05 バンタム級・準決勝戦(上)
ストロー級の準決勝戦が終了して、次なるはバンタム級の準決勝戦であった。
その第一試合は、三ツ矢選手を下したオリビア選手と、高橋選手を下した青田ナナによる一戦である。これもまた、予測の難しい一戦であった。
「地力だったら、青田のほうがややまさってる印象だけど……でも、オリビアには重い一発があるからね。青田がそいつをかいくぐってテイクダウンを取れるかどうかが、勝負の分かれ目かな」
まだモニターのそばに留まっていた兵藤アケミが、そんな風に評する。雅は浅香選手のウォームアップに付き添い、他に残っているのは寡黙な香田選手のみであった。
なおかつ、小笠原選手はすでに入場口でスタンバイをしており、高橋選手や武中選手もウォームアップに余念がないため、あとは瓜子とユーリしかいない。ダメージを負った鞠山選手は控え室の奥で身を休めており、灰原選手は青コーナー陣営に移り、ドッグ・ジムの陣営は壁際のベンチシートからモニターを眺めているため、瓜子たちの周囲はちょっとこれまで例にないぐらい、がらんとしていた。
(そもそもプレスマンのコーチ陣と別行動だから、余計そんな風に感じるのかな)
柳原とジョンと愛音はオリビア選手のセコンドとしてモニターに映し出されており、立松とサキと小柴選手は小笠原選手とともに出陣した。瓜子とユーリがエキシビションマッチを行う際には一名ずつセコンドをお借りする手はずになっていたが、それ以外はもちろんトーナメントに参戦している両名のサポートが最優先であった。
いっぽう青田ナナのセコンドについているのは、赤星弥生子に青田コーチに是々柄という顔ぶれである。勝てば連戦となる今日のような日こそ、メディカルトレーナーである是々柄がもっとも頼りになるのだろうと思われた。
しかしまた、連戦になるかどうかはこの準決勝戦の結果次第だ。
すっかりバンタム級の重量が身体に馴染んできたオリビア選手は、誰に勝ってもおかしくないポテンシャルを秘めているはずだった。
(ただこれは、生粋のストライカーとオールラウンダーの勝負だからな。兵藤さんが言う通り、青田さんが組み技から寝技にまで持ち込めるか、オリビア選手がそれをしのげるか……それが、勝負の分かれ目だろう)
瓜子がそのように思案する中、試合開始のブザーが鳴らされた。
オリビア選手はいつも通り、背筋をのばしたアップライトの姿勢でゆったりと進み出る。百七十五センチという長身を活かして相手を近づけさせないのが、オリビア選手の基本戦略であった。
いっぽう、身長で七センチ負けている青田ナナは、ごくオーソドックスなクラウチングのスタイルだ。それほど極端に身を低くするわけではなく、まずは尋常な立ち姿であった。
(オリビア選手も、テイクダウンのディフェンスを徹底的に磨いてるからな。合宿稽古で手を合わせていなくても、それぐらいは想定してるだろう)
それで青田ナナは、どういう対策を磨いてきたのか――序盤は牽制の左ジャブや関節蹴りを繰り出すばかりで、まったく判然としなかった。
青田ナナの組みつきを警戒しているオリビア選手も、そうそう大きなアクションは見せない。ただ牽制にアッパーやボディブローを織り込むことで、警戒のほどを示していた。
そうして、ごく真っ当な間合いの測り合いが繰り広げられたのち――青田ナナが、じわりと動いた。
牽制のジャブを増やしつつ、関節蹴りにローまで織り交ぜていく。なおかつそれは、足払いのように軌道の低い蹴りであった。
(やっぱり、よく考えてるな)
