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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狼少女の恩返し

作者: kuro96


 俺は山の村に住む猟師。

 ある日、いつものように山で鳥を撃って捕まえていると、

 村で仕掛けられている狼退治の罠にかかった小さな犬を見つけた。


「いや、犬では無い、

 小さいけど……狼だ!」


 牙が生えているし、毛並みも銀色に輝いて美しい。

 毛皮にして売れば金になるのだろうか?

 でもまだ子供なのか小さすぎる。

 こんな子供の毛皮を売るなんてあまりにも可愛そうすぎる。

 俺は狼を罠から解いて逃がした。


 村では狼を恐れて罠を仕掛けていると言うのに……

 それに俺は猟師なのだろう?

 こんなに優しくしていいのだろうか?

 と、ちょっと反省もする……


「いや、獲物も沢山捕れたし、

 今日のところはこれで良しとしよう」



 ◇ ◇ ◇



 家に帰るとすっかり日が暮れていた。

 早く獲ってきた鳥を料理しよう。

 台所で早速調理をし、

 鍋を火に掛け始めた時だった。


 トンッ、トンッ


「こんな夜に? 誰だ?」


 玄関の戸を開けるとそこには銀色の髪をした

 女の子が立っていた。


「き、来ましたッ」


「……え、何しに?」


「恩返しですッ」


 しばらく何が何だかわからず固まった。


「いや、俺には君を助けた覚えはないが?」


「いえ、昼間あなたに助けて頂きましたッ」


「昼間……助けたのはあの狼だけだ……」


 よく見ると女の子の髪の色は昼間の狼の毛色と一緒。


「君、狼に関係ある人……ではないだろうね」


「はいッ、狼、本人ですッ。

 名前は『ウムム』ですッ」


 ニッコリ微笑む口元から牙がのぞく。


「え、ま、まさか狼のわけないだろう。

 どう見ても人間だ」


「私は完全な狼ではありません。

 実は半分狼で半分人間の『獣人』なんです。

 昼間は『狼』、夜は『人間』なのです!」


 本当なのか。

 狼の雰囲気っぽいものは確かにあるのだが、

 獣人なんて伝説上の生き物だ。

 それにそんな生き物が恩返しなどするのだろうか。


「それでその獣人がどうして恩返しを?」


「何を言うのです。

 あなたに罠から救って頂いたではありませんか。

 それなりに知能がある獣は恩は忘れません。

 犬も猫も、狐も狸もです。

 獣は自分の生まれた場所にも恩を感じている程なのです。

 ましてや人間と同じ知能を持つ獣人が

 恩を知らないわけがありませんッ!

 恩は返すべきです!」


「そんな……純粋だねぇ。

 半分獣だと言うのは本当かもしれないな。

 で、君はどんな恩返しをしてくれるんだ?」


「はいッ! どんな事でもですッ!

 ではまずお料理など、どうです?」


「いや……もう」


「遠慮なさらずにッ!」


 勝手に家に入って来て台所に上がり込んだ。


「あら、もうお料理の支度はお済みなのですねッ!

 うう、それにしても美味しそうッ」


 ちょうど『鳥鍋』が出来上がっていい匂いがして来た時だった。


 グルルル……


「ん? お腹の音……」


 ウムムは鍋の前でヨダレを垂らしている!


「ああ、お腹が減っているんだったら食べてっていいよ。

 今日は沢山獲れたんだ」


「そッ、そんな!

 恩返しに来てごちそうになるなど……

 ズルル……ゴクッ」


 半分狼なら罠に気付かないほど鳥が好物なのだろう。


「我慢せずに、さぁ!」


「はッ、はッ、はッ、それではお言葉に甘えましてッ」


 バックン!


「えっ!?」


 バクバクッ


「お、美味しい~、求めていた味……

 はぁ、はぁ」


 大量に作った鍋の中身があっという間になくなった。


「ごちそうさまでした~」


「……」


 全部なくなった。

 ものの数分で今日の獲物が……

 侘しく残っていた汁で飯を食う。


「ご、ごめんなさいッ!

