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戦闘開始!入学試験

いつもより太陽が眩しく感じる。

常に心臓を掴まれているようで息苦しい。

マグリード後期試験当日の朝9時、聖は指定された集合場所へと足を踏み入れた。

着いたのは聖の生活するバーワンの宿から、タクシーで1時間ほどの大きな平原。

辺りには美しい緑が広がる、大きいだけの何も無い平原だ。

受験前の緊張と不安からか、周りの受験生もどよめいている。


「なぁ、本当にここで合ってんのか?」


「何もねぇし、試験官もいねぇ!どうなってんだよ……!」


「ちっ、うるせーな。静かにしやがれ!」


(おーおーおー!ピリピリしてるぜ……。まぁ無理もないよなぁ)


屈伸、伸脚、前屈、腕回し……。

周りの様子を気にしつつ、聖は慣れ親しんだ体操で身体をほぐしてゆく。

シャグルの話によると、マグリードの後期入学試験は情報が外部に全く発信されない事で有名らしい。

入学試験を受けたい旨を書いた手紙を学校へ送ると入学希望者の元へ集合場所、集合時間の2つが書かれた紙と、『受験者の生命に万が一の事が生じても学校側は一切の責任を負わない』という誓約書が同封される。

願書の提出や身分の確認も必要とされないこの後期試験。

受験のシステムとしてはなんとズボラなんだろうと、聖も心配になったものだ。


(でも確かに、あと5分で集合時間だぞ。会場はこれから行くにしても試験官も居ないのか……)


周りに連られ、急激な不安が聖を襲う。

ぐるりと周囲を見渡せば5000人程いるだろうか、大勢、様々な種族の受験生が待機場所に集まっていた。


(分かってはいたけど、こんなにも大勢の奴らの中から合格を勝ち取らねぇといけないのか。受験内容が分からないから対策はその場でたてるしかないし……。不安だな〜)


けど……


聖はもう一度、ぐるりと周りを見回した。

友人と談笑する者、黙々と体を動かす者。読書をして心を落ち着ける者に、寝そべる者。

会場に集まった約5000人が各々、試験前に思い思いの時間を過ごしている。


(あぁ……)


聖は一通りの体操を終え、その場で軽くジャンプをしながら小さく笑った。


(試験内容がどうであれ、合格の可能性があるのは俺を含めても《《せいぜい40人程度》》だな)


ビリビリと体が震える。

脳から全身へ、危険信号が巡る。


明らかに違う。

体に纏うオーラが。

大勢の受験生の中にごく稀に、刃を隠し持った危険な奴らが混ざってる。


デルやシャグル、リーファの様な真の強者を間近で観察した聖は強者を見極める感覚、即ち動物の"生存本能"が研ぎ澄まされていた。

そしてこの場で、聖の他にも僅かに《《ソレ》》を感じ取れる者が、同様に小さく笑った。



──『トランシス』



何処からか呪文が聞こえた瞬間、視界が歪み急激な吐き気に襲われ、聖は反射的に目を瞑る。

内蔵が揺さぶられるような感覚に、思わずドシリと尻もちをついた。


「おい!どこだよここ!」


「試験が始まるのか……!?」


「あ!ここ俺の家の近くだ!」


5秒程経っただろうか。

辺りが急激に騒がしくなり、聖は恐る恐る目を開ける……!


「いや、意味がわからん……!」


5000人が一斉にテレポートした先は、街の大広間。

少し離れた先にラガルド城も見える為、ここは首都マスティアの城下町だと推測できる、のだが……。

また、聖の手には100cm程の剣が握られていた。

周囲を見回すと杖、盾、弓……と、受験生の中でも一人一人装備が異なっている。

また中には素手の受験生もいて、聖の頭は混乱してしまった。


(てっきり受験会場に飛ばされたのかと思ったら、なんで城下町なんだ?それなら最初からこの場所に集合させれば良いのに……。あとこの剣は何!?怖っ!え、隣の目つき悪いやつにいきなり殺されたりしない?ヤバくない?)


チラリと隣を見ると凶悪犯のような目をした男がナイフを舐めながらギロリとこちらを睨み、目が合ってしまう。

聖は咄嗟に目線を逸らすも、額に汗が滲むのを感じた。


(こっ、怖〜。こっち見んな!それと、武器はランダムなのか?取り敢えず素手じゃないだけ良かったけど。それとも……)


思考がうまくまとまらず、聖は首を捻る。

無理もない。集合場所に来てからも予想外の連続なのだ。

様々な考えを巡らせながら立ち上がり、聖はおもむろに空を見上げた。


「あっ……」


いつから居たのだろうか、5000人の上空には純白のローブに身を包み眼鏡が知的に映える黒髪の女性が凛として浮いていた。

その整った顔立ちに、ついつい鼻の下を伸ばす男性受験生も多く見られる。


「今日はよく集まってくれた、受験生の諸君。私の名前はキリエ、今日1日受験の監督官として君たちを見守る。どうぞよろしく」


キリエは淡々と、冷酷な声のまま続ける。


「突然で申し訳ないが今回の受験の、試験内容を今から伝える。質問は一切受け付けないので心して聞くように」


空気が張りつめるのが分かる。

その場にいた全員の視線がキリエへと注がれた。


「君たち、そして私が今いるこのマスティアの街はマグリードの教師陣により作られた言わば仮想空間だ。その証拠に住人の姿は無いだろう?それが集合場所と受験会場を分けた理由だ」


