不合格
「ご、合格取り消し!?!?!?!?」
「当たり前だろ何でアレで大丈夫だと思ったんだ」
王国運搬局の管理官執務室。
新人配達人アトリは、上司であるカルヴェルに見習い取り消し試験の不合格を伝えられたところであった。
危険の付き纏う職業である配達人は、見習い取り消し試験に合格しなければ正式な仕事を請け負うことが出来ない。
見習いのバッジが外れない限り、待っているのは運搬局の掃除や、配達物の仕分け作業だけだ。
「だってちゃんと積荷は無事だったじゃないですかー!!」
「どこが無事だッ!! 衝撃でちょっと折れてるし、砂で薄汚れてるし…………第一な、配達の度にバイク壊す気かお前」
カルヴェルは街の女性に人気の甘いマスクで、容赦なくアトリの不備を責め立てる。
「文字が残ってりゃ良いって訳じゃない。それが分かってない内は───配達局の看板は背負わせない」
バイク破壊の罰に局の掃除を言いつけられて、アトリは執務室から叩き出された。
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「配達局の看板は背負わせない〜って! そりゃまあちょっと事故っちゃったことに罪悪感はありますけどね? 合格取り消しは無いじゃないですかー!」
配達局の裏手の空き地で、アトリは体育座りで愚痴を溢す。隣で聞いているのはサラミルエ、先輩配達人の女性だ。
「カルヴェルくんがそんなに厳しいこと言うなんて珍しいんだけどね〜。アトリちゃん、気に入られてるんじゃない?」
「いやいやいや、なんでそうなるんですか! きっと私のことが気に食わないから一生見習いのままでこき使うつもりなんですよ、あの人!!!」
えーん、私こんなにカワイイのにー!!と、わざとらしく泣いてみせるアトリ。
実際、サラミルエの知っている中でも一二を争うくらい可憐な外見だから困る。自覚しているカワイイは、時として暴力なのだ。
「まあ、試験はまた来月も受けられるじゃない。それまでに一杯練習して、次はカルヴェルくんをびっくりさせてしまいましょう?」
カルヴェルを、びっくりさせる?
ぽわぽわと頭の中にシミュレーションが浮かぶ。完璧な試験結果に感激するカルヴェル。天下無双のアトリちゃん様に媚を売り出すカルヴェル。額を地べたに擦り付けて謝るカルヴェル。
うむ。わるくない。
「それ良いですね! びっくりし過ぎて心臓止まるくらい上出来にこなしてやりますよ!」
拳を天に突き上げ、意気込みする。そんなアトリを、カルヴェルは真上、建物の三階から呆れた顔で見下ろしていた。
「声がデカ過ぎるんだよ…………」