 恩返しに来てこれじゃ……

 じ、じゃあ、お片付けでもッ!」


 今度は皿や鍋を洗おうとするが……


 ガチャンッ!


「あッ、やっちゃったッ!」


 手をすべらせて皿を割りまくる。


「い、いいよ。俺がやる」


「め、面目ありませんッ!

 私なんて役立たずで……

 気持ちだけで何もできず……」


「気が済んだろ? もう帰るかい?」


「いえッ! まだ気が済んでいません!

 何とかして恩返しをッ!

 こうなったら一夜のお相手をさせていただきますッ」


「ええッ!?」


「ささ、寝床の方へどうぞ、どうぞ」


 寝室まで押されて行くと強引に押し倒されてしまう。


「恥ずかしいから明かり……消しますね」


「むむ……これは……まさか、ゴクッ」


 自分の隣に横になる。

 暗闇でわからないが服を着てないようだ。


「ゴォォォ~、ゴォォォ~」


「ゴォ!?

 何だ? ゴォって」


「ガァァ……ガァァ……」


 何事が起こったのかわからず明かりを点けてみる。


「寝てるだけじゃないか!

 しかもイビキがデカい!!」


 丁寧に上着を脱いで畳んでいる。

 ただ眠たかっただけなのか!


「一夜のお相手の意味、わかってないんだろうな。

 まったく……恩返しと言いながら、

 飯を食って散らかして人の家で寝ているだけじゃないか!」


 大きな口を開けて寝ているウムムのほっぺたを突く。

 迷惑に感じていたが無邪気な寝顔は何となく可愛い。

 訳のわからない怪しいヤツだが害はないように感じた。


「俺一人で寂しく寝るより、これはこれでいいのかもしれない」


 ため息をついて明かりを消して隣に横になる。

 必死でイビキに耐えながら眠りについた。



 ◇ ◇ ◇



 昨晩はなかなか眠れなかった。

 いつもより遅く目が覚めると隣には……


「あ……あ……」


 昨日助けた狼がいた!

 狼のまわりには人間だった時の服や下着が……


「ガルル……」


 申し訳なさそうな鳴き声。

 きっと恩返しできなかった事を謝っているのだろう。


「君が獣人だと言う事は本当だったんだな。

 夜にならないと話せないのか」


「クーン」


「そうか、君の事を詳しく知りたいが、

 無理のようだな。

 じゃあ朝飯を食べて仕事に出かけるとするか」


 二人分の朝飯を急いで作り、ウムムにも分けて一緒に食べた。


「俺は狩りに出かけるが、君はどうする?

 もう森に帰っていいんだぞ?」


 ブンブンッ!

 首を横に激しく振っている。


「これは……まだ帰らない、と言う事なのか?」


 今度は頷いているぞ。

 帰らないと言っているのか。


「では俺と一緒に狩りに行ってくれるか?

 君の狩りの腕前を見てみたいものだ」


 尻尾を振って先に家を出て行ってしまった。


「相当腕に自信があるのか。

 それじゃ、今日の成果は期待できるな」



 ◇ ◇ ◇



 バサッ!


「クォーン!」


 バササッ!


「クーーン!」


「おいッ!」


 ウムムには狩りの才能が全くなかった。

 木の上、水辺、草むらにいる鳥や獣に飛びかかるが、

 全て逃げられてしまう。


「本当に狼の血をひいているのか?

 仕方が無い、俺のやり方を見てろ!」


 俺は音を立てず、茂みに潜むと

 木の枝に止まっている鳥に猟銃の照準を合わせる。


 ドォォォン!

 バサンッ!


 一発で仕留めた。

 それもかなりの大物。


「ガウッ、ガウッ!」


「見たか! この職人技を!

