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アトミック・ガールズ!  作者: EDA
33th Bout ~Winter of Fate~
931/955

13 尽力

 最終ラウンドを前にしたインターバルにおいて、高橋選手はぐったりと疲弊しきった姿をさらしつつ、その目は明るくきらめいていた。

 それをケアするチーフセコンドのほうが、よほど殺気だっているようだ。ただし、フェンスから身を乗り出して高橋選手の頭に氷嚢をあてがっている鬼沢選手も、普段通りの不敵さでにやついていた。


 トータルとしては、明るい雰囲気である。

 しかし決して、ゆるんではいない。高橋選手の泰然としたたたずまいが、張り詰めた空気を中和するほどの落ち着いた空気を生み出しているように感じられた。


 それに対するレベッカ選手の陣営も、落ち着き払っているように見受けられる。

 あちらは一ラウンド目で確実にポイントを取っているので、まだまだゆとりがあるのだろう。判定勝負が定番であるレベッカ選手の陣営は、焦りとも気負いとも無縁であるようであった。


「さー、いけいけ、ミッチー! ポイントじゃなく、KOを狙っちゃえー!」


「浅はかなウサ公とは別の視点でも、道子はKOを狙う勢いで攻めるべきだわね。二ラウンド目のポイントが不確定なんだわから、最低でも2ポイントは欲しいんだわよ」


 あのレベッカ選手からKOや2ポイントを奪取するというのは、過酷にもほどがあるだろう。

 しかし、ユーリもレベッカ選手から一本勝ちを収めることがかなったのだ。

 ユーリから《アトミック・ガールズ》のベルトを受け継いだ高橋選手には、大きな期待をかけたいところであった。


 そうして客席と控え室がわきたつ中、最終ラウンドのブザーが鳴らされる。

 高橋選手はすり足、レベッカ選手はこれまでと同じく前後の動きを重視したステップワークだ。


 やはりどちらも、沈着そのものの様子である。

 ただ――レベッカ選手の足取りが、わずかに力強さを増していた。


 鋭く踏み込んだレベッカ選手は、奥足からのローキックを放つ。

 高橋選手は左かかとを浮かせて衝撃を逃がしたが、当たった部位はふくらはぎの下部だ。試合再開早々の、カーフキックであった。


 すり足を取りやめた高橋選手はバックステップを踏んでから、左足を軽く振る。

 かかとを浮かせるだけでは、カーフキックの衝撃を逃がしきれなかったのだ。そして、レベッカ選手のギアがわずかに上げられたため、もはやすり足では対処しきれないと判断したのだろうと思われた。


(やっぱりレベッカ選手も確実にポイントを取るために、ギアを上げてきたんだ)


