怪物のいる世界
荒れ地の中を、一台のバイクが猛烈な勢いで進む。
運転手である少女はサイドミラーを一瞥し、まだまだスピードは緩められそうにないと悟って溜息をつく。背後には黒い魚が、空を泳いで迫ってきている。
一層速度を上げるバイク。土埃を立てて魚を振り切ろうとする。内燃機関石が煙を上らせ始めた。
魚はもう、荷台に食いつかんとしている。
城壁に囲まれた街の、入口がようやく見えてきた。
門番が、声を張り上げて応援してくれているようだ。
もう少し、もう少し!
少女は白い長髪をたなびかせ、疾風の如く門を潜り抜ける。
街に入れたところでハンドルを切り損ね、事故さながらに横転する。お陰で、罪無き民家のドアをぶち破らずに済んだとも言える。
石畳にタイヤの跡を刻み込んで、少女は地面に転がっていた。
「だ、大丈夫ですか…………?」
先程の門番が駆け寄ってくる。
少女は勢い良く跳ね起きて、真っ青な顔で荷台を改める。一番上に載せられていた、黄ばんだ封筒を恐る恐る開けた。
無事。
大きく記されたその二文字を見て、少女は泣きながら門番とハイタッチする。
「や゛っ゛た゛よ゛ぉ゛お゛お゛!!!!」
「やりましたね!!! アトリさん!!!」
少女の名前はアトリ。
文字喰らう魚の棲む世界の、新人配達人である。