 お前は音を立てすぎだ。

 それに獲物が逃げないタイミングがあるんだ。

 それを逃すな」


「ガウッ」


 結局、ウムムに狩りの方法を教えながら一日が過ぎてしまった。

 昨日より少ないが二人分の食事ぐらいは確保できた。



 ◇ ◇ ◇



「面目ありませんッ」


 夜になったのと同時にウムムは人間に姿が変わった。

 獣人と言うのは間違いないようだ。


「狩りができない狼なんているんだな。

 今までどうやって生きてきたんだ?」


「えっと、物心ついた時から森に一人でいましてッ。

 芋や木の実を食べたり、熊の獲った魚を頂いたり、

 麓の街に出てゴミ箱を探したりでしてッ」


「何? 親がいないだと?

 ふ~ん、狩りは親から教えられるものなのだから、

 できなくても仕方ないか」


 シュンとなってるウムムがとても可愛そうに思えた。

 今まで食べ物にありつくのも大変だったのだろう。

 鳥だってウムムにとってはそう簡単に手に入らないものだ。


「もしよかったらなんだが……

 しばらくここにいて狩りを学ばないか?

 その方がこれからのお前に役立つと思うが」


「え、よろしいのですか! ご主人様ッ!」


「ご主人!?」


「ええ、是非ともここに置いて下さいッ。

 でもまだお名前をお聞きしていませんでしたので

 こうお呼びしているのですッ」


「そうか、まだ何も話していなかったな。

 俺は猟師の『ソータ』だ。

 この村は漁と狩りで生活する者が集まっている村でな。

 俺も20年以上はここで生活している」


「ソータ様もたったお一人で暮らしてるのですか?」


「ああ、俺も物心ついた頃、親が死んでずっと一人だった。

 親がこの村に住んでいたおかげでこうして

 猟師として生活できている。

 村人は皆猟師だからな。

 技術も教わる事ができた。

 だから君を見て俺も教えなきゃって思ったんだ」


「ぐすん……なんて優しい方に出会えたのでしょうか、

 私なんて何の役にも立たないのに……」


「いや、俺もずっと一人暮らしだ。

 話し相手がいるだけでも有り難いと思ってるよ」


「そうですかッ!

 お話ならいくらでもお聞き致しますッ」


 純粋で律儀なところがウムムのいいところだ。

 これで家事全般ができれば言う事ないじゃないか。


 ……あ、言う事ないって俺は何か期待しているのか?


「ソータ様、ウムムは恩返しに来ましたが

 こうしてご飯をごちそうになってばかりで、

 恩が増えていってるだけですッ。

 話し相手と言わず、夜のお相手もさせて下さいッ」


「おい、それは何処で覚えたんだ!?

 ウムムに言葉と知識を教えたヤツは誰なんだ?」


「麓の街に降りていろいろと言葉を勉強したのですッ。

 夜が賑やかな街でしたから」


「そこまで勉強しなくてもいい事まで覚えてるようだな……」


 もしかしてウムムは凄く賢いのでは?

 自分だけの力でここまで言葉を覚えるとは……

 何でも本格的に勉強したら天才少女になるのでは……


「ソータ様ッ、それでは寝室に行きましょう!」


 ただ寝るだけなんだが……なんか違う。



 ◇ ◇ ◇



 その日からウムムの狩りの修行が始まった。

 獲物による狩猟方法の違い、気配の消し方、獲物のクセなど、

 長年の技、知識を全て叩き込んだ。


 ウムムが狩りの才能が無いなどと行ったがそんな事はなかった。

 学んでいなかっただけで天性の才能があった。

 人間の頭脳と狼の肉体を併せ持つ彼女は俺なんかと比較にならない程、

 スーパー猟師に変わって行った。


 ウムムとの日々はとても楽しく、

 お互いが支え合い、素晴らしい毎日だった。



 バシュッ!

