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アトミック・ガールズ!  作者: EDA
33th Bout ~Winter of Fate~
941/955

08 ガトリング・ガンとナイトメア

 扉の向こう側から、『ワンド・ペイジ』の『Rush』のイントロがかすかに聞こえてくる。

 さらに山寺博人のしゃがれた歌声が響きわたってから、瓜子は花道に足を踏み出した。


 とたんに、凄まじいばかりの熱気と歓声が五体に叩きつけられてくる。

 想像していた通り、開会セレモニーとは比較にならない熱量だ。灰原選手やエイミー選手たちの活躍でかきたてられた昂揚と、この一戦にかける期待の思いが、会場中に吹き荒れているようであった。


 眩いスポットを浴びながら、瓜子は一歩ずつ花道を踏みしめていく。

 胸は大きく高鳴っていたが、スタミナを消費するほどではないだろう。そして、さざまな思考や感情が渦巻いていた頭の中身も、一歩進むごとにどんどんクリアーになっていった。


 そうして花道を踏み越えたならば、『P☆B』にデザインされた華やかなウェアを脱ぎ捨てる。

 この大歓声では言葉を交わすことも難しかったので、瓜子はセコンド陣と拳を合わせることにした。


 蝉川日和は緊迫の表情で、存分に頬を紅潮させている。

 サイトーはいつも通りの、ふてぶてしい面持ちだ。

 立松は、気合の入った顔で笑っている。そして、瓜子と拳をタッチさせたのち、マウスピースをくわえさせてくれた。


 ボディチェック係に向きなおると、まずは顔に薄くワセリンを塗られていく。

 そして別の人間が、瓜子のグローブや手足や胴体に異常がないかチェックした。

 さらに、マウスピースの有無を確認されて、ボディチェックは終了である。


 瓜子はひとつ大きく息を吸い込んでから、ケージに続くステップを踏み越えた。

 ケージの内部には、レフェリーとリングアナウンサーと撮影クルーが待ちかまえている。

 瓜子が屈伸運動を始めると、リングアナウンサーがあらためてマイクをかざした。


『赤コーナーより、メイ・キャドバリー選手の入場です!』


 歓声の勢いは変わらない。

《アトミック・ガールズ》と《アクセル・ファイト》で活躍していたメイは知名度も十分であり、おかしな悪評も買っていないはずだ。かつて《カノン A.G》に加担してしまった罪も、今となっては遠い昔日の話であった。


 瓜子はあえて、視線をケージの内側に留めている。

 そして、ボディチェックを終えたメイがケージに上がってきたとき、初めてそちらに視線を向けた。


 メイは、静かに立っている。

 ブラックとイエローのカラーリングである、《アクセル・ファイト》の試合衣装だ。その身は昨日の前日計量のときと変わりなく、鋭い力感をみなぎらせていた。


『第七試合! ストロー級、115ポンド以下契約! 五分三ラウンドを開始いたします! ……青コーナー、《ビギニング》代表! 114.7ポンド! 新宿プレスマン道場所属! 《ビギニング》ストロー級第三代王者……ガトリング・ガン! 猪狩、瓜子!』


《ビギニング》における瓜子の異名は、『ガトリング・ラッシュ』ではなく『ガトリング・ガン』だ。

 そんな埒もない想念を頭の片隅によぎらせながら、瓜子は軽く右腕を上げた。


『赤コーナー、《JUFリターンズ》代表! 115ポンド! 新宿プレスマン道場所属! 《アクセル・ファイト》ストロー級ランキング第七位……ナイトメア! メイ・キャドバリー!』


 大歓声の中、メイは不動だ。

 その黒い瞳は、一心に瓜子を見つめていた。


 瓜子もまたメイの姿を見つめながら、レフェリーのもとに歩を進める。

 その一歩ごとにメイの姿が近づいて、瓜子を幸せな心地にしてくれた。


 昨日と同じように、メイは黒い瞳に気迫の炎を燃やしている。

 ただその顔は、とても安らかだ。

 そして、メイの気迫が瓜子の集中をどんどん研ぎ澄ましてくれた。


 メイもリカバリーの数値は、せいぜい二、三キロであるのだろう。外見上は、前日計量の場とそれほど変わっていない。その身はひたすらしなやかで、野生の獣めいた力感をかもしだしている。


