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第11話 いざ、勇者育成学校:マグリードへ!

「いや、マグリードの後期日程の方っす」


聖の思わぬ発言にゲンさんは手を止め、目を丸くする。


「ヒジリ!今なんて……」


「マグリードの後期日程を受けたいっす。倍率1000倍の試験、それがどんなに難しいか、こんな俺でもわかります」


聖が通っていた高校は入試倍率2倍ちょっとの、県内トップの進学校だ。

元々勉強が大嫌いだった聖は毎日机にかじりつき、必死に勉強をして合格を勝ち取った。

そして1000倍という文字通りケタ違いの難しさは、いくら土俵が違えど聖も十分に理解していた。


「でも俺は逃げたくない、後悔したくない。」


聖は、ヒーローになると誓った火事の時を思い出していた。

あの日の聖は目の前の絶望に逃げずに立ち向かったのだ。 


「それが合格でも不合格でも、たとえその先が茨の道でも俺は......」


聖は息を「ふぅ」と小さく吐いた。


「俺は、チャレンジしてみたい」


聖のまっすぐな目を、見たゲンさんは「ガハハ」と大きく笑った。


「ヒジリ、おめーはいい男だ。マグリードで娘に会ったら仲良くしてやってくれ!何なら婿に来てくれてもおめーなら歓迎するぜぃ!」


と言うと聖の背中を強く、強く叩いた。

そしてゲンさんは聖にくしゃくしゃになった1冊の小冊子を手渡した。

開いて中を見るとマグリードの外観や内装、設備や授業内容などが詳しく書かれている。


「これは……」


「ヒジリ、マグリードの後期日程まではもうそんなに時間がねぇ。だが、まずはマグリードっちゅう学校がどんなもんかを知るのが1番大切だ。だから今日、今から5分後にそこの駅から出る汽車に乗ってマグリードのあるマスティアまで行ってこい。」


「今からマスティアに……すか」


確かに、聖は受ける学校を見たことすらないのだ。それに、試験を受けに行くなら場所も知っておいて損は無い。


「おう!気が変わらねぇ内に早く行け!入学試験はもうすぐそこだぞ!」


「頑張れヒジリ!オメーなら大丈夫だ!」


「合格したらまた一緒に飲もうな!」


「ひひひひひ!ヒジリ!ひひひひひひ!」


「オメーは酔っ払ったらロクに喋れねぇんだから黙ってろ!」


テーブルのみんなが聖を立たせ、酒場の出口の方へと背中を押す。


「わわっ、ありがとうございます!あっ、お金!」


「いいからいいから!ほら、早く行け!」


そしてゲンさんは豪快に笑いもう一度、聖の背中を叩いた。


「達者でな!」


「皆さん、ありがとうございます!ぜって〜合格を勝ち取ってきます!」


聖はバッと頭を下げると、汽車に間に合うように急いで店を出た。

後ろからはゲンさん達の「頑張れ〜」という声が聞こえる。

自分が勇者になる為に何をすべきか……今日、ハッキリと決まった。


「マグリードかぁ……どんな学校なんだろうなぁ!」


弾む息、煌めくまなこと踊る心。

聖は素晴らしい出会いに感謝し、決意を胸にマ

グリード行きの汽車へと飛び乗った。



◇◇◇◇



聖を乗せた汽車は灰色の蒸気を真っ青な空に吐き出しながらどんどん進む。

カタンカタンとリズムに合わせ体が揺れ、汽笛の音が聖の鼓膜を震わせた。

マスティア行きの汽車、5つの駅を通過すれば見えてくる超巨大都市。

国内最大の魔法都市で、国のシンボルでもあるラガルド城もある。


「すっげ〜〜〜!!!デカすぎるだろ……!」


聖は窓から頭を出し、眼前に広がるマスティアの景色を眺めた。

漫画の世界のような光景に、聖の興奮は最高潮に達した。


───プシューッ


汽車が駅へと到着する。機体が大きく揺れ、扉が開くと同時に聖は車外へ飛び出した。


「どわぁぁあ!」


吹き抜けの巨大な駅内には人がごった返しており、鎧を身に着けた戦士や大きな帽子を被った魔法使いもチラホラと見える。

目に映るもの全てが新鮮で、全てに興奮する。

煌びやかな装飾、最高に格好いいオブジェ、見たことも無い生物が道案内をし、聞いたことの無い言葉があちらこちらで飛び交う。

聖は周囲を興味深く周りを観察し、目を輝かせながら改札出た。


「さて……こっからどうやってマグリードまで行こうか」


改札を出た聖が顎を撫でながら周囲を見渡すと、駅内案内所が見えた。

案内所に行き話を聞くと、どうやらマグリードはマスティアの駅からタクシー(といっても元の世界のものよりも作りは簡素で窓なんかも無く、動力も不明)で30分ほどの所にあるらしい。

聖はお礼を告げ、頭上の案内板を見ながらタクシーの停車場へ。

幸いタクシーはすぐに捕まった為、聖は乗って行き先を告げた。


「あんちゃん、今年のマグリードの受験生?」


車が発進してすぐ、運転手の老人が聖に話しかけた。

艶やかな白髪白髭と左頬の傷が印象的で、年齢は60前後といったところか。


「はい!っていっても、さっき受験するって決めたばかりなんすけどね……ははは」


聖が少し恥ずかしそうに頭を搔くと、老人は楽しそうに笑った。


「ははは!そりゃあまた思い切ったね!あんちゃんみたいに受験前の願掛けとしてマグリードに来る人は結構多いからね、すぐ分かったよ」


そう言うと真っ白な顎髭を触りながら、にっこり笑った。

運転手の老人は自らをシャグルと名乗った。

シャグルさんは人と話すことが好きらしく、目的地に着くまでの間、興味深い話を沢山してくれた。

例えば、ここ30年程、つまり現王が産まれた辺りから急速に文明が発達していった話。

汽車、タクシーといった移動手段も丁度その辺りから普及していったそうだ。

また歴代最強の勇者が魔王に唯一傷を負わせたという話や、マグリードの先生の過半数は元勇者であるといった話も聖にとっては有難い情報であった。


◇◇◇◇


「おっ、見えてきたぞ!あれがラガルド国の誇る勇者育成学校、マグリードだ!」


発車してから丁度30分がたった頃、聖の車酔いが発症する1歩手前、突如シャグルが進行方向を指で刺した。


「う……うぷ……」


聖は吐き気を我慢し車体から身を乗り出すと、前方を見て吐き気がスっと引くのを覚えた。

あまりの光景に目は見開かれ、言葉が詰まる。


「なっ……なんだこれぇえ!」


久しぶりの投稿です。待って下さった読者の皆さん本当にありがとうございます。

今回はこの物語の世界観が分かるパートとなっています。

次回、次次回からは入学試験パートとなり、どんどん盛り上がっていきますので、末永くお付き合い頂ければ幸いです。

蒼波ケラウ

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