 茂みから鳥に飛びかかりあっという間に噛みついた。


「ピーッ」


「ガウッ、ガウッ!」


「凄いな、俺なんかいなくてもウムム一人で全部獲っちまう。

 もう教える事などなくなってしまったな」


「……ウウ……」



 ◇ ◇ ◇



 夕方になり家に帰ってくると村長が待ち構えていた。


「これは村長、どうかしましたか?」


「いや、最近村の者から訴えがあってな。

 お前が『狼』を連れて狩りをしていると……」


「ああ、こいつの事ですか?」


「お前もこの村の決まりをわかっているだろ?

 狼はこの村では害獣。

 狼を村のまわりで見かけたら駆除する事になっている。

 ましてや飼ってはいけないし、連れて歩いてもいけないのだ。

 なぜなら狼は我々の獲物を全て奪ってしまうからなのだ」


「……それは……」

「……ウウ……」


「村の者が言うにはその狼は一日に何十匹もの鳥や獣を

 捕ってしまうと言うではないか。

 そんな事をしていては獲物がいなくなってしまう。

 我々村の者の生活も困る。

 お互い獲る量を守って生きているのだからな。

 助け合って生活するために村があるのだ」


「これからは狩りの回数を減らします。

 こいつを置いてやって下さい。

 お願いします……」


「駄目じゃ!

 お前がどうこうしてもその狼は命令など聞くまい。

 狩り尽くす前に始末しろ!

 でなくば村の者が代わりに始末するだろう。

 良いか、明日まで何とかしておけ!」


「村長、待って下さい」


 村長はそれだけ言うと帰ってしまった。



「ソーマ様、ウムムは邪魔者なのでしょうかッ!?」


 ウムムは日が暮れて人間に変わった。


「……この村では狼はよく思われていないんだ。

 すまん……」


「いえ、それなのに今まで私をここに置いてくれたのですね?」


「心配するな。

 お前が獣人で半分人間だと説得する!」


「いいんです。

 それでも狼ですし、

 獣人とわかれば捕まえようとする人間もいるでしょう。

 ……恩返しできなかったのは心苦しいですが、

 ここから出て行きます」


 ウムムは山に帰ろうと歩き出した。

 胸が締め付けられる。

 何故だろう、帰したくない衝動に駆られる。


「待ってくれ!」


 後ろから思い切り抱き締めてしまう。


「!!」


「帰らないで欲しい。

 それが俺への『恩返し』だ!」


「ソーマ様……」


「きっと明日何とかする!

 だから出て行かないでくれ。

 ずっと、ここにいてくれ。

 お前が……いないと……俺は……」


 悲しそうに俯くウムム。


「……わかりました」



 ◇ ◇ ◇



「……ソーマ様……有り難うございました……」


「!?」


 頬に口づけされた感触があった。

 どうやらあの後、寝てしまったようだ。


「……

 朝か、ウムムは!?」


 隣で寝ていたはずなのに!

 家の中には姿がない。


「まさか、出て行ってしまったのか!」


 山の中を無我夢中で走り回った。

 いつも狩りの訓練をしていた場所も、

 魚を捕っていた川も、

 あちこち必死になって探したが姿はやはりない。


「……ウムム。

 何で黙って行ってしまったんだ、

 ウムムーー!!」



 ◇ ◇ ◇



 ウムムは真っ暗な夜の森を歩いていた。

 朝から一日歩き通し、村からはかなり離れた。


「……ぐすん……

 これでよかったのよ……

 ソーマ様にはいつまでもご迷惑をおかけできない。

 だってソーマ様は人間で村の人たちと生きているのだから」


 グゥ~。

 悲しかったが腹は減る。


「……ああ……お腹が減った……

 歩きっぱなしで気にしてなかった。

 何か獲物を探さないと……ん?」


 森の奥から黒い獣の集団が走って来る。

 獣たちは獲物を狙う獰猛な目をしている。

 危険を感じてさっと茂みに隠れた。


「あれは……狼……

 集団で獲物を襲うという『黒狼(コクロウ)』……

 獣はおろか人間にも襲いかかる」


 森の中で生きてきたウムムは危険な動物はよく知っている。

 黒狼はめったに遭遇しない希少な獣だが、

 集団行動で獲物を一晩で狩り尽くすと言う。

 見つかったら自分も危ない。


「やり過ごしてすぐに逃げなければ……

 でも、黒狼がこのまま進めばあの村に!?」


 自分が歩いてきた方向へあっという間に集団は通り過ぎて行ったが、

 その方向にはソーマの村が!


