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アトミック・ガールズ!  作者: EDA
31th Bout ~Scorching Summer~
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05 それぞれの道

 二日目以降も、ドッグ・ジムにおける出稽古はきわめて有意義に進められていった。


 初日は肩慣らしとして昼過ぎからの参加であったが、二日目以降は朝からのフルタイムであったのだ。さらに、初日には所用があって参加できなかったメンバーも可能な範囲で参加して、いっそうの彩りを加えてくれたのだった。


 プレスマン道場からは、瓜子、ユーリ、愛音、蝉川日和。普段から出稽古に参加しているメンバーからは、灰原選手、多賀崎選手、オリビア選手、小柴選手、小笠原選手、高橋選手。こういう特別な機会にのみ参加する、鞠山選手と武中選手。そして、シンガポールから参じた、グヴェンドリン選手、エイミー選手、ランズ選手。この顔ぶれにドッグ・ジムの門下生が加わるのだから、充実しないわけがなかった。


 その中でひときわ場をひっかき回してくれたのは、やはり沙羅選手である。

 参加選手が増えたことで、トリックスターたる沙羅選手の個性的な技量がいっそう際立つことになったのだった。


 二日目からの参加でもっとも沙羅選手に悩まされたのは、小柴選手と武中選手の両名となる。沙羅選手は初日の稽古で同階級以下の選手に苦戦していたが、そちらの両名は身体の小ささを有利に働かせることができなかった。武中選手はごく正道な近代MMAのスタイルであり、小柴選手も基本は外連味のないファイトスタイルであるためか、沙羅選手のトリッキーなスタイルに翻弄されてしまったのだった。


 また、愚直な突進を最大の武器とする蝉川日和も、大差のない結果であった。彼女の突進は簡単に受け流されて、まったく有効打を当てることができなかったのだ。突進の勢いが猛烈であるために、小柴選手や武中選手ほど痛い目は見ずに済んだというぐらいのものであった。


 そんな中、ひとり善戦したのは鞠山選手である。

 沙羅選手は灰原選手に手こずっていたが、鞠山選手もそれと同等以上の厄介なアウトファイターであるのだ。有効打を当てられないのはおたがいさまであったが、攻撃の手数でまさって有利に勝負を進められたのは、鞠山選手の側であった。


 バンタム級の精鋭およびグヴェンドリン選手も、なかなか活路を見出すことができなかった。エイミー選手とランズ選手に対してはスピードで、グヴェンドリン選手に対してはリーチで、それぞれ沙羅選手のほうがまさっているのだ。そのアドバンテージにトリッキーなファイトスタイルが加えられると、なかなか攻略が難しいようであった。


(沙羅選手はもともとトリッキーだったけど、この一年ぐらいでいっそう磨きがかかったみたいだ。それだけ熱心に、稽古を積んでるんだろうな)


 MMAの試合から一年以上も離れているのにこれだけの進化を見せているというのが、いっそ不思議なほどである。瓜子は持ち前の機動力とキック仕込みの戦術で何とか互角以上の勝負に持ち込むことができていたが、それでも沙羅選手の成長には感服しきっていた。


 いっぽう犬飼京菜も、沙羅選手を上回る特異な技量で、数々の選手を翻弄してくれた。

 まず、体格で大きくまさるバンタム級やフライ級の選手は、なかなか犬飼京菜のスピードと回転力についていくことができなかった。有効打を当てられることは少なかったものの、ガードをする手足にはさんざん拳や蹴りを叩き込まれて、こちらの側からは指一本ふれることもかなわないのだ。身長百七十八センチの小笠原選手も同様であったのだから、恐るべき話であった。


 そして、ストロー級やアトム級の選手に関しては――ここでも、灰原選手や鞠山選手が善戦していた。ステップワークが巧みである両名は犬飼京菜の猛攻を何とか回避しまくって、互角に近い勝負を見せていたのだ。本気でやりあったならばどのような結果になるのかと、そんな期待をかきたてられるような激烈なる攻防であった。


 なおかつインファイターとしてステップワークを磨いてきた瓜子も、まだ何とか有利に勝負を進めることができた。それでも犬飼京菜に拳を当てるのは至難の業であったものの、ローやミドルを浅く当てることには成功して、打たれ弱い犬飼京菜を追い詰めることができた。


 また、遠くない未来に対戦の可能性がある愛音や小柴選手は、あくまで軽いスパーに留めていたが――ここでも最大の苦労を負っていたのは、武中選手である。ストロー級である彼女も体格やパワーでは犬飼京菜を大きく上回っていたものの、やはり正道の近代MMAの技術のみで相手取るのはきわめて困難であるようであった。


 シンガポール陣営の三名でも、犬飼京菜には手こずっているのだ。おおよそ同じようなスタイルで、パワーでもスピードでもテクニックでもまさるところのない武中選手は、犬飼京菜を攻略する手立てがまったく見つけられない様子であった。


「沙羅さんにも犬飼さんにも、いいようにやられちゃってます。……これは、気合が入っちゃいますね」


 武中選手は両目に闘志の炎をたぎらせながら、そのように語っていたものであった。


 以上が、立ち技スパーの概要である。

 寝技のスパーは沙羅選手が参加できないため、特筆するべき点も多くはなかったが――しかしやっぱり、犬飼京菜はしっかり異能を見せつけていた。かつて雅に「寝技の腕は中の中」と評されていた犬飼京菜であるが、それからの期間でいっそう腕を上げたようなのである。


 寝技においても、犬飼京菜の特性は変わらない。強みは機動力と回転力であり、弱みはパワー不足と体格の小ささであった。

 ただし、立ち技においては個性の塊であるが、寝技においては至極まっとうなスタイルとなる。大和源五郎からはキャッチ・レスリング、ダニー・リーからは柔術を学んでおり、まったく隙のない完成度であるのだ。


 寝技で犬飼京菜を圧倒できるのは、ユーリと鞠山選手の二名のみとなる。

 互角以上の勝負ができるのは、ランズ選手とエイミー選手。おおよそ互角であるのは、グヴェンドリン選手と多賀崎選手。あとはオールラウンダーである武中選手が何とか善戦できるぐらいであり、瓜子たちストライカーの一団は階級に拘わらず圧倒される側であった。


「まいったな。赤鬼ジュニアとは互角にやりあえるようになったのに、犬飼さんが相手だと手も足も出ないよ」


 そんな風に言っていたのは、小笠原選手である。小笠原選手も瓜子と同様に、合宿稽古で大江山すみれに善戦できるぐらいに成長を果たしていたのだった。


 瓜子は機動力、小笠原選手は手足の長さを、寝技で活かしている。それで、幼い頃から寝技の稽古に取り組んでいる大江山すみれにも対抗できるようになったのだ。

 しかし、犬飼京菜には通用しなかった。彼女の機動力は瓜子を遥かに上回っているし、小笠原選手は手足の長さを持て余すことになった。犬飼京菜は子猿のようにすばしっこいため、小笠原選手の長い手足でも捕獲することは困難であったのだった。


「こうしてみると、手足の短い相手ってのは意外に厄介なんだね。ハーフガードで足をつかまえても、簡単にすりぬけられちまうんだよ」


「押忍。しかも犬飼さんは、足が細いっすからね。よっぽどきっちりロックしないと、隙間ができちゃうんでしょう」


 もちろんパウンドが許されれば、打開の手立ても生じるのだろう。犬飼京菜は打たれ弱いので、不十分な体勢でのパウンドでも相応のダメージを与えられるはずであるのