06 ハッピーバースデートゥーユー
ユニオンMMAとドッグ・ジムの面々に、オルガ選手とキリル氏と兵藤アケミを迎えたことで、プレスマン道場における合同稽古はますます活気を帯びていった。
十二月に入った時点で本番までは残り一ヶ月であり、最後の二週間は調整期間となるため、ここからの二週間が最後の追い込みとなるのだ。その期間をこれだけの頼もしい顔ぶれとともに過ごせるというのは、なんとも贅沢な話であった。
また、ユニオンMMAの面々との合同稽古がきわめて有益であることは夏の来訪でも実証されていたし、このたびはトレーナー陣まで同行している。海外のトップチームのトレーナー陣を前にして、こちらのトレーナー陣――来栖舞や雅や兵藤アケミたちも、静かに奮起しているように感じられた。
さらに大きな刺激になったのは、やはりオルガ選手とキリル氏であろう。世界的な視野で見れば、もっとも大きな実績を築いているのはそちらの両名であったし――そして彼らは、その高名に相応しい実力を備え持っているのである。選手としてのオルガ選手、コーチとしてのキリル氏というのは、誰にとっても無視できない存在であった。
そして、それに負けないぐらい場を賑やかしてくれたのは、犬飼京菜である。
やはり規格外の敏捷性を備え持つ彼女は、あらゆる相手にとって難敵であったのだ。赤星弥生子が初日に語っていた通り、バンタム級の選手などは犬飼京菜とやりあうと調子を崩しかねなかったので、早々にスパーリングを取りやめるほどであった。
「猪狩やサキや邑崎、それに小柴や大江山なんかだったら、課題を絞るとすごく実のある稽古を積めるんだけどさ。犬飼だけは、難しいね。本当に、ただの鬼ごっこにしかならないんだよ」
高橋選手は感服の思いを込めて、そんな風に言っていた。
まあ、バンタム級にはアウトファイター自体が少ないので、致し方ない話である。ベリーニャ選手などは数少ないアウトファイターであったが、それでも犬飼京菜をユーリのスパーリングパートナーにあてがうのは不相応であろう。ベリーニャ選手はパンチ、犬飼京菜はキックが主体であるので、そういう意味でもまったく似通っていなかった。
その代わりに、ストロー級とフライ級では引く手あまたである。
その中でも、とりわけ有用と見なされたのは瓜子と鞠山選手と魅々香選手、そしてグウェンドリン選手の四名であった。この四名は自分よりも瞬発力に秀でた相手と対戦するので、犬飼京菜の俊敏さがきわめてありがたかったのだった。
「うーん。間近で見ると、犬飼さんも立派なモンスターだねぇ。アレと互角の勝負をした邑崎さんは、大したもんだなぁ」
犬飼京菜と初めて稽古をともにする横嶋選手は、こっそりそんな感慨をこぼしていた。
《ビギニング》からリリースされてしまった彼女は、あらためて国内の強豪選手に目を向け始めたのだろう。この合同稽古では《アトミック・ガールズ》のアトム級のトップファイターが山ほど居揃っているので、ずいぶん刺激的なはずであった。
(でもやっぱり、犬飼さんと赤星の人たちが同じ場所で稽古しているのは、感慨深いなぁ)
瓜子は心中で、そんな思いを噛みしめていた。
犬飼京菜は赤星道場の面々とのスパーリングを拒否していたが、同じ場所で汗を流しているだけで距離が縮まったように感じられるのだ。
赤星道場とドッグ・ジムの確執はおおよそ解きほぐされているはずであるし、打ち上げの場では同席する機会も増えていたが、やはり稽古というのは別物であるのだ。どちらの陣営も大切に思っている瓜子としては、きわめて画期的な出来事であったのだった。
そうして最初の三日間は、多少の顔ぶれを入れ替えつつ滞りなく稽古が進められていき――三日目の夜に、ちょっとしたイベントが開催されることになった。