フルコンタクト空手の実力者であるオリビア選手は、どこもかしこも頑丈だ。その中でも特筆すべきは、やはりボディと足であろう。フルコンタクト空手は顔面を殴ることが反則である反面、素手で殴り合う競技なのである。普段から素手の拳で殴りつけられているオリビア選手の胴体は、木の幹のように頑丈であった。
そして、足に関しては――オリビア選手の所属する玄武館においては、いまだに砂を詰めた麻袋を蹴るという鍛練が用いられているらしい。強力な蹴りと、その蹴りを防御するために、骨まで頑丈にしようという荒行である。
(最近はカーフキックで足を潰すのが定石になってきてるけど、オリビア選手にカーフキックなんて狙ったら、自分の足が壊されかねないしな)
それで青田ナナは、足払いのごときローを放っているわけである。これならば自分の足にもダメージが溜まりにくいし、相手のバランスを崩すのにも最適であった。
オリビア選手は慌てることなく、前足を浮かせてその蹴りを回避している。
そうして前足を浮かせても、オリビア選手の軸はまったく揺らいでいない。片足になったところで組みつかれることを警戒して、後ろ足に重心をかけすぎないように心がけているのだろう。そして、両手の拳も油断なくカウンターを狙っているように感じられた。
とても静かな立ち上がりだが、その裏側に大変な熱気と緊張の気配がたちこめている。
オリビア選手の重い攻撃と、青田ナナの巧みなテイクダウンは、どちらも一発で試合の流れを変える可能性を秘めているのだ。観客たちもそれを察したのか、どこか張り詰めた様相で両者の様子をうかがっているようだった。
そこで青田ナナが、また大きな動きを見せる。
これまで以上に鋭い踏み込みで、その手がオリビア選手の足もとにのばされた。
それでもオリビア選手は慌てることなく、すり足で後方に移動する。
そして――その左腕が、素早く顔まで上げられた。オリビア選手を追った青田ナナが、オーバーフックを繰り出したのだ。
タックルをフェイントにしてのオーバーフックという、まあ定石の攻撃だ。
ただ――テイクダウンが欲しい青田ナナであれば、オーバーフックをフェイントにしてタックルを狙うほうが、より定石なのではないかと思われた。
(なんだろう……また何か、違和感がする)
瓜子が違和感を覚えるのは、これで三試合連続である。
山垣選手や亜藤選手や青田ナナが、それだけ瓜子の想定にない動きを見せているということだ。最初から策略家である鞠山選手は脇に置いておくとして、灰原選手やオリビア選手は稽古をともにしていて今日の試合に対する戦略もおおよそ聞き及んでいるため、こういう違和感を抱かずに済むのかもしれなかった。
(それだけみんな、勝つために頭を絞ってるってことだ。王座をかけたトーナメント戦なんだから、それが当然だよな)
それで山垣選手は組みつきのフェイントに壁レスリングという常にない動きを見せ、亜藤選手は奇をてらうことなく自分のストロングポイントを磨き抜いてきた。この青田ナナは、どんな動きを見せるのか――瓜子が固唾を呑んで見守っていると、じょじょにその全容が明らかにされた。
オーバーフックをヒットさせた青田ナナは、中間距離をキープして打撃技を繰り出している。
もはや牽制ではなく、相手にダメージを与えようという力強い攻撃だ。また、オリビア選手の側からテイクダウンを狙う理由はなかったため、ハイキックやミドルキックなども遠慮なく織り込んでいた。
ただしインファイトではなく、あくまで中間距離を保ってのことである。
一歩の踏み込みで攻撃が届くポジションをキープして、攻撃を出すために踏み込んでは、また同じ位置に戻るのだ。打撃戦を得意にするオリビア選手はすべての攻撃を的確に防御していたが、ただし、反撃の動きはごく少なかった。