「ソーマ様が危ない!」



 ◇ ◇ ◇



 黒い影が村に忍び寄る。

 家の中には鳥などの食べ物、それに人間もいるのだ。

 匂いを嗅ぎつけた黒狼の集団は狩りを開始する。


 村はずれの家から標的になってしまう。

 狼たちは家に侵入し、獲物を狩って食料として行った。

 この世界では狩るか狩られるか弱肉強食なのだ。


「わぁぁ、狼が出たぞーッ」

「黒狼だーッ!」


 襲われた家の村人が気づき大急ぎで村中に知らせて回る。

 緊急時には皆力を合わせて戦う決まりだ。

 襲われていない家の者を起こして

 皆、村の中心にある広場へ集まって来た。


「皆、銃の用意をして来たか?」


「「おおッ」」


「村長。黒狼の襲撃なんて初めての事です。

 狼の中でも攻撃的で人間でも襲いかかってくる

 って言うではありませんか!」


「そうよ、子供が襲われたらどうするの!?」


「静かに!

 猟師が先頭になってやっつける。

 女子供は広場の真ん中に火を焚いてじっとしているんだ!

 おい、猟師たちは周りを取り囲め」


 俺たち猟師が輪になって狼を待ち受ける。

 しばらくすると黒狼の集団が周囲のあちこちに姿を現した。

 静かにこちらを狙っているのがわかる。


「ソーマよ、お前の狼が仲間を呼んだのではないだろうな?

 黒狼などこんなところに来た事がない」


「俺の狼は銀色です。

 仲間ではありませんよ。

 それに遠くに逃げてしまったのです。

 ここに来るはずありません」


 ウムムは獣人。

 動物の狼と集団になっているわけないし、村は襲わない。

 黒狼の襲撃は偶然。


「今さらとやかく言っても仕方ないな。

 こいつらをやっつけるしかない!

 引きつけて撃つんだ!」


 皆で構えるが凄い数だ。

 ジリジリと大群が近寄って来る。

 猟師たちは射程内に入るまで待っていたが、

 それより早く狼たちは飛び込んで来た。


 ドォォォン! ドォォォン!


「ギャアッ」


 数匹の狼を仕留めた。

 しかし数が多すぎてほとんどを撃ち漏らしてしまう。

 狼たちは数に物を言わせ猟師たちに次々と噛みついた!


「うわぁぁッ!!」


「村長!」


 村長の腕にも噛みついて引きちぎろうとする。


「このやろう!!」


 ドンッ!

 銃で噛みついた狼の頭を叩いて撃退するが、俺の前にも無数の狼が!


「これではキリがない……

 もう駄目か……

 ウムム……もう一度……会いたかったぞ」


 銃を構えて先頭の一匹を狙おうとするが、

 他の狼たちが一斉に飛びかかってきた。

 ……間に合わない!


「うわッ……」


 ザンッ! ザンッ!

 噛みつかれてもう死んだと思った……

 しかし、地面には狼の首が転がっていた。


 俺の目の前にはなんと銀色の髪の女の子が!


「ソーマ様ッ! 間に合って良かったッ!」


「ウムム!」


 ウムムの両手には恐ろしく長くて鋭い爪が伸びている。

 飛びかかってきた狼は全てウムムの爪によって引き裂かれている。


「何だ? その爪は!?」


「まだ黒狼はいます!

 私に任せてッ!」


 ザンッ、ザバッ! ザシュッ!


「……」


 ザッ、ズドッ! ズドォォォン!!


