェァェァア!!
呻き声を上げ、そのまま聖を噛み砕こうと力を込める。
ブシュッと大量の血が聖の体から吹き出した。
だが、その人間の手は離れない。
目が霞む、全身の感覚が無い、それでも……!
聖は最期の力を振り絞り、大きく鳴いた。
「くたばれぇぇえ!!!」
───バァンッ!!
遂に、核は破裂音と共に、聖の右手の中で弾けて消えた。
───グゲェエァァア!!ギュギュギュ……
瞬間、バグスライムが溶けて無くなった。
全身が、初めからなかったかのように消滅し、その場には血溜まりに浸かる聖だけが倒れていた。
真っ青な空、柔らかな草花と暖かな日差し。
真っ赤な小池に浸かる聖は、幸せそうに笑っていた。
一旦修行、バトルパートはこの話で終わります。
次次話から新章が始まりますので、新章も是非お楽しみ頂けたら幸いです。
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