その日は瓜子の、二十三回目の誕生日であったのだ。
こんな過酷な合同稽古のさなかであるというのに、本年も瓜子は総出で誕生日を祝われることになってしまったのだった。
「だって、稽古は五時までじゃん? だったら夜はみんな空いてるし、問題ないっしょ!」
そのように語る灰原選手の先導のもと、お馴染みのダイニングバーでパーティーの準備が整えられてしまった。
しかも今回は店側にお願いして、特別仕立ての料理を準備してもらったらしい。何せ大晦日に出場する面々は、すでに試合まで一ヶ月を切っているのだ。大幅なリカバリーに臨む選手などは、過酷な減量生活も始まりつつあったのだった。
「グウェンドリン選手は、本当に大丈夫なんすか? 朝と夜で、カロリーコントロールしてるんすよね?」
瓜子が翻訳アプリでそのように尋ねると、グウェンドリン選手はにこにこと笑いながら「はい」とうなずき、自らも翻訳アプリを活用した。
『この時期なら、まだ余裕があります。それよりも、ウリコの誕生日を祝えることを嬉しく思っています』
「そーそー! それにこれは、大晦日の壮行会も兼ねてるんだからさ! 明日からもジゴクの稽古が続くんだから、たまにはリフレッシュしないとねー!」
灰原選手もまた、グウェンドリン選手を上回るぐらいの無邪気な笑顔である。
まあ、自分の誕生日がリフレッシュに繋がるのならば、光栄と思うべきであるのだろうか。瓜子はそんな考えでもって、自分ばかりが誕生日を祝われる申し訳なさを封殺するしかなかった。
ちなみにパーティーに参加するのは、合同稽古のメンバーと『トライ・アングル』のメンバーである。
本日はスケジュールも空いていたということで、『トライ・アングル』の面々まで駆けつけてくれたのだ。これでは瓜子も、申し訳なさを上回る嬉しさを抑制することも難しかった。
しかも合同稽古のメンバーも、選手は全員参加してくれたのだ。
トレーナー陣も、道場の業務を抱えたプレスマン道場の陣営以外は全員参加となる。ユニオンMMAのトレーナー陣までもが含まれているので、これは過去最大の人数であるはずであった。
「それでは! 今日の主役に、ひと言いただきましょー!」
ダイニングバーの二階にて、わざわざ小洒落たワンピースに着替えた灰原選手がそのように言いたてる。たくさんの拍手に囲まれて、瓜子は頭をかきながら進み出ることになった。
「えーと、こんな忙しいさなかにこんな立派な会を開いていただいて、本当に恐縮です。でも今日は大晦日の壮行会も兼ねているということですので、みなさんにも英気を養っていただけたら嬉しく思います」
「カタいなー! この勢いでメイっちょをぶっとばすぞーぐらい言ってみたらー?」
「メイさんに、そんな失礼なことは言えませんよ」
「とか言いながら、試合では容赦なくボコるくせにさー!」
それはその通りであったので、瓜子も頭をかくしかなかった。瓜子はこれほどメイを大切に思っているのに、因果な人生を選んだものである。
しかしまた、メイがそれほど素晴らしいファイターであるからこそ、瓜子も熱情をかきたてられてならないのだ。
その熱情が、瓜子の口を動かした。
「自分はメイさんのことを、最大のライバルだと思っています。大晦日には、誰もがメイさんに匹敵するぐらいの強敵とやりあうことになるんでしょうから……おたがい、頑張りましょう。今回の合同稽古に参加してくれた、すべての陣営の方々が勝利することを祈ってます」
「そーそー! 目指すは、全勝だー! それじゃあ大晦日の勝利とうり坊のバースデーを祝して、かんぱーい!」
灰原選手の号令で、店中に「乾杯!」の声が響きわたった。
瓜子がもとの席に舞い戻ると、幸せそうに微笑むユーリが待ち受けている。その笑顔に心を満たされながら、瓜子はソファの席に腰を落ち着けた。