「……強すぎる」


 瞬きする間もなく黒狼の群れは全滅する。

 大量の死体を残して。



 ◇ ◇ ◇



「どなたかは知りませんが、

 村を救って頂いて有り難うございます」


 ウムムに向かって村人全員が平服する。

 彼女が来なければ全滅していたのだ。


「あなたはとてもお強いのがわかりました。

 もしご予定がないのであれば

 この村に留まってはくれませんか?

 守り手としてお雇いしたいのです。

 何卒宜しくお願い致します!」


 黒狼の襲撃で肝が冷えたらしい。

 群れごと撃退できるウムムは高い金を出してでも雇いたいのだろう。


「いえ、私はここにいる事はできないのですッ」


「そ、そこを何とか、この通り!」


「村長、この方は俺の知り合いです。

 説得してみますから、少し時間をくれますか?」


「そうか、ソーマの知り合いか。

 それは助かる。

 では宜しく頼むぞ。

 皆は片付けをしてくれ」



 ◇ ◇ ◇



 ウムムを連れて俺の家までやって来る。


「ウムム!」


 ギュッとウムムを抱きしめる。


「ソ、ソーマ様……あわわ」


「もう一度会えてよかった」


「わ、わ、私もですッ」


 今、わかった。

 こんなにもウムムが大切な存在だと言う事を。


 んっ? チクチクと体が痛い……


「爪が当たるのか……

 ウムム、その爪どうしたんだ?」


「ソーマ様と別れてから

 爪が自在に伸ばせるようになったのです。

 それにいつでも狼と人間、

 どちらにも変われるようになりました。

 大人になると獣人としての能力がレベルアップするみたいですッ」


「な、何!?」


「すいませんでしたッ。

 私がここにいるとソーマ様にご迷惑だと思って……

 黙って出て行ってしまいましたッ」


「全然迷惑じゃないよ」


「でも私……恩返しできないし」


「今日ので充分恩返ししてるよ」


「あの村長のお話……

 どうすればいいのでしょうか?」


「それなんだが……」



 ◇ ◇ ◇



 翌朝、村の集会が開かれた。

 今後の対策を立てる為だ。

 しかし、ソーマの姿はそこにはなかった。


「村長! ソーマが家にいません。

 それに書き置きが残っていました!」


「何、いなくなったと!

 それを見せてみよ」


 書き置きを手に取って読んだ。



 ----------------------


 村長、俺はこれから旅に出ます。

 昨日、村を救った人は故郷を探しているのです。

 俺はこの人に命を救ってもらった恩を返す為、

 一緒に故郷を探す旅に出ます。

 今まで猟師として勉強させてもらって、

 有り難うございました。

 その恩返しと言ってはなんですが、

 昨日、退治した黒狼の毛皮は貴重品で

 街で高く売る事ができます。

 そのお金で村の周囲に狼避けの柵を作る事を

 お勧め致します。


 ----------------------



「何? 旅に出たと?

 こんなに急にか。

 ソーマの奴め。

 しかし、村を救ってもらった英雄を助けると言うなら仕方ない。

 いつかは帰って来る時も来よう。

 その時は英雄と共にこの村を守ってくれよ」



 ◇ ◇ ◇



 夜のうちから歩いていたので村からかなり遠くまで来ていた。


「ソーマ様、本当に村を出て来てしまわれて

 よかったのですか?」


「いいんだ。

 今度は俺がお前に恩返ししたくてね」


「恩返しですか?

 ソーマ様と一緒にいる事が私には充分恩返しですのにッ」


「きっとどこかに君と同じ獣人がいるはずだ。

 君にも親兄弟が必ずいる。

 獣人の村もあるかもしれない。

 そこへ君を連れて行きたいんだ」


「確かに……自分が何者かを知りたいとは思いますが……

 いいのですか?

 旅は大変ですよ?」


「恩返しだ。

 人間も恩返しするって事を見せてやる」


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