 それでも無理が出ないぐらい、スタミナの配分も完璧なのだろう。レベッカ選手の洗練された動きにはいっさいよどみも見られず、ただ力感だけが増していた。


 高橋選手はそれに負けない動きでステップを踏みながら、牽制の左ジャブを出している。

 早くもその身は新たな汗に光り始めていたが、眼差しの明るさに変わりはなかった。


 レベッカ選手が再び鋭く踏み込んで、今度は右ミドルを射出する。

 それを左腕でガードした高橋選手は、レベッカ選手に組みつこうとした。

 しかしレベッカ選手は高橋選手の身を突き放して、左のショートフックを放つ。

 高橋選手が右腕でガードすると、今度はレベッカ選手が両足タックルを仕掛けた。


 高橋選手は何とか左足を引いてテイクダウンをこらえたが、そのまま背後のフェンスにまで押し込まれてしまう。

 一ラウンド目の終盤以来の、壁レスリングだ。ここで倒されては時間とポイントを大きく失うことになりかねないので、高橋選手は懸命にディフェンスした。


 しかし壁レスリングは、フェンスに押し込まれているほうが劣勢と見なされる。この状態のままでは、どのみちポイントはレベッカ選手のものであった。


「本当に……このレベッカってのは、うんざりするぐらい冷静で、堅実だね」


「それは最初からわかりきっていたことなんだわよ。道子は道子の武器で対抗するしかないだわね」


 しかしまた、壁レスリングからの脱出に特殊な手立てなどは存在しない。相手の重圧を押し返して、横に逃げるかポジションを入れ替えるしかないのだ。

 高橋選手の下顎に頭をあてがったレベッカ選手は、内腿に膝蹴りを叩きつけていく。

 そうして片足を浮かせても、レベッカ選手の重心はまったく揺らいでいない。高橋選手は懸命に腰を落とそうとしているが、右脇を差し上げられる力が強いため、まったく動くことができなかった。


 そうしてけっきょく一分近くもそんな体勢が続いたため、膠着状態と見なされてのブレイクである。

 試合時間は、残り半分だ。レベッカ選手にペースを握られたまま、二分半が過ぎてしまった。


 泣いても笑っても、残り時間は二分半である。

 すると――ケージの中央でレベッカ選手と向かい合った高橋選手が、「しゃあッ!」と大きな声をあげた。


 ケージ内の無意味な発声は反則を取られかねないが、気合の声は見逃されることが多い。このたびも、試合は粛々と再開された。


 高橋選手は、気合の入った面持ちで進み出る。

 ただその瞳は、これまで以上に明るくきらめいていた。


 高橋選手は力強くステップを踏みながら、ワンツーからの左ミドルというオーソドックスなコンビネーションを見せる。

 最後の左ミドルを右腕でブロックしたレベッカ選手が蹴り足を捕まえようとすると、高橋選手は強引にその手を振り払い、右フックを射出した。


 レベッカ選手はスウェーバックで回避しつつ、もののついでのように前蹴りを繰り出す。

 しかしそれは的確な一打であり、高橋選手の腹をまともに蹴り抜いた。

 高橋選手は一瞬動きを硬直させたが、すぐさま前進する。そして、自らも前蹴りを繰り出した。


 レベッカ選手は力強い所作でそれを振り払い、後方に引こうとする。

 高橋選手は蹴り足を前に下ろして、さらに追い突きの右ストレートを繰り出した。


 レベッカ選手は素晴らしい反射速度で首をひねり、高橋選手の右腕を巻き込むようにして左フックをお返しする。回避できるタイミングではなかったため、高橋選手は首をすくめることでその衝撃に耐えた。


 そしてさらに、高橋選手はレベッカ選手につかみかかろうとする。

 レベッカ選手はその腕をかいくぐり、レバーブローを狙った。

 高橋選手は肘を落とすようにして、ぎりぎりのタイミングでブロックする。

 それからさらにつかみかかろうとしたが、レベッカ選手に両手で突き放されてしまった。


 それでようやく距離が空くかと思われたが、高橋選手はなおも前進した。

 劣勢の選手が力を振り絞るのは当然の話であったが、それにしても矢継ぎ早の攻撃だ。スタミナにゆとりがあるのはレベッカ選手のほうなので、このままでは高橋選手が先に力尽きてしまいそうだった。


(でも……なんだろう、この感覚は? 何か、懐かしいような……)


 高橋選手はもはや全身が汗だくであるが、その瞳だけは明るく輝いている。

 そして今度は、右の前蹴りから右の追い突き、左の突きから左の中段蹴りという空手流のコンビネーションを見せた。


 レベッカ選手は最初の二発を危なげなく回避したが、左の突きで出足を止められ、最後の蹴りは腕で受けることになった。

 これは空手ならでのコンビネーションで、キックやムエタイやMMAではほとんど見られない連携であるのだ。これもまた、レベッカ選手への対策として磨いてきた技のひとつであった。