「どうしたんすか? どんどん顔がゆるんでるみたいっすよ?」
「うみゅ。こんなにたくさんの人たちがうり坊ちゃんのお誕生日を祝ってくれるのが、ユーリのココロをぽかぽかにするのでぃす」
「そうっすね。まさか、青田さんまで来てくれるとは思わなかったっすよ」
「にゃはは。青田ナナ殿も、ついにうり坊ちゃんのかわゆらしさにカブトをぬいだのではないかしらん?」
その青田ナナは、端の席で赤星弥生子と向かい合っている。マリア選手は自主的に、大江山すみれは後から駆けつけた二階堂ルミに引っ張り出されたため、同じテーブルには兵藤アケミや雅、オルガ選手やキリル氏という、なかなか異色の顔ぶれが陣取っていた。
いっぽう瓜子やユーリと同じテーブルを囲んでいるのは、グウェンドリン選手とエイミー選手、小笠原選手に小柴選手という顔ぶれだ。テーブルの定員は六名までであったので、ランズ選手は遠慮をして天覇館の面々と同じテーブルについていた。
普段の誕生日パーティーは立食の形式であるが、今回は少しでも身体を休められるようにとテーブルが持ち出されたのである。この場に集まった人間の過半数は午前九時から午後五時までの稽古にフルで参加していたので、ありがたい配慮であった。
「実は去年もこの店で、猪狩の誕生会と《ビギニング》の壮行会を開いたんだよね。つまり桃園なんかは、打倒エイミーに燃えてたわけさ」
小笠原選手がそのように言い出すと、ユーリは「うにゃあ」と純白の頭を抱え込み、エイミー選手は薄く笑った。
『懐かしいです。あれから、もう一年も経つのですね』
「うん。それでアタシは、桃園にタイトルマッチの逆指名をさせていただいたんだよ。桃園が世界に羽ばたく前に、決着をつけておきたかったからさ」
『なるほど。ユーリとトキコのタイトルマッチは、翌年の一月でしたね。私との対戦からわずか三週間で《アトミック・ガールズ》のタイトルマッチに挑むと知って、当時はとても驚かされました』
「そう。三月までは、待ってられなかったからさ。現に桃園は、その前に《ビギニング》のシンガポール大会に出場することになったからね」
そう言って、小笠原選手はゆったりと笑った。
「まさかあの頃は、桃園がアトミックに出戻ってくるとは思わなかったよ。でもこれで、三度目の決着戦が期待できるかもね」
「うにゃあ。おそれおおいお話なのですぅ」
ユーリは恐縮しながらも、幸せそうに瞳を輝かせている。そんなユーリを見ているだけで、瓜子も幸せな心地であった。
しかし、エイミー選手は微笑みを消して、真剣な眼差しになっている。
エイミー選手はノンカフェインのウーロン茶で口を湿してから、携帯端末に言葉を投じた。
『ユーリはもちろん、トキコも素晴らしいファイターです。気を悪くしないでほしいのですが、二人の対戦は世界級のプロモーションに相応しい一戦だと思います』
「あはは。まあ、桃園とやりあえるんなら、舞台はどこでもかまわないんだけどさ。アトミックは、ちょっと来年以降のスケジュールがわからなくなってるから……運営陣の奮起を期待したいところかな」
『はい。いっそ、《フィスト》に移るというのは難しいのでしょうか?』
「うーん。国内だったら、アタシはアトミックにこだわりたいかな。アトミックが落ち目になったら、自分の力で盛り返したいと思ってるしね」
柔和な笑みをたたえたまま、小笠原選手はそう言いつのった。
「それに、桃園に関しては……とりあえず、大晦日の試合しだいでしょ。それで例の持病が出なければ、他のプロモーションに参戦できるかもしれないしね」
『なるほど。現時点では、《アトミック・ガールズ》の他にユーリを起用しようとするプロモーションは存在しないのでしたね。迂闊な発言を、取り消します』