 身長も体格も瓜子とおおよそ同一であるため、傍から見れば鏡合わせのように似通ったシルエットであろう。二人の視線は、ほとんど平行の角度で真っ向からぶつかっていた。


「それでは、クリーンなファイトを心がけて!」


 大歓声に負けないように、レフェリーが声を張り上げる。

 メイが両手を出してきたので、瓜子も両手でそれをつかみ取りながら、メイの耳もとに口を寄せた。


「メイさん、よろしくお願いします」


 瓜子が身を引くと、メイは安らかな表情のまま、こくりとうなずいた。

 幼子のように可愛らしい仕草であるが、その目の気迫はいっそう猛烈に燃えあがっている。瓜子は最後にメイの硬い拳を握りしめてから、身を引いた。


「いいか! ファーストアタックには気をつけろよ! あっちは、瞬発力のバケモノだからな!」


 立松もまた、懸命に声を張り上げている。

 瓜子はメイの姿を見つめたまま、小さく手をあげてそれに応えた。


『ファーストラウンド!』のアナウンスに、レフェリーの「ファイト!」という声と、試合開始のブザーが重ねられる。


 瓜子は全身にわきかえる熱情をこらえながら、慎重に足を踏み出した。

 立松の言う通り、メイの恐るべきはその瞬発力である。たとえ同じような体格であっても、瓜子とメイでは筋肉の質が異なっていた。


 瓜子がメイと対戦したのはもう三年も前の話であるが、二年ほど前にはキックルールのエキシビションマッチで対戦している。その際には、瓜子がいきなりダウンを奪われることになったのだ。


 もしもあれがMMAの試合であったならば、すぐさまグラウンドで上を取られて窮地に陥ったことだろう。

 それぐらい、メイは強敵であるのだ。世間がどのような評価であろうとも、瓜子にとってのメイは最大のライバルであった。


(メイさんの瞬発力に負けないように、ひたすら稽古を積んできたんだ。そう簡単にはいかせませんよ)


 瓜子はメイに近づく前から、サイドステップも多用した。

 リズムをつかまれないように、インサイドとアウトサイドの両方にステップを踏む。そのタイミングや歩幅なども、一歩ごとに変化をつけていた。


 メイの瞬発力に対抗する瓜子の武器は、機動力であるのだ。

 瞬間的なスピードはメイに負けても、小回りは瓜子のほうがきく。ステップワークひとつを取っても、瓜子とメイは対極的であった。


 メイもサイドステップの稽古を積んでいるが、驚異的であるのはやはり前後の動きの俊敏さだ。その踏み込みの鋭さを駆使した打撃とタックルが、要注意であった。


(スタンド状態の組み合いは、あたしもしっかり稽古を積んできた。でも、寝技だけはメイさんにかなわないからな。タックルだけは、絶対に切るぞ)


 メイの周囲をせわしなく移動しながら、瓜子は牽制のジャブを振っていく。

 時にはスイッチも織り交ぜて、リズムの攪乱も忘れなかった。


 いっぽうメイはひゅんひゅんと前後に動きながら、まだ手を出そうとはしない。

 ただその目は、しきりに瓜子の足もとに向けられていた。


(もちろんメイさんも、積極的にテイクダウンを狙ってくるだろう。グラウンドで上を取れば、存分にあたしを削れるからな)


 メイのタックルのプレッシャーが、瓜子の集中をいっそう研ぎ澄ましていく。

 こうしているだけで、背筋がぞくぞくするような緊張感だ。

 なかなか二人が接触しないので、大歓声に焦れた響きが入り混じった。


 しかし瓜子は気負うことなく、然るべきタイミングを待ち受ける。

 まずは、メイの俊敏さに目を慣れさせなければならないのだ。合同稽古では犬飼京菜を筆頭とするアトム級の精鋭にスピード対策で協力を願ったが、やはり本物は迫力が違っていた。