 さらに高橋選手はコンビネーションが終わると同時に、両足タックルのフェイントを見せた。

 レベッカ選手は引くべきか受け止めるべきか迷うように、動きを止める。

 そこに、高橋選手の右フックが繰り出された。


 レベッカ選手は、危ういタイミングで頭部をガードする。

 すると高橋選手はその右腕でレベッカ選手の肩をつかみ、組み合いに持ち込もうとした。

 レベッカ選手は身をよじり、アウトサイドに逃げようとする。

 それをせきとめるように、高橋選手は膝蹴りを繰り出した。


 レベッカ選手はそれすらもしっかりガードしてみせたが、足は止まっている。

 そして高橋選手は、至近距離からまたコンビネーションを発動させた。


 最初の左膝蹴りを起点にして、左ジャブから右ストレートのワンツー、そして右のミドルである。前蹴りを膝蹴りに切り替えつつ、左右を入れ替えた空手流のコンビネーションに仕立てられた形であった。


 レベッカ選手は、それらのすべてをガードする。

 ただし、反撃の手を出すことはできなかった。


「わー、なになに? いきなり、ミッチーのペースじゃん!」


「よくわかんないけど、動きのキレが増したよね。あれはたしか、高橋が若い頃に得意にしてたコンビネーションなんだっけ?」


「ミッチーは、今でも若いけどね! まー何でもいいから、そのままたたみかけちゃえー!」


 高橋選手が攻勢に転じたことで、客席も控え室も盛り上がっている。

 レベッカ選手は一発の有効打も許していないが、どんどん反撃のペースが落ちているのだ。高橋選手の躍動感にあふれた攻撃が、レベッカ選手のリズムを狂わせたのだった。


(でも、この懐かしさは、何なんだろう?)


 灰原選手が言う通り、高橋選手は若い時代に空手流のコンビネーションを得意にしていたと語っていたが、それは《アトミック・ガールズ》に参戦するよりも前の話であったため、瓜子が目にしたことはない。なおかつ、合同稽古の場ではそれらのコンビネーションを入念に磨きあげていたのだから、瓜子が懐かしさを感じるいわれはなかった。


 そして――なんの脈絡もなく、瓜子の脳裏にユーリののほほんとした顔が浮かびあがる。

 しかし、ユーリが高橋選手と対戦したことはない。また、ユーリがレベッカ選手と対戦した折にも、こんな攻防は交わされていないはずであった。


 そうして瓜子が小さな疑念を抱え込みながら見守る中、高橋選手はさらなる攻撃を振るっている。

 今度は右ローから開始して、右手で相手の腕を押さえ、左手で相手の頭を押さえ、左の膝蹴りである。技の種類は変われども、足技、同じ側の手技、逆側の手技、逆側の足技という順番だけは同一であった。高橋選手はその流れで、さまざまなコンビネーションを構築したという話であったのだ。


 レベッカ選手は、まだその動きを追いきれていない。

 今は防御を固めながら、つけいる隙を模索しているのだろう。これだけ攻め込まれながら、レベッカ選手はいまだ沈着なままであった。


 ただその間も、着々と時間は過ぎている。

 高橋選手が攻勢に出た時点で、残り時間は二分半であったのだ。あっという間に三十秒が過ぎ、一分が過ぎ――残り時間は、一分となった。


 ずっと攻撃を出していた高橋選手は、明らかにスタミナが尽きかけている。

 そして、防御に徹していたレベッカ選手はスタミナも十分で――なおかつ、ラスト一分でたたみかけるというのは、近代MMAの常道であった。


 そんなタイミングで、高橋選手は身を引いてしまう。

 レベッカ選手は、それに倍する勢いで前進した。


 そうして堅実なるレベッカ選手が、まずは左ジャブを繰り出そうとしたとき――その身が、横合いに倒れ込んだ。

 レベッカ選手が踏み出そうとした左足を、高橋選手の左足が払ったのだ。

 それは柔道の出足払いであったが、上体の崩しもないままに仕掛けるには、相手の動きのタイミングを完全に読み切る必要がある。この土壇場で、高橋選手はそんな妙技を成功させたのだった。


