配達人アトリ
「美味しーーーーーーーーーーい!!!!!」
アトリ所望の超高級ケーキ。それをみんなと一緒に頬張って、多幸感のあまりのたうち回る。
今日はアトリの合格記念パーティーだ。本来は配達局の仲間内だけでやるものだが、アトリは先日の口封じを兼ねて、近所の子どもたちも呼んでいた。
アトリは、誰かを探すようにパーティー会場を見回してから、眉をひそめた。
(アールチカ、来てくれなかったな)
試験の次の日、心配になって荒れ地に出ると、何ということもなく、アールチカは元気そうに紙魚を食べていた。その時に、このパーティーのことを伝えたはずだったが、やはり会場には来ていないようだった。
(でも、なんとなく近くにいる気がするんだよね……)
ケーキを片手に、そっと会場を抜け出した。街を過ぎて、辿り着いたのは街の外、荒れ地。
少し壁に沿って歩いていくと、アールチカが城壁にもたれかかって座っていた。
「パーティー来てって言ったじゃないですか!」
「行くなんて答えてないからな」
つんとした態度でそっぽを向くアールチカ。アトリは頬を膨らませながらも、ケーキを差し出した。
「はい」
「んだこれ」
「超高級デザートですよ、カルヴェルさんに奢らせた」
「本当にやったのか…………」
その言い方に、あれ、カルヴェルさんに奢らせる計画、アールチカに話したっけ、なんて一瞬思ったアトリだが、構わず重ねて突き出した。
「紙魚なんかより絶対美味しいですから!」
「えー…………」
渋々ながらも受け取ったアールチカに、アトリは指を突きつけた。
「私、まだまだやることがあるんですよ」
「おう」
「武器もこれからオーダーするし、バイクだってバッチリ可愛く改装します」
「おう」
「全部見せたいので、いなくならないでくださいね!」
「……おう? でも契約は試験終了までだったろ」
「じゃあ延長!! 延長えんちょうエンチョウ!!」
絶対ですよーーーーーッッッと叫びながら戻っていったアトリを見つめて、アールチカは言った。
「…………やっぱあいつ、ドのつくアホだろ……」
それでもどこか、嬉しそうだった。
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「今日からお前も正式な配達人として仕事をすることになるな」
「そうですね!」
後日、管理官執務室に呼び出されたアトリは、カルヴェルからこれからの仕事についての説明を受けていた。
「今後は、場合によっては夜間の仕事を請け負うこともあるだろうから、言っておくことがある」
「何でしょうか?」
「夜に、洋墨の匂いのする人間に出会ったら、絶対に言葉を交わすな」
「…………はい?」
「どんな甘言をされようと、けして耳を傾けるな。契約を持ちかけられても無視しろ」
冷や汗が伝う。アトリは恐る恐る尋ねた。
「ちなみになんですけど……契約すると……?」
カルヴェルは何でもない風に答えた。
「処分の対象になる。有り体に言えば死刑だな」
「しけい」
「まあ、一応伝えるのがルールになってるだけで俺も詳しいことは分からないし、実際に見たやつも聞いたことないから、そう青い顔をするもんじゃないぞ」
「ま、そう、そうですよね! ええ! 都市伝説的なアレですよねーーーーー!!!」
管理官執務室を出たアトリ。もしかして、とんでもないことをしでかしてしまったのでは?
そう思っても後悔先に立たず。しかし
「ま、頑張れば何とかなりますよね! 私カワイイし!」
アトリは能天気だった。
そして何の因果かこの日から、自称天才美少女配達人アトリとその相棒アールチカは、ありとあらゆるトラブルとありとあらゆる陰謀に巻き込まれることになる。
こうして、秘密の契約は続いていくのだ。
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ひと月後、カルヴェルは部下から上がってきた報告書を見て頭を抱えた。
「………………アトリはまたバイクを壊したのか?」