「青田はいい角度から撃ち込んでるし、きっと組みつきのプレッシャーも与えてるんだろう。あのオリビアを相手に、大したもんだね」
兵藤アケミがそのように評したが、寡黙な香田選手は答えようとしない。僭越ながら、瓜子がそれに答えることにした。
「そうっすね。オリビア選手の攻撃を一発でもクリーンヒットされたら、致命傷になりかねません。普通はおっかなくて、あんなアクティブに攻め込めないでしょう」
「うん。インファイトにまで持ち込まないのは利口だけど、これはその次に危なっかしいやり口だよね。その危険に見合った成果があるのか……ちょっと疑問だな」
兵藤アケミの言う通り、これはきわめて危険なやり口である。オリビア選手を相手に真っ向勝負を挑んでも、有効な打撃を当てるのは至難の業であったし――たとえクリーンヒットできたとしても、オリビア選手は頑丈であるのだ。下顎やみぞおちやレバーなど、急所にクリーンヒットさせない限りはさしたるダメージも見込めないはずであった。
(オリビア選手だったら多少のダメージをもらっても、強力なカウンターを返せるはずだ。このままいくと、追い詰められるのは青田さんのほうかもしれないぞ)
そんな思いとともに、瓜子の抱いた違和感が急速に膨らんでいく。
青田ナナの背後には、赤星弥生子と青田コーチが控えているのだ。そんな勝算の薄い作戦を、あの二人が許すとはとうてい思えなかった。
(今の動きは、次の動きの布石なんだ。……もしかしたら、オリビア選手もそれを察して、様子を見てるのかもしれない)
オリビア選手はオリビア選手で、背後に柳原とジョンを控えさせているのである。瓜子が抱いた違和感など、セコンド陣はもっと明確な形でとらえているはずであった。
しかし、青田ナナの動きはなかなか変化しない。
中間距離をキープしての、積極的な打撃戦だ。左右のフックにアッパーやボディブロー、さらにはミドルやハイや足払い気味のローなど、さすがの多彩さであった。
(これだけ攻撃を散らされると、どれが本命なのかわからない。それにきっと、本当の本命はこの後にあるんだ)
瓜子がそのように考えたとき、オリビア選手がやおら右腕を振りかざした。
大きな軌道で、青田ナナに右フックが繰り出される。空手の鉤突きを応用した、強力な攻撃だ。
ただし、モーションが大きくて、見え見えの攻撃である。
きっとこれは、見せ技だ。青田ナナの次なる一手を探るために、オリビア選手もリスクを抱えて反撃に出たのだろうと思われた。
果たして――ダッキングでその右フックを回避した青田ナナは、低い体勢のままレバーブローを撃ち込んだ。
それと同時に、オリビア選手の右膝が青田ナナの胸もとに衝突する。タイミング的に、青田ナナの反撃を見越しての行動であった。
その膝蹴りに押された格好で、青田ナナは距離を取る。
しかしオリビア選手も、追おうとはしない。急所のレバーにくらったので、多少はダメージが生じたのだろう。どれだけ過酷な鍛練を積んでも、急所だけは鍛えようがないのだ。
「今のは……青田が組みつきやタックルを狙ってたら、顔面や腹にくらってただろうね」
「はい。でも青田さんは、あくまで打撃狙いでしたね」
オリビア選手が隙を見せても、青田ナナは次の一手に進まなかった。
もとより彼女は、判定勝負が多いのだ。もしかしたら、長期戦を見越しての作戦であるのかもしれなかった。
(今のところ、手数では圧倒的に青田さんがまさってる。今の相打ちは同程度のダメージで相殺されるだろうから……やっぱり、青田さんが優勢と見られるはずだ)
そうしてこのラウンドでポイントを取って、次のラウンドでテイクダウンを狙えば、いっそう勝利に近づくかもしれない。
瓜子は、そのように考えたが――まだしっくりこなかった。
