第12話 烈火の如く
「なんだこれぇえ!」
都市と城。
シャグルの指さす方には大きな都市があり、その中央には土色の城がドーンとそびえ立っている。
聖は目に映る超巨大な学園都市に唖然とした。
「すげー…… ホーエンツォレルン城みてぇ!この都市も、城も全てが学校!?」
車はマグリードから1kmほど離れた正門の前へと止まった。
シャグルが降車するのを見て聖も車から降りる。
「すげーだろ!ほーえんなんとか城はよく分かんねぇが、この学校はラガルド国の誇りだ!」
聖が知る、元の世界にあるような"学校"とは大きくかけ離れたもの。
この国の未来を護る若者達が日々切磋琢磨する為の、最高峰の教育機関。
確かにシャグルの言う通り、この学校は国のシンボルなのであろう。辺りを見ると、観光スポットにもなっているらしく家族連れやカップルも多くいる。
「この門から先は結界が張ってあって学校関係者や商売人しか見れねぇが……学校内もそりゃあ凄ぇんだぞ!」
シャグルは誇らしそうに胸を叩いて、聖に微笑んだ。
ふと聖の頭に疑問が浮かぶ。
「ん?シャグルさんは学校内に入った事があるんですか?」
聖が尋ねるとシャグルは少し照れくさそうに「実は数年前まであそこで魔法学を教えてたんだよ」と、笑った。
「すっ……すげ〜!じゃあシャグルさんもやっぱり強いんですか?」
聖の目がキラキラと輝き始める。
「まぁ俺の担当科目は主に座学中心だったし、そんなに武闘派って訳でもないが……それなりには強いぞ!」
「すっげ〜!」
聖から羨望の眼差しを向けられたシャグルは、「よせやい」と照れくさそうに笑った。
───バリバリバリッ!
突如、真っ青な空に暗雲が立ち込め雷が空を裂いた。
一気に不穏な空気が立ち込め、シャグルが聖に「俺の後ろに下がっとれ」と耳打ちする。
真っ黒な宙には小さな歪みがいくつも生じ、そこからぞろぞろと這い出た魔物が大きく鳴いた。
黒板を掻いたような、不快な音が空気を震わせる。
真っ赤な肌に恐ろしげな爪を携えた数十匹の魔物の郡勢は地上へと降り立つと、辺りをキョロキョロと見渡し大きく舌なめずりをした。
「シャグルさん!こいつらは!?」
「『ギーモン』っちゅう中級の魔物だよ。こいつら自身は空間転移魔法は使えない筈だから親玉はどっかに潜伏してやがるな……。一体一体はそれ程強くは無いが……他の観光客を守りながらってなると、ちょっと骨が折れるなあ」
シャグルはグッと前傾姿勢をとり、掌を数回閉開させる。
そして小さく呪文を唱えると、両手に火球が出現した。
───『エイクァパート』
そう叫び拳を握りしめると火球は8つの小さな火球へと分割され、シャグルの腕の動きに合わせてギーモンへと飛んでゆく。
シャグルの両手で燃え盛る16発の小さな火球は真っ暗な空を彩りながら、ギーモンを次々に焼き払った。
───ギェェェェエア!!
