プロローグ "ヒーロー"になりたい①
夢があった。
小さい頃からずっと、ずーっと変わらない夢が。
"ヒーロー"になりたい
昔から漫画が好きだった。悪い奴らはみーんなヒーローがやっつける。弱きを守り、守るために強くある。
漫画やアニメの中の、そんなヒーローに憧れていた。
そんな風になりたかった。それでも、年齢が上がるにつれていつまでもそんな事を言ってられなくはなっていった。
諦められなかった。特殊な光線で悪人を一掃出来なくてもいい。必殺パンチで怪人を撃退出来なくてもいい。
せめて、せめて周りの人間だけでも守れるような、優しくて、強い"ヒーロー"になりたかった。
ふと思い出す。
それは聖が小さな頃から大好きだったヒーロー漫画。内容は王道もので全年齢向け。
連載は10年ほど続き、アニメ化もされた人気漫画。
何百回も読み込んだ、聖のバイブル。
主人公はヒーロー。主人公は物語の中で何度も悪に負け、その度に特訓して強くなる。そして最後には必ず悪を倒す。
どんなに困難な状況になっても主人公は笑う。そして言うんだ。
「辛い時こそ、ニッカリ笑って1歩前へ!」
それは夏休みの目前、セミは木々の上でけたたましく鳴き、生温い風が頬を撫でた。
いつもの帰り道、変わらない日常
ヒーローになりたい少年:三毛縞聖はいつものように、友人と学校から帰っていた。
「ヒジリぃ、今回の期末テストどーだったよ」
友人のひろポンがニヤニヤしながら俺に尋ねる。
「あー、まぁ勉強した成果が出たなって感じ」
「え!?てことは今回も学年1位か?」
「なんとかね、結構やばかったけど」
「うわー、マジかよ……お前すげぇな」
ひろポンが聖の脇腹を肘で小突きながら続ける。
「俺、また最下位!」
「お前な……」
そういったひろポンはどこか誇らしげだった。
なんでも、第1回の中間テストから欠かさず最下位を取っているらしい。
「やっぱりヒジリは天才だよ!大学受験も安泰だな!」
ひろポンがニッコリ笑う。すげー良い奴。アホだけど。
「バカ、違ぇよ。俺は人よりもの覚えも悪いし、要領も良くねえんだわ」
「その分、他の奴らより努力してんの」
「ふーん。じゃあ秀才だな!すげぇ!」
そう言ってもう一度ひろポンは笑った。
いつもの帰り道、いつもの下らない会話。いつも通りだった。
あとはまたいつもみたいに俺が好きな漫画の話をして、ダラダラ歩いて、そんで家にお互い帰ってく。そんな一日のはずだった。
ただ、この日は違った。
焦げ臭いにおいが辺りにたちこめ、2人の鼻を覆った。
「なんだぁ、火事か?」
ひろポンが顔を顰めて呟く。
嫌なにおいは歩を進める事に増し、ふと辺りを見回すと、化け物のような黒煙が立ち上るのが見えた。
「もしかして……」
虫の知らせが聖の元へと届いた。
「もしかしてだけど、火事の現場ここから近いんじゃね??」
聖の考えを読んだかのようにひろポンがそう言う。
そして聖の家はもうすぐそこだ。
2人は汗でまみれた真っ青な顔を見合わせた。
2人の足が次第に早くなる。煙が脳をぐわんぐわんと揺さぶり、現場が近いことを聖に知らせた。心臓が痛かった。胸が締め付けられた。
そして、曲がり角を曲がったところにそれはあった。
「マジかよ……」
家事の現場は、聖の自宅のお向かいさん。
仲の良い家族の住む、一軒家だった。