そんな風に言ってから、エイミー選手はユーリに向かって頭を下げた。
『そして、みなさんの活動方針に口を出してしまい、申し訳ありません。期待感を制御できなかった結果ですので、許してください』
「うにゃあ。すべてはユーリのフトクが原因なのですから、エイミー選手に謝っていただく必要はないのですぅ」
ユーリは小さくなりながら、おずおずと微笑んだ。
「ほんでもって、ユーリはおつむのキャパがきわめてミニマムですので、今は大晦日のことでいっぱいいっぱいなのですぅ。来年のことは、来年に考えたいと思う所存なのですぅ」
「だから、ユーリさんの言い回しは独特すぎて、きちんと翻訳されないと思うっすよ?」
気安く口をはさみつつ、瓜子は胸を詰まらせている。どうしても、ユーリが将来のことを口にすると、二つの感情に胸を圧迫されてしまうのだ。
それは、ユーリが明るい将来に目を向けている嬉しさと――本当にそんな未来がやってくるのかという、不安の思いであった。
瓜子はユーリを信じると決断したが、どうしたって一抹の不安は残ってしまうのだ。
しかしまた、そんなものは全力でねじふせて、ユーリを応援する覚悟である。ユーリは大晦日の試合を無事にやりとげて、来年以降も《アトミック・ガールズ》で活動し続ける――瓜子はそのように信じていたし、そのためにすべての力を尽くそうという覚悟であった。
『去年の大晦日、懐かしいです。私はシンガポールで、《ビギニング》日本大会の配信を視聴しました』
と、深刻になりかけた空気を払拭するように、グウェンドリン選手が明るい声をあげた。
『私を倒したウリコがミンユーに勝てるかどうか、期待していました。結果は、期待以上でした』
「やっぱりグウェンさんは、猪狩さんの応援をしていたんですか? 自分に勝った選手には、活躍してほしいですもんね」
小柴選手の問いかけに、グウェンドリン選手は「はい」とうなずく。
『なおかつ、ミンユーは私たちのライバルであるアディソンMMAの所属です。二重の意味で、私はウリコを応援することになりました』
「ああ、なるほど。それで今回は、鞠山さんを応援してくださるんですね」
『はい。シンガポールと《ビギニング》の威信は、私とエイミーが守ります。ミンユーとムーチェン、レベッカとイヴォンヌが勝利する必要はありません』
それらはいずれも、日本人選手と対戦する面々である。それぐらい、グウェンドリン選手は日本陣営に肩入れしてくれているのだった。
「あれ? でもそう考えると、日本陣営とシンガポール陣営の試合が多いんですね。これって何か、不公平じゃないですか?」
素直な小柴選手が不満の念を表明すると、小笠原選手が「そんなことないさ」と応じた。
「今回のイベントは、これ以上もなく公平な割合で試合が組まれてるはずだよ。三団体から八名ずつの選手を招聘して、均等に四組ずつの試合が組まれてるんだからさ」
「うーん? 全十二試合ですから、三団体から八名ずつで二十四名ですよね。それで……八名中の四名ずつが、別の団体の所属選手と試合をするってことですか?」
「そう。《ビギニング》の陣営を軸に考えると、さっき名前が挙がった四名がアトミックの選手と対戦して、残りの四名が《アクセル・ファイト》の選手と対戦するわけさ。猪狩、グウェン、エイミー、イーハンで、人数は合ってるでしょ?」
その中で、この場にいないイーハン選手が対戦するのはオルガ選手である。
素直な小柴選手は、「なるほど」と笑顔を取り戻した。
「《ビギニング》の陣営に猪狩さんも含まれてるから、ちょっと感覚が狂ったのかもしれません。小笠原先輩のおかげで、納得がいきました」
「……つくづく、アンタは可愛らしいねぇ」