「そぉら、もう一丁!『エイクァパート』!」
観光客を襲うギーモンを間髪入れることなく火球が襲い、叫び声と共に燃えカスへとなってゆく。
シャグルの頬の傷が炎の中で怪しく揺れ、聖は小さく身震いした。
◇◇◇◇
「ちょーっとやりすぎちまったか?」
辺りに草花の焼けた焦げ臭い匂いが立ち込め、熱気が漂っている。
ギーモンに襲われた観光客からの拍手と歓声が沸き起こり、「よせやい」とシャグルは照れくさそうに笑った。
シャグルから放たれた火球によって全てのギーモンは焼け払われた……
かに思われた次の瞬間、1匹のギーモンが飛び上がり近くにいた少女へと飛び掛った。
ギェギェギェと不快な呻き声を上げながら、禍々しい爪を振り下ろす。
「焼きが甘かったか……チクショウ間に合わねぇ!」
シャグルが急いで火球を放つも、ギーモンの爪は少女の身へと到達している。
その場にいる多くの者が諦め、絶望し、目を瞑ったその時である。
───『ディサピアル』
何処からともなく呪文が聞こえると同時に、ギーモンは消滅した。
間一髪の所で助かった少女、はその場で泣き崩れる。
「こんな所で上級魔法を……一体誰が」
シャグルはキョロキョロと周囲を見渡すと驚いた顔で一人、見つめた。
そしてその方へと歩み寄る。
それは美しい天色の髪をした少年であった。
降り注ぐ太陽に当たると煌めく髪を持った、美しい少年であった。
「お前さんか。その歳で上級魔法とは恐れ入った、助かったぞ。」
シャグルは右手をすっと差し出す。
しかし少年は握手を返すことなく、冷酷な声で話した。
「あんな低俗な悪魔すら満足に倒せないで、僕に握手を求めるなんて笑わせてくれますね」
少年はシャグルの横を素通りし、聖の前へと立った。
その目には一切の光が宿っておらず、聖は唾を飲み込む。
「この程度の事態で気が動転して動けなくなってしまうようじゃあ、この学校に入学することは不可能。勇者も向いてない。さっさと諦めて政治家でも目指したらどうかな」
どこまでも深い青色の眼をした少年は、冷たく聖に言い放った。
少年は表情を変えることなく続ける。
「僕の名前はリーファ・エルディビア。いずれこの学校の頂点をとり、魔王を殺す者。悔しかったら何が何でもこの学校に入学してみなよ」
そこまで話すと『トランシス』と呪文を唱え、少年は一瞬にしてその場から消えてしまった。
「ハハハ!とんでもねぇ兄ちゃんがいたもんだな!」
シャグルは『1本取られた』とでもいう風に豪快に笑った。
少年の言葉を受け、聖は考える。
俺には、何が出来ただろうか。
シャグルさんに守られ、目の前で起こる出来事をただただ眺めていただけ。
悔しいけど、青髪のあいつの言う通りだ。
こんなんじゃ勇者になれない。
ムカつくけど、力が足りない。
もっと、強く……強くならなきゃ。
強くなって……
入学試験に絶対合格してみせる
「シャグルさん、マスティアの駅までタクシーお願いします」
「おぉ、もう学校見学はいいのか?」
「はい、もう目的は達成したので」
「そうか……そうだな。任せとけ!安全運転でトばすぜ!」
そう言って2人はタクシーに乗り、駅を目指した。
そうだ、絶対に合格するんだ。
ずっと憧れてたヒーローに、この学校に入れば近づけるかもしれない。
決意は固まった、後は死ぬ気で努力するだけ。
大丈夫、努力には慣れてる。
明日から、いや今日から……。
帰りは道が空いており、行きよりも時間がかからなかった。
真っ青だった空はいつしか赤く染まり、人々を優しく照らす。
20分程で駅に着くと、シャグルが聖にいくつかの飴をくれた。
見るからに不味そうな色の飴を聖はポケットへ押し込む。
「いいか、兄ちゃんは兄ちゃんらしく頑張りゃあ良い。そんで絶対合格して、ムカつくあの青い兄ちゃんに一泡吹かせてやれ!」
聖はシャグルへ深々と頭を下げ別れを告げると、バーワン行きの汽車に乗るためホームへと向かった。
1粒、飴を口へ放る。
「甘くて苦いな……」
何故天色の髪の少年は聖を入学希望者だと知っていたのか……とか、少年は一体何者なのか……とか、そんな事はどうでもよかった。
圧倒的な差を見せつけられて絶望した訳でもなかった。
ただ、強くなりたい。
シャグルさんや天色の少年のように、弱きを助けるヒーローになりたい。
聖の胸に大きな焔が宿った。
強固な決意を胸に聖の、地獄の特訓の日々が幕を開けた。
そして、時は流れ3ヶ月後。
国内最難関の勇者育成学校『マグリード』の、倍率1000倍の後期入学試験が今、幕を開ける。
久しぶりの戦闘パートです。
やはり書いていて非常に楽しいですね。
次回からは末にもあった通り入学試験が始まります。
ここから更に物語が加速していきますので、是非お付き合いください。
蒼波ケラウ