(たぶんメイさんと犬飼さんは、同じぐらいの瞬発力だろう。でも、メイさんは犬飼さんより十センチも大きくて、十キロ以上も重いからな)


 メイは、メイにしかない強さを持っているのだ。

 それを誇らしく思いながら、瓜子はひたすらステップを踏み続けた。


 そうしておたがいにステップを踏んでいるだけで、一年ばかりの空白期間がじわじわと埋められていくかのようである。

 ほんの一年前までは、毎日のようにメイとスパーを積んでいたのだ。そして時にはしっかり防具を着用した上で、本気のスパーにも取り組んでいたのだった。


 そのときに感じていた迫力の記憶が、まざまざと蘇ってくる。

 そして、瓜子の中で現在と過去の記憶がぴったり重ねられたとき――そのイメージを突き破って、メイが肉迫してきた。


 メイの左拳が、思わぬ勢いで瓜子の鼻先に迫ってくる。

 左の、ショートフックである。それは瓜子がこれまで体験してきた中で、もっとも鋭いショートフックであった。


 やっぱりメイは、この一年でさらなる成長を遂げていたのだ。

 そんな実感とともに、瓜子は右腕でメイの拳を受け止めて――それと同時に、左膝をすくわれていた。


 メイは左のショートフックを放ちながら、右手を瓜子の左膝裏にのばしていたのだ。

 左膝を引かれながら、ショートフックをブロックした右腕を押される。

 変則的な、ニータップだ。

 瓜子は白い雷光めいたものが頭の奥に閃くのを知覚しながら、右足一本で後方に跳躍した。


 しかし、メイの姿は遠ざからない。

 すでにメイの右手は振り払ったはずであるが、メイは同じ勢いで前進していたのだ。

 そして瓜子は、足もとにのばされていたメイの右拳が力をたわめるのを感じ取った。

 ニータップをすかされたメイは、低い位置にある右拳でアッパーを狙っているのだ。


 瓜子はほとんど無我夢中で、首をのけぞらせた。

 今はもう、スウェーバックしか選択肢はなかった。

 すると、後頭部がフェンスに激突した。

 瓜子が後方に跳躍したことで、フェンスがすぐ背後に迫っていたのだ。


 自分の立ち位置を把握するのは、試合中における大原則である。

 思わぬ勢いで迫り寄ったメイの迫力が、瓜子に大原則を忘れさせたのだ。


 そしてメイは右アッパーを発射せず、そのまま瓜子に組みついてきた。

 瓜子はフェンスに押しつけられて、壁レスリングの体勢である。

 この状況を作るために、右アッパーのフェイントをかけたのか――あるいは、瓜子がスウェーバックの挙動を見せたために組みつきに切り替えたのか――真実は知れなかったが、ともあれ瓜子は一発の攻撃を出すこともできないまま、フェンスに押し込まれてしまった。


 瓜子はすかさず腰を落とそうとしたが、メイの右腕はすでに左脇に差し込まれている。その腕が、猛烈な勢いで瓜子の身を差し上げてきた。

 さらに、メイの頭が瓜子の下顎に押しつけられてくる。メイの頭は豊かなドレッドヘアーでコーティングされていたが、その下には誰よりも硬い頭蓋骨がひそんでいた。


 瓜子は何とか背中をのばされないように耐えながら、両足を横に向けてフェンスに密着させる。

 そんな瓜子にべったりとはりついて、メイはぐりぐりと頭を押しつけてくる。

 親愛のハグならぬ、壁レスリングの攻め手である。

 瓜子たちには、これが再会の挨拶に相応しいのかもしれないが――さりとて、このような苦境を甘受するわけにはいかなかった。


(壁レスなら、あたしだって負けないぞ!)