「な、な、なんですか? からかわないでください!」
素直な小柴選手は、真っ赤になってしまう。それだから、敬愛する先輩に可愛い呼ばわりされてしまうのだろう。
「ついでに言うと、オルガにも勝ってほしいところだよね。そうすると、《ビギニング》陣営は三勝五敗ってことになっちゃうけどさ」
『はい。稽古をともにした以上、オルガも大切な盟友です。《ビギニング》の威信は、私とエイミーとウリコで守ります』
グウェンドリン選手は迷うことなく、そんな風に応じてくれた。
『正直に言って、私はランズに敗れたイーハンが今回のイベントに抜擢されたことを、不満に思っていたのです。ユニオンMMAから三名の選手を抜擢するのは不適切だという考えなのかもしれませんが、それでも不満の気持ちは消えません』
「ふうん。イーハンは華があるから、運営陣に目をかけられてるって話だったよね。それで今回も、ビッグチャンスをいただいたわけか」
『はい。ただしこれは、きわめてハイリスクハイリターンな試合でしょう。ここで敗北したならば、イーハンはしばらくチャンスから遠ざかるはずです』
『私も、同意します』とエイミー選手も声をあげた。
『レベッカ、私、ランズに敗れて、オルガ・イグナーチェヴァにも敗れたならば、イーハンの信用は失墜します。かつて自分が目標にしていたイーハンが落伍するのは、残念な話です』
そう言って、エイミー選手は力強い視線をユーリに向けた。
『ですが、私の現在の目標はユーリです。イーハンとは比較にならない高度な目標を獲得して、私は幸福です』
「うにゃあ。キョーシュクのキワミなのですぅ」
「だから、ユーリさんの言い回しは翻訳しづらいんですってば」
瓜子がユーリに笑いかけたとき、どこからともなく優美なるピアノの旋律が聴こえてきた。
こちらのダイニングバーにはグランドピアノが設置されており、昨年の誕生会でも『トライ・アングル』がミニライブを披露してくれたのだ。瓜子が胸を高鳴らせながら振り返ると、やはりピアノの椅子に座しているのは漆原であり――そして、パーティションの裏からわらわらと現れた他なるメンバーたちも、それぞれ楽器を抱えていたのだった。
大きな拍手と歓声の中、機材のセッティングが進められていく。小さなアンプやパーカッションなど、夏の合宿でもお馴染みである簡易的な機材である。山寺博人が抱えているのは、アンプが必要ないアコースティックギターであった。
ユーリは天使のように微笑み、瓜子と拳をタッチさせてから、頼もしきメンバーたちのもとに駆け寄っていく。
すると、両手でマラカスを振り回していたダイが笑顔で声を張り上げた。
「今日が正真正銘の、年内のラストライブだぜ! あんまり馬鹿でかい音は出せないけど、楽しんでくれよな!」
拍手と歓声に、誰かの指笛まで入り混じる。
そんな中、漆原があらためてピアノの音を響かせて――他のメンバーたちが、どこか聞き覚えのあるコード進行で演奏を重ねた。
「うり坊ちゃん、あらためまして、誕生日おめでとー!」
マイク代わりのカクテルグラスを構えたユーリが、肉声でそのように言いたてる。
そして――ユーリはとても優しい歌声で、ジャズ調にアレンジされた『ハッピーバースデートゥーユー』を歌い始めたのだった。
『トライ・アングル』のメンバーが、瓜子などのために、わざわざこのようなプレゼントを準備してくれたのだ。
『トライ・アングル』のスペシャルライブを期待していた瓜子でも、これでは涙の止めようがなかった。
そうしてその後には『トライ・アングル』の曲も何曲かお披露目されて、瓜子は物理的なプレゼントの山にもうずもれることになり――瓜子は生涯でもっとも幸せな誕生日の記憶を、心の奥深くに刻みつけられることになったのだった。