(つまり……レベッカ選手がラスト一分で攻勢を仕掛けることを、逆手に取ったのか)


 胸を熱くする瓜子の眼前で、高橋選手はレベッカ選手の上にのしかかる。

 しかしレベッカ選手は、高橋選手を上回るグラウンドテクニックを有している。高橋選手はサイドポジションを取ったが、すぐにハーフガードまで戻されてしまった。


 それでもハーフガードというのは、上の人間にとっても重心を安定させやすいポジションである。

 もとよりスタミナが枯渇していた高橋選手は、その状態で荒い息をついていた。


「休んでるひまはないだわよ。うかうかしてると、逆転されるだわよ」


 鞠山選手のそんな言葉が、瓜子に嫌な記憶を想起させた。高橋選手は青田ナナとの最初の対戦で、同じような状態から逆転負けをくらうことになったのだ。


 すると――高橋選手は大きな背中を上下させながら、懸命にパウンドを振るい始めた。

 相手の上体にべったりとのしかかりながら、片腕で横合いから相手の顔面を狙う格好だ。それは、第二試合の魅々香選手とまったく同じ様相であった。


 しかしレベッカ選手はその状態で固まることをよしとせず、懸命に腰を切っている。

 それを逃がさないように重心を移動させつつ、高橋選手は執拗に拳を叩きつけた。

 おそらくは、鉛のように重い腕を無理やり動かしているのだろう。ダメージを与えるどころか、嫌がらせにもなっていなそうな攻撃だ。


 しかし、上のポジションをキープして攻撃し続けているのは、高橋選手のほうであり――けっきょくは、その状態のまま、最終ラウンド終了のブザーを迎えることに相成ったのだった。


「あー、惜しー! ……でも、もっと時間があったら、逆転されちゃってたかもねー!」


「ああ。高橋は、ぎりぎりのところまで頑張ったよ。あとは、運を天にまかせるしかないな」


 奇しくも、高橋選手は魅々香選手と同じような状況で判定を待つことになったのだ。

 一ラウンド目は相手の優勢で、二ラウンド目はこちらがやや優勢、三ラウンド目はこちらの優勢であるという点まで、似通っている。細かい試合内容はまったく違っているのに、不思議な偶然であった。


 しかしまた、重要であるのはその細かい部分であるのだ。

 一ラウンド目と最終ラウンドの優劣がはっきりしているために、すべては二ラウンド目の内容にかかっているのだった。


(これはちょっと……厳しいかもしれない)


 第二ラウンドにおいて、レベッカ選手の有効打は一発、高橋選手は二発であった。しかし、苦しそうな顔を見せていたのは、高橋選手のほうであったのだ。また、ラウンド内の流れを考えても、主導権を長く握っていたのはレベッカ選手であると見なされてもおかしくはなかった。


(本当に、ぎりぎりの勝負だった。レベッカ選手をそこまで追い込んだだけでも、大したもんだけど……)


 瓜子がそのように考えたとき、『判定の結果をおしらせします!』というリングアナウンサーの声が響きわたった。


『ジャッジ、横山。29対28。赤、レベッカ!』


 最初の票は、レベッカ選手である。

 たちまち会場にはブーイングの声が吹き荒れたが、これは日本人選手に肩入れしてのことだろう。瓜子はどちらに軍配があがろうとも、文句をつける気にはなれなかった。


『ジャッジ、ルドマン。29対28、青、高橋!』


《アクセル・ファイト》のジャッジは、高橋選手に一票だ。

 大歓声の中、高橋選手は天井を仰ぎながらぜいぜいと息をついていた。


『サブレフェリー、チャン。29対28、赤、レベッカ! 以上、2対1をもちまして、赤コーナー、レベッカ選手の勝利です!』


 歓声とブーイングが、同じ質量で爆発した。

 半分の人間は、判定の内容に納得したか――あるいは、試合内容そのものに納得したのだろう。瓜子もまた、悔しい気持ちを心の片隅に抱え込みつつ、高橋選手の健闘を祝福したい気持ちのほうがまさっていた。


