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第14話 最凶の変態:もう1人の転生者!

 「はぁ……はぁ……クソッ……!こんな馬鹿げた試験やってられっか!第一、ホントに死んでねぇ保証はどこにあるんだよ!そんな魔法聞いた事無ぇっての!」


 受験の説明が行われた大広間から少し離れたラガルド城内。

 1人の少年は試験開始の合図と共に全速力で駆け出し、現在城の中で身を隠していた。

 その少年の名は葛原魁斗くずはらかいと

 現在0ポイント。

 彼もまた聖と同じく、天贈物ギフトを授かりし転生者である。


 「さっきの一瞬で大勢の受験生が消えちまった。残ったのは大体2000人くらいか?合格条件は『明日の夜明けまで生き残った奴らの中で獲得ポイント上位100人に入ること』だろ。でもこの街全体とかいう規格外の広さを活かすなら出来るだけ遠くに離れて隠れてれば勝てるんじゃ……」


───『おい!なァにブツブツ言ってんだ!んなもん全員ぶっ殺しちまえばお前だけが合格者だろうが!』


 魁斗の顔の横に突如として出現した魔法陣より、中型の魔人がひょっこりと顔を出す。


 「うるせぇよギヴルデ!いいか?俺はこのマグリードとかいう最高にファンタジーな学校に死んでも入りたいの!だから今必死で勝ち残る案を考えてんだろ!」


 と、別の魔法陣からにゅっと葡萄色の腕が出現し魁斗の頭ををパシンと叩いた。


───『馬鹿野郎!ちったァ頭を冷やせ!試験官の女が言ってたことを忘れたか?勇者という言葉に反する行いをうんたらって……』


 「チッ……そう言えばそうだった!おっ○いばっかり見てて忘れてた……!」


 魁斗は悔しそうなジェスチャーで、ギヴルデと呼ばれる悪魔におどけて見せた。


───『……はァ、取り敢えずもう少ししたらここを離れるぞ!勇ましさが無ィなんて理由で受験が終了したら俺も少しは後味が悪ィからな』


 「そうだな!隠れるのはもうちょい試験が進んでから……だァっっ!!」


 魁斗の話を遮るように城天井の一部が崩落し、ギヴルデが咄嗟に魁斗の全身を魔法で包むと落石を弾いた。

 魁斗がすぐさま辺りを見渡すと、砂埃の中からキリエが真っ黒な長髪をたなびかせ、現れた。


 「もうここから移動する必要は無い。試験開始時から弱気な行動と発言ばかり。これ以上、君を監視するのも無駄であると判断した」


───『おィおィマジかよ』


 「今この場でカイトさん、あなたは退場です」


 「……」


 ギヴルデはシュッシュッと、シャドーボクシングを始めた。

 一方、魁斗は顎を撫でながら難しい顔でキリエを見つめている。

 その眼差しは一点の曇りもなく、真剣そのものであった。


───『ほ〜ら見ろォ!っぱり全員殺しとけば良かったんだよォ!』


 「なるほどな……」


 しかし魁斗は相も変わらずキリエをじっと見つめ、時々ブツブツと言いながら小さく頷いている。

 ギヴルデは何が何だかといった様子で魁斗の肩を叩く。


───『おィ!無視してないで何とか言ィやがr!』


 言い終わらぬうちに魁斗はグルンとギヴルデの方を見ると、そのまま顔をグッと近づけた。


 「っっっるせェんだよ馬鹿野郎!今!目ん玉ひん剥いておっ○い見てんのが分かんねぇのか!?」


 ギヴルデを怒鳴ると、魁斗は鬼の様な形相で再度キリエの方に向き直す。

 怒りで飛び出し零れた目玉を手のひらにのせると、そのまま元の位置へとグッと押し込んだ。


 「ふふふ、眼福眼福……」


 ギヴルデは顔に飛沫した魁斗の唾を、呆れたようにハンカチで拭う。


───『はァ……全くこいつァ』


 そんな様子を見ながらキリエは大きく溜息をつく。


 「お前の様な奴がどうしてマグリードの試験を受けに来た?私には、お前が勇者になりたいとは到底思えん」


 その視線は誰かを射抜いてしまう程鋭い。

 だが魁斗はキリエの怒りをものともせず、言葉に合わせて指を左右に振るジェスチャーをとった。


 「ちっちっち!甘いですよ試験官!」


 「なに?」


 「俺には……勇者にならなくてはいけない理由があるんです!」


 「ふん、なら聞かせてみろ」


 魁斗は待ってましたとばかりに、怪しげな笑みを浮かべた。


───すぅ……


 「俺はぁ!マグリードでめいっぱいの女の子と仲良くなって!めいっぱい強くなってぇぇえ!」


 魁斗の大声が城内を響き渡る。


 「そんで誰よりも早く魔王を倒してぇぇぇえ!!!」


 空気が震える。

 そして魁斗は、自信満々といった風に大きく笑った。


 「めいっぱいの女の子に囲まれて!余生を過ごしたいんだぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 魁斗の放つ覇気に、キリエの足が半歩ずり下がる。

 その顔は恐怖に慄いていた。


 「つ……、つくづく不快な奴だ!さっさと失せろ!」


 そう言い放つとキリエは自分の腹部へと、右手を突き刺した。

 そのままズルリと引き抜くと、手には1本の黒剣が握られている。

 その様子をギヴルデが懐かしそうにを見つめ、ニタリと笑った。


───『いつ見てもグロいなァ。お前、アマガシキ族の女かァ。ヒヒヒ!』


 「フン、下品な笑い方の魔人め。何故貴様がニンゲンの味方をしているかは分からんが、今ここで殺してやる」


 キリエのもつ剣に差し込む光に当たり、ギラリと妖しげに光る。


───『良い剣だなァ……面白ェ!』


───『おい魁斗!この女ぶっ殺しちまって良ィんだなァ?ヒヒヒ!』


 突如、城内に重苦しく禍々しい気が漂い始める。

 ギヴルデからは放たれたその気は当てられた者を蝕み、キリエも五感が正常に機能しなくなっているのを感じた。


(この魔人、私が今までに敵対してきた魔物の中でも段違いに強い。こんな奴が何故、ニンゲンと行動を共にしているんだ……?)


 キリエの顔は冷静そのものであったが、額には大粒の汗が浮かんでいた。

 既に剣を握る手の感覚が薄れ、視界は少しぼやけている。

 一方ギヴルデは愉しそうにケタケタと笑い、瞳孔がカッと開いた眼を震わせた。


───『そろそろいこうかァ、女ァ!ギヒャャャャャァァァアアア』


 咆哮。

 同時にギヴルデは魔法陣からズルリと這い出でると、キリエに向かって飛びかかった。

 その真紅の眼は怪しい光を放ち、その爪は海を切り裂く程鋭く、その姿はまさしく、この世の恐怖の象徴であった。


 「チッ……!」


 キリエも黒光りする刀身をギヴルデへと静かに向け、一瞬の好機を伺う。

 僅かに震えた剣先を呼吸で鎮め、魔力を刃へと伝達させる。


───ガキィン!


 次の瞬間、大きな衝撃と共に真っ黒な衝撃波が辺りを包むと、ラガルド城内に大きな亀裂が幾つも走った。

 城はガラガラと欠片を撒きながら、小さく震えている。


 そして……辺りは僅かな静寂に包まれた。


私、蒼波ケラウの一押しキャラが初登場する回でした!是非、今後のストーリーもお楽しみください!

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