 瓜子もまた右腕をメイの左脇に差し返して、圧迫に対抗する。

 そこから左腕も差し返せれば理想であったが、こうまで脇を差し上げられた状態ではそれも難しい。まずはこの五分の状態を維持して、そこから打開の道を探るしかなかった。


(パワーじゃ、メイさんにかなわない。正しい手順で、脱出するんだ)


 今はメイもポジションキープに徹しているため、隙がない。膝蹴りや肘打ち、あるいは左腕の差し返しを狙って動いたときが、瓜子にとってもチャンスであった。


(集中して、メイさんの動きについていくんだ)


 そのように考えて、瓜子は万事に備えたが――そんな瓜子をせせら笑うかのように、メイの身がふっと脱力した。


 反射的に、瓜子はメイの身を突き放そうとする。

 すると、それよりも早くメイが動いて、瓜子の左足をすくいあげた。


 瓜子の左脇を差し上げていたはずの右腕が、いつの間にか足もとにのばされている。

 そして、瓜子がメイを突き放そうとする動きに合わせて、瓜子の膝裏を抱え込んだのだ。


 さらに右側から圧力をかけられて、瓜子の身は左側に引きずり倒されていく。

 フェンスにこすられた背中に、熱い痛みが走り抜けた。


 反射的にフェンスをつかもうとした瓜子は、慌てて動きを停止させる。フェンスをつかんでテイクダウンをこらえるというのは、きわめて悪質な反則行為であるのだ。思わずそんな行為に手を出しそうになるぐらい、メイの動きは瓜子の想定を超えていた。


 そうして瓜子はなすすべもなく、マットにねじ伏せられてしまう。

 フェンス際の、窮屈なポジションだ。瓜子の脳裏には、グウェンドリン選手とフワナ選手の一戦が蘇っていた。


(動きにくいけど、このポジションならマウントは取られにくい)


 そんな風に考えた瓜子の目の奥に、火花が弾け散った。

 テイクダウンを成功させると同時に、メイが拳を飛ばしてきたのだ。


 瓜子が大慌てで頭部をガードすると、その腕にも容赦なくパウンドを叩きつけられる。

 自分とメイがどのような体勢になっているのかも把握しきれないまま、瓜子はパウンドの嵐にさらされることになった。


(このままくらい続けるのは、まずい)


 こんな序盤でレフェリーストップをかけられることはそうそうないだろうが、石のように硬いメイの拳をくらい続けていたら、腕を壊されかねない。なおかつ、瓜子が動きを止めていれば、さらに危険な展開を迎えるはずであった。