 モニターでは、レベッカ選手が右腕をあげられている。

 そうしてレフェリーに腕を離されるなり、レベッカ選手はせわしない足取りで高橋選手のもとに近づき、その手を握りしめた。


 高橋選手は、きょとんとした顔でレベッカ選手を見返す。

 レベッカ選手は高橋選手の耳もとに口を寄せて、何か囁きかけた。


 歓声とブーイングが物凄いため、そうまで身を寄せなければ言葉を伝えることも難しいのだろう。

 そうして長々と語らったのちにレベッカ選手が身を引くと、今度は高橋選手のほうが身を寄せた。


 高橋選手は、短い時間で身を離す。

 すると今度は、レベッカ選手のほうがきょとんとした顔になり――そしてにわかに、柔和な笑顔をさらした。


 レベッカ選手はいつも柔和な表情だが、笑顔を見せるのは珍しいことだ。

 そうして二人が笑いながら両手で握手を交わしていると、ブーイングの声も消えていき、最後には歓声が残されたのだった。


「あーあ、残念だったねー! それにしても、最後は何をコソコソ喋ってたんだろ?」


「ふふん。察しが悪いだわね。聡明なるわたいには、道子の返した言葉が手に取るようにわかるんだわよ」


「うそつけー! ミッチーは、なんて言ったってのさー?」


「アイ・キャン・ノット・スピーク・イングリッシュだわね。レベッカがどんなに熱いメッセージを送ったとしても、不勉強な道子には伝わらないんだわよ」


 今度は灰原選手がきょとんとした顔になり、それから控え室が笑い声に包まれた。

 きっと高橋選手が明るい笑顔であるために、瓜子たちも笑うことができたのだろう。悔しいことに変わりはないが、高橋選手は持てる力をめいっぱい振り絞ったのだ。あとはもう、明日の勝利に向かってさらなる力をつけるしかなかった。


「ただ、高橋選手の最後の盛り返しで、自分はやたらと懐かしい気持ちになっちゃったんすよね。ユーリさん、何か心当たりはありませんか?」


「うにゃ? ユーリがいかにうり坊ちゃんのことを溺愛していようとも、過去の記憶まで見通すことはできませんぞよ」


「そうっすか。なんか、ユーリさんの顔もちらつくんすよね。だから、ユーリさんがらみの話かと思ったんすけど……」


 すると、ユーリの隣に立ちはだかっていた愛音が「愚問なのです」と言い放った。


「そんなことも察せられないとは、やっぱり猪狩センパイは信心が足りていないのです。もっともっとユーリ様を崇めたてまつるべきであるのです」


「それじゃあ邑崎さんには、何が懐かしいのかわかるんすか?」


「その身に刻みつけられた技術を思うさま叩きつけることでペースを握り返すというのは、来栖サンと対戦した際のユーリ様さながらであったのです。きっと高橋選手は来栖サンを尊敬たてまつっているので、あの試合を何べんも見返しているはずであるのです。それできっとユーリ様の勇姿が、高橋選手に天啓を与えたのです」


 瓜子は、咽喉に刺さっていた魚の小骨が取れたような心地であった。

 確かにユーリは来栖舞と対戦した折、最終ラウンドでコンビネーションを乱発していたのだ。今でも活用されているあの戦法は、そのときに誕生したのだった。


(あれは、ユーリさんを見習ってのことだったのか。でも、高橋選手は視力のハンデもないから、ユーリさんほど素っ頓狂な形にはならなかったんだな)


 まあ、すべてはこちらの憶測であるが――何にせよ、高橋選手はこれまでに積み重ねてきたものを、すべて振り絞ることができたのだろう。

 その成果は、レベッカ選手の笑顔だ。彼女が何を語ったかは謎のままであったが、その笑顔だけで思いはすべて伝わったはずであった。

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