第9話 新たな冒険へ!青春よもう一度!
目が覚めると聖は木に囲まれた草原の中央、パンツ一丁で倒れていた。
「うんっ……」
聖を照らす光が眩しくて眠気の残る目を擦る。まだ寝かせて欲しい。
突如聖の脳内にスライムとの激闘、そして相討ちになった時の映像が脳内で再生された。
「ぉわあっ!」
慌てて目を開け上半身を起こすと、頭痛がズキリと走った。
すぐさま自分の体を確認する。
が、聖の脳内で再生された様な痛々しい傷はついておらず聖は酷く困惑した。
「あれは……あの闘いは夢?いやでもそんなはずないだろ!血の流れる感覚も、倒した時の喜びも覚えてるのに!あと、なんで脱いでんだ?」
ふと辺りを見回すと、右斜め後方に畳んである聖の高校の制服を見つけた。
身につけたまま異世界転生し、ずっと洗いながら着ていたもの。
デルが時々修繕してくれていたが汚れも酷く生地も磨り減っていた為、服の購入を検討していた所であった。
しかしその畳まれた制服は真っ白に輝いており、広げて見てもシワひとつない。
不思議に思いながらもスボンに足を通し、Yシャツに袖を通したところで胸ポケットに小さなメモが差し込まれていることに気がついた。
そのメモにはデルのものと思われる綺麗な字が書かれていた。
不思議な事に、書かれた言語は異世界語であったが聖にも読める。
そこんとこはパイリとトインケが転生する際に上手くやってくれたのだろう。
デルからのメモにはこう書かれていた。
◇◇◇◇
聖くん、キミは見事卒業試験に合格した。
もう僕から教えることは無いよ、本当におめでとう。そして、最後まで僕の特訓に着いてきてくれて本当にありがとう。
聖くんの大怪我と制服は治して友人が治してくれたから、今度会ったらお礼を言ってあげてね。
この世界は残酷で、どうにもならない事が往々にしてある。ほとんどの人はそこで挫折して、前を向けなくなってしまう。
だけれどそんなどうにもならない事すら、聖くんならひっくり返してしまうと僕は感じている。
それこそが僕の思う『勇者の素質』だ。
何度も言うけど聖くんなら絶対に勇者になれる。
どうかその進む道が輝かしいものである事を、僕は願っているよ。
〈追伸〉
もしこの先勇者になる為の目処が全く立っていないなら、3ヶ月後に行われる『勇者育成学校の入学試験』に向けて特訓をするといい。
ここでは長くなるから書けないけれど、僕が付けた目印の方に進んでいけば街があるからそこで情報収集を行うといいよ。
◇◇◇◇
「やっぱり……夢じゃなかったんだ」
聖はあの時の勝利の感覚を思い出し、体が震えた。
血肉が沸き上がるような感覚。
刻まれた恐怖心と打ち勝った自信。
鮮明に思い出せる血の温かさと痛み。
聖にとって多くのものを得た戦いであった。
そして、心の中でデルにめいっぱいの感謝をした。
本当は面と向かって俺を言いたい。
デルと出会わなければ勇者になるどころか、その辺の魔物にあっさりやられて死んでいただろう。
デルが作り上げた戦いの基礎は、聖の大きな成長だ。
いつかまたどこかで会えると信じて、聖はメモを大切にしまった。
「よし、行くか!」
聖はおもむろに立ち上がると、手紙にあった街へ行く"目印"を探した。
周囲を探索すると草原を囲む木々の中でも特に大きな木の幹に「この先を真っ直ぐ進め」 と彫られているのを見つけた。
聖は街を目指して森の中へ足を踏み出した。
もちろん気になることはいくつもあった。死ぬ間際の大怪我から治療してくれた友人は一体何者なのか……とか、追伸にあった『勇者育成学校』とはなんなのか……とか。
たが、メモにあった通りこの先の見通しが全くたっていない以上、デル言うことを信じる他ないだろう。
それに何より、そんな事よりも……
「こっからの冒険も……めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇか!」
目を輝かせて、聖は笑った。
30分ほど歩いて森を抜けると大きな街が見えた。聖の足も次第に急ぐ。
弾んだ気持を抱いて新たな冒険へ。
これから先の酸いも甘いも、全てが楽しみで仕方がない。
途中で終わってしまった聖の青春よ、もう一度。
2度目の学園生活が今、幕を開ける。
ここから第2章のスタートです。
物語がどんどん加速していき魅力的なキャラクター達も登場しますので、今後ともお付き合い頂けると幸いです。
筆者の励みになりますので、宜しければ評価や感想のほうもよろしくお願いします。




