ポイ捨て
あ、赤になった。
信号待ちだ。
車間距離をキチンと開けつつ、赤い車の後ろに、つく。
……ポイ!
前の車が、タバコを投げ捨てた。
……へえ、ポイ捨てか。
タバコから立ち上る煙が、風を受けて揺れている。
ふわっ、ふぅわっ・・・・・・
ゆら、ゆらぁっ・・・・・・
タバコの煙が、不規則に揺れている。
くるり、くぅるり・・・・・・
もわぁ、もわわぁ・・・・・・
……コロ、コロロロロ!
いっそう強い風が吹いて、タバコは反対車線に転がって行った。
それを、対向車が、勢いよく踏んで……ああ、タバコが、ばらばらになって、崩れちゃった。
つい今の今まで、炎が燃えていたタバコが、一瞬で消えて、地に混じった。
信号が、青に変わった。
前の車は、動かない。
……なんでだろう?
ぷっ、プー!!
なかなか動かないので、クラクションを鳴らす。
前の車は、動かない。
……何か、あったのかな?
ハザードランプを付けて、車を降り、前の車に、近づく。
運転席には、一人のおじさん。
助手席には、この場に、似つかわしくない、女性。
助手席側の窓が開いたので、のぞき込むと。
「ポイ捨て、しちゃったのよねえ……。」
ぽそりと呟く、女性。
おじさんは、頭を垂れて、微塵も動かない。
私は、スマホを取り出して、救急車を呼んだ。
「あ、もしもし。15号の、消防署前の南側なんですけど、車の中で人が死んでるみたいなんです。」
私が、通話を終えると、女性がにやりと笑った。
「ありがと。」
女性は、魂を抱えて、タバコの煙の揺らぐようなエフェクトを纏いつつ……ふわりと消えた。
……なるほどねぇ。
命まで、ポイ捨てしちゃったわけか。
ピーポー……ピーポー……
ああ、救急車がきた。
駆け寄る救急隊員に手早く状況を説明し、自分の車に戻ってハザードランプを消し、サイドブレーキを踏んで解除して、アクセルを踏み込み、ぶぅーん……。
しまったなあ、ちょっと出遅れちゃった。
……間に合うかな?
私が目的地に到着すると。
「遅かったね」
ふわっ、ふぅわっ・・・・・・
ゆら、ゆらぁっ・・・・・・
命の名残が、不規則に揺れている。
くるり、くぅるり・・・・・・
もわぁ、もわわぁ・・・・・・
……ああ、よく似ているな。
ポイ捨てされた、タバコの煙と。
……ああ、似ているわけだ。
ポイ捨てされた、軽い命だもんね。
「じゃ、お先に失礼」
同業者は、魂を2つ抱えて、タバコの煙の揺らぐようなエフェクトを纏いつつ……ふわりと消えた。
ああ、今日も、収穫なしか。
落ち込みながら、コインパーキングに停めたマイカーへと向かう。
9番の支払いをしようと、精算機に向かうと。
……ポイ!
すぐ横の車が、タバコを投げ捨てた。
……へえ、ポイ捨てか。
タバコから立ち上る煙が、風を受けて揺れている。
ふわっ、ふぅわっ・・・・・・
ゆら、ゆらぁっ・・・・・・
タバコの煙が、不規則に揺れている。
くるり、くぅるり・・・・・・
もわぁ、もわわぁ・・・・・・
……ああ、よく似ている。
……私が、とても、欲しいものに。
だ、だんっ!にじっ、しゅっ……。
私は、火の着いたタバコをにじり消した。
コン、コン……。
車の窓を、ノックしてみる。
車の窓があき、男が顔をこちらに向けた。
「ああん?」
「ポイ捨て、しましたね?」
ザンッーーーーー
私の目を睨み付ける、男の目から、光が失われていく。
「がまんできなかったの、ごめんなさいね」
ピチピチの魂をゲットした私は、上機嫌でマイカーに乗り込んだ。