聖はハッとする。

転移して来た時から感じていた違和感がようやく分かった。

いや、人影が無いことにすら気づけない程に聖は混乱していたのだ。


「試験内容は至って簡単だ。君たちの戦闘スタイルに合わせ、こちら側で決定した武器が配布されているだろう?」


聖はちらりと握っていた剣を見る。

やはり、それぞれの受験生が持つ武器の違いには意味があったのか。


(となると試験内容は戦闘能力の測定か?魔法使いなら魔法の、剣士なら剣士の、格闘家なら格闘家の能力を色んな競技を通して測定して、総合的に試験の結果を出すんじゃないだろうか。いや、だとしたらわざわざ仮想空間で試験を行う意味が無い。情報漏洩に気を付けてると言えどもそれは些か……)


「殺せ」


「へ?」


突如目の前の試験官から飛び出た物騒な言葉に、聖の腹の底から気の抜けた音が漏れる。

キリエは眼鏡をクイッと押し上げると、冷たい目を向けたまま続けた。


「殺せ。他の受験生を殺せば1ポイント、街に放たれた魔族を倒せば5ポイントだ。獲得ポイント数が多かった上位100人がこの試験の合格者となる。時間は明日の日の出までだ」


それが……入学試験?


開いた口が塞がらない。

驚いたのは聖だけではない。 耳を疑うような試験内容に、辺りが静寂に包まれた。


「おい!どーいう事だよ!?あ"?」


が、一人の男により、長い沈黙が破られる。

その男はゆっくりと立ち上がると、キリエの真下へと歩を進めた。


「勇者になるのに勇者を志す奴ら同士で殺しあえなんて、頭オカシイのか?あ"!?」


その男は、聖の隣でヤンキー座りを決め込んでいたナイフの男であった。

その男の勇気ある発言に「そうだそうだ!」と、同調する声がチラホラと聞こえる。


「大体よぉ、そんな高い所から見下ろしてんじゃねぇよ!降りてきてしっかり説明してもらおうか?あ"!?」


(なんつー勇気だよ!試験官にそんな事言ったら普通一発退場だぞ?)


が、聖の思いとは裏腹にキリエはすんなりと宙から降りてきて、ナイフの男の前へとストンと立った。

キリエは小さく笑うと、ゆっくりと口を開く。


「それは大変不快な思いをさせてしまった用で、申し訳なかった。そうだ、勇気ある発言をしてくれたお前の武器を、特別に強化してやろ

う。ちょっとそのナイフを私に貸してみろ」


そう言うと、キリエは左手をナイフの男へと差し出した。

周囲が不平不満の声でざわつき始める。


「おっ、ラッキー!姉ちゃん意外と良いとこあんじゃん!」


ナイフの男はさも嬉しそうに、差し出されたその真っ白な手のひらにナイフを置く。


───ヒュンッ


「は?」


瞬間、瞬きも許さぬその一瞬、ナイフの男の首が宙を舞い、そして消えた。

辺りが再度、静寂に包まれる。

キリエは呆れたという顔でナイフをクルクルと回すと、冷たく言い放った。


「安心しろ。この仮想のマスティアでは死んでも肉体には傷1つ付かずに消滅し、目が覚めたら集合場所の広場へと意識が戻っている。もしも死んだらそのまま家に帰っていいぞ」


(俺たち自身も仮想の肉体に魂が移されてるって事か?魔法ってスゲーな!)


「それから最後に1つ。君たちの志す勇者とは、『勇ましき者』の事だ。つまり、この言葉の意に反するような行いをした者は、その場で受験資格を剥奪する。ちなみに今のバカは勇ましさを履き違えた、ただの無謀者だ」


「ふぅ」と小さく溜息をつくと、キリエは大きく声を張り上げた。


「このバカのお陰で説明が省けたな。だから安心して殺し合え!」


聖は剣を強く握った。 


「それでは試験開始!」


「えっ!?」


────ザシュッ


刹那、受験生の2/3が消滅した。

言い換えるならばその瞬間に、()()()()()()()()()()()()()()()

勝ち残る為、予想外の状況でも冷静に状況を把握出来た者。

躊躇った者から死んでゆくと、理解出来た者だけがその広場に立っていた。

そして選ばれし受験生は皆、マスティアの街のあらゆる場所へと散ってゆく。

ここから先は頭を使わねば勝ち残れない。

自身の戦闘スタイルや強みを生かした戦い方を練って、勝負に持ち込まなければならない。


そして聖は8ポイント、現在1位タイ。

聖は試験開始の合図で迷いを捨てることの出来た『勇ましき者』の中の一人だ。

デルとの特訓を思い出し、必死に鍛錬を積んだ3ヶ月の成果。

血の滲むような地獄のトレーニングの果てに辿り着いた、努力の結晶。

聖の斬撃は周囲にいた8人の肉体を刈り取ったのだった。


───グルォオォァ!


知略渦巻く仮想の街。遠くから聞こえる魔の遠吠えと心臓の音だけが脳内に響き渡る。

現在、残り人数は1000と43人。

狂乱の入学試験、火蓋が今切って落とされた。

ここから暫く入学試験編が続きます!

物語もどんどん白熱していきますので、宜しければ評価の方をお願い致します!

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