 スタミナが切れかかっていたフワナ選手はここで動きを止めてしまったため、強引な膝蹴りをくらうことになったのだ。

 瓜子がそのように考えたとき、腹のあたりを圧迫していた重みが消え去った。


 瓜子はほとんど本能で、空いた腹部を右腕で守る。

 するとそこに、強烈な衝撃が叩きつけられた。まさしくメイは、動かぬ瓜子に膝蹴りを叩き込んできたのだった。


 しかしそれは、ポジションキープを二の次にする行為に他ならない。

 瓜子はとっさに左肘をマットにつき、フェンスを背にして半身を起こした。


 すると、その両肩をがっしりとつかまれてしまう。

 そして、恐ろしい光景が目の前に見えた。

 瓜子の両肩を押さえつけたメイが、再び膝を振りかぶっていたのだ。


 瓜子は背筋を粟立たせながら、胸の前で両腕をクロスさせる。

 瓜子はまだマットに座り込んだ状態であるため、首から上に打撃を撃ち込むのは反則だ。たとえ勢いに乗っていても、メイが反則を犯すことはないと信じていた。


 結果、メイの右膝はクロスさせた両腕のど真ん中に撃ち込まれる。

 ガード越しでも呼吸が止まるような、強烈な一撃だ。


 しかし、呆けているいとまはなかった。瓜子は両肩を押さえつけられているだけであるのだから、強引にでも立ち上がるのだ。


 だが、この際にも、メイのほうが早かった。

 メイは膝蹴りを叩きつけるや、そのまま瓜子の腰にまたがってきた。


 瓜子はフェンスにもたれて座った状態であるので、メイの側も決して安定した状態ではない。

 そんな状態のまま、メイは横合いから瓜子の頭部に拳を叩きつけてきた。

 不安定な体勢で、大した射程も確保できないため、それほどの威力ではない。しかし、メイの強靭な拳である。瓜子は、タオルでくるんだ石の塊をごつごつと頭にぶつけられているような心地であった。


 こんな攻撃でも数をもらえばダメージが溜まるし、出血を招く恐れもある。けっきょく瓜子は、一秒も安穏としていられなかった。


(とにかく、脱出だ)


 瓜子はメイとの間にはさまれていた両腕を突っ張りつつ、腰を引いた。

 そうして背中が真っ直ぐになれば、メイの身は腿の上に乗っている格好になる。ここまでくれば、強引に立ち上がることも難しくなかった。


 瓜子はメイの向こう側で膝を立て、一気に立ち上がるべく力をたわめる。

 すると再び両肩をつかまれて、腿の上からメイの重みが消失した。


 立ち上がり際に、また膝蹴りを狙っているのだ。

 瓜子は再び両腕をクロスさせながら、力ずくで立ち上がった。


 しかし、膝蹴りは飛んでこない。

 瓜子が身を起こす過程で、両肩の圧迫も消えている。

 そして瓜子の眼下には、メイの後頭部と背中が見えた。

 瓜子が身を起こすと同時に、メイは身を屈め――そして、瓜子の両足につかみかかろうとしていたのである。


 瓜子は心底から驚嘆しつつ、足を開いて腰を落とした。

 それで何とか両足タックルをガードすると、メイの頭が鼻先にせり上がってくる。両足タックルを切られるや、胴体の組みつきに移行したのだ。


 瓜子はとっさにメイの首裏を抱え込み、首相撲の体勢を作ってから、背後にそびえたつフェンスを後ろ足で蹴り飛ばした。

 その勢いを利用して前進しつつ、メイの身体を右側に振って、突き放す。

 瓜子はその離れ際に左肘を振るったが、メイは用心深く頭を下げながらステップを踏んで、遠ざかった。


 しかしそこで動きを止めることなく、前後にステップを踏み始める。

 いっぽう瓜子は、咽喉が痛くなるぐらい呼吸が荒くなっていた。


 息をつかせぬメイの猛攻が、瓜子の体力を存分に削ったのだ。

 それに、頭部と両腕には鈍い痛みが残されており、胸の奥にも違和感が生じている。メイの強烈な膝蹴りが、ガードの上から体内にダメージをもたらしたのだ。


 客席の歓声は、わんわんと鳴り響いている。

 瓜子が苦境に陥っている間も、ずっと歓声は鳴り響いていたのだろう。瓜子はようやくそれを知覚できるだけの状態に立ち戻ったのだった。


 そして、「二分経過ッス!」という蝉川日和の必死な声がかすかに聞こえてくる。

 いつの間にか、二分もの時間が経過していたのだ。

 その二分間、瓜子はずっと攻め込まれていた。メイの猛攻が、瓜子から二分の時間を奪い去ったのだ。


 黒い目を爛々と燃やしながらステップを踏むメイを前に、瓜子は大きく息をつく。

 やはりメイは、とてつもなく強くなっていた。瓜子がもっとも警戒していたテイクダウンをあっさりと奪取して、瓜子の身に数々のダメージを刻みつけていったのだった。


(本当に……メイさんは、すごいですよ)


 性懲りもなく、瓜子は笑ってしまいそうだった。

 それぐらい、メイの存在が誇らしかったのだ。


 瓜子もまた、メイの期待に応えなければならない。

 そんな決意を胸に、瓜子はメイのもとに足を踏み出すことにした。

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