(それにしたって、オリビア選手に打ち勝つのは至難の業だ。第一ラウンドだって、まだ半分近く残されてるし……オリビア選手が様子見をやめたら、一気にひっくり返されるかもしれないぞ)
青田ナナはいいタイミングでレバーブローをヒットさせて、オリビア選手は当たり損ないの膝蹴りである。しかしそれで、両者は同程度のダメージを負ったように見受けられる。それだけ、根本の破壊力と耐久力に差があるのだった。
そうして緊張と熱気が高まる中、熾烈な打撃戦が再開される。
おたがいにダメージを負っても、青田ナナの動きに変わりはない。危険な中間距離をキープしながらの、オーソドックスな打撃戦だ。
「……そういえば、青田は合宿でシンガポールの面々に苦戦してたから、めいっぱい奮起するんじゃないか、なんて言われてたみたいだね」
考え深げな声で、兵藤アケミはそう言った。
「それは確かにその通りなんだろうけど、ひと月やそこらでスタイルチェンジなんて完成するもんじゃない。これは……どういう作戦なんだろうね」
「押忍。自分にもわかりません。でも何か、ここから繋げる展開が――」
瓜子がそのように答えかけた瞬間、青田ナナの右フックがオリビア選手の顔面をとらえた。
玄武館は顔面へのパンチが禁止されているため、オリビア選手は頭部のガードがやや甘い。それでも際立った長身であるため、顔面にパンチをもらったことはほとんどないはずであった。
「今のは……深く当たったな。タックルのフェイントに引っかかっちまったんだ」
兵藤アケミはそう言っていたし、瓜子の目にもそう見えた。青田ナナは再び両足タックルのフェイントから右フックに繋げたのだ。
オリビア選手は多少のダメージをもらってしまった様子で、後ずさる。
それを追いかけた青田ナナは、さらなる打撃技を繰り出した。
頭部にショートフックを振ってからのボディブローに、足払いじみた左ローを放ってからの右アッパー。そしてまたタックルのフェイントからの右フックに、左のショートアッパー、と――実に巧みな、打ち分けであった。
打撃を得意にするオリビア選手が、完全に押されてしまっている。
それぐらい、青田ナナの攻撃が的確であるのだ。また、レバーと顔面に一発ずつもらってしまったためか、オリビア選手もあらゆる攻撃を防御しなければならないという危機感にとらわれている様子であった。
そしてやっぱり何より警戒しているのは、組み技であるのだろう。
青田ナナがここぞというタイミングで組み技のフェイントをかけるため、オリビア選手はいっそう守勢に回されているのだ。そうでなければ、さすがに青田ナナが打撃戦でオリビア選手を圧倒できるいわれはなかった。
「……青田の親父さんはムエタイの出身で、師範代の大江山さんは空手の出身なんだよね」
兵藤アケミが、ぽつりとつぶやいた。
「そこに、赤星大吾仕込みのキャッチ・レスリングまで組み込まれるから、赤星道場では質の高いオールラウンダーを目指すことができる。それを象徴するのがこの青田なんだって、あたしはそんな風に考えてた」
「押忍。自分もそう思ってましたけど、どれがどうかしましたか?」
「うん。だからオリビアも、青田の組み技と寝技を警戒してる。それを逆手に取って……こいつは、KOでも狙ってるんじゃないかと思ってさ」
兵藤アケミのそんな言葉と同時に、青田ナナの右拳がオリビア選手の土手っ腹
にめりこんだ。
おそらく、みぞおちの近くに入ったのだろう。無類の頑丈さを持つオリビア選手が、苦しげに身を折っていた。
(オリビア選手からKOを狙おうなんて考える選手は、これまでほとんど存在しなかった。だから、オリビア選手も対応が遅れてるのか?)
青田ナナの身を長い両腕で突き放したオリビア選手は、肩を大きく上下させている。
オリビア選手もスタミナはあるほうだが、やはり劣勢に追い込まれて消耗しているのだ。しかも、自分の庭場であるスタンドで劣勢に立たされたら、もはや勝機もないのだった。
「組み技の仕掛けは全部フェイントで、青田はKOを狙ってる……アタシのこの読みが当たっていたとしても、組み技のフェイントは無視できない。そうしたら、あっちも遠慮なく組み技に切り替えかねないからね」
兵藤アケミが語る中、青田ナナはまた打撃技でオリビア選手を追い込んでいく。
その背後のフェンスの向こう側には、懸命に声を飛ばしている柳原の姿が見えた。ジョンもまた、しきりにアドバイスを送っている様子である。
すると、再び青田ナナの身を突き放したオリビア選手が、深く腰を落とした。
前後に開いた両足が、ほとんど直角に曲げられている。機動力を犠牲にした、カウンター特化の構えだ。
すると青田ナナはアウトサイドに回り込み、これまで見せたことのないサイドキックを繰り出した。
オリビア選手は前に出した左腕でそれを払ったが、カウンターを出すことはできない。まだ拳の届く距離ではないのだ。
青田ナナは十分に距離を取りながらアウトサイドに回り始めて、足もとや腹にサイドキックを撃ち込んでいく。
オリビア選手のこのスタイルは過去の試合で二度も披露されているので、しっかり対策を磨いているのだ。オリビア選手を相手に中間距離をキープするよりは、よほど安楽なのだろう思われた。
しかしまた、試合の流れが変わったのは事実である。
オリビア選手が起死回生をはかるならば、この次の展開が重要であった。
第一ラウンドの残り時間は、一分半ほどだ。
青田ナナも、無理に近づこうとはしない。このままラウンドが終わってもポイントは確実に取れるのだから、それが当然だ。アクションを起こすのは、劣勢にある側の役目であった。
そうしてそのまま時間が過ぎて、残り時間が一分を切ったとき――突如として、オリビア選手が動いた。
深く曲げた膝の力を使って、身をねじりながら右足を大きく振りかざす。
左足を支点にした、上段の後ろ回し蹴りである。
しかし距離が遠いため、青田ナナは危なげなく回避する。
そうしてオリビア選手の重い蹴りをやりすごしたのち、青田ナナはすぐさま接近した。
そして――三つの攻撃が交錯して、試合が終了した。
最初の攻撃を出したのは、青田ナナである。
ひと息に拳が届く距離にまで踏み込んでの、鋭い左のショートフックだ。
後ろ回し蹴りは相手に背中を見せるため、その後の対応が難しくなる。
しかしオリビア選手は青田ナナの速攻を考慮していたらしく、後ろ回し蹴りに次なる攻撃を繋げていた。
後ろ回し蹴りの回転力を利用した、左のボディフックである。
なおかつ、右腕はしっかり頭部をガードしている。
結果、青田ナナの左フックはガードされて、オリビア選手のボディフックがクリーンヒットした。
左のボディフックであるのだから、命中したのは急所のレバーだ。
モニターでは、苦悶の形相でマウスピースを吐き出す青田ナナの姿が映し出された。
そして――彼女はマウスピースもないままに歯を食いしばり、最後の攻撃を繰り出した。
真下から繰り出された右拳が、オリビア選手の下顎に突き刺さる。
青田ナナもまた、左フックと右アッパーを連動させていたのだ。
オリビア選手は後ろざまにひっくり返り、青田ナナは右脇腹を抱えてうずくまる。
レフェリーが無情に『ファイト!』という声をかけると、オリビア選手はひょこりと立ち上がった。
が――立つと同時に、再び棒のように倒れ込んでしまう。
右アッパーをクリーンヒットされて、脳震盪を起こしているのだ。
そんな中、青田ナナは泣いているような形相で力なく身を起こす。
そして、右脇腹から手を離して、震える両腕でファイティングポーズを取り――それを見届けたレフェリーが、試合の終了を宣告したのだった。
四分二十五秒、青田ナナのKO勝利である。
オリビア選手がKO負けを喫したのは、おそらくこれで四度目のことであり――ユーリ、瓜子、メイというプレスマン道場の門下生だけが成し遂げた快挙の中に、青田ナナもその名を連ねたということであった。
「……最後は根性で、殴り勝ったね。やっぱりこいつも、立派な青鬼だよ」
兵藤アケミは厳粛なる面持ちで、手を打ち鳴らしていた。
遅ればせながら、瓜子もそれに続く。朋友たるオリビア選手の敗北は残念であったが――瓜子は、青田ナナの執念をまざまざと見せつけられたような心地であった。
確かにひと月ていどの時間では、スタイルチェンジなどなかなかままならないのだろう。
しかし彼女は本来の持ち味を磨き抜くのと同時に戦略も練りあげて、最後は大ダメージを負いながら勝利をおさめた。その執念には、瓜子も感服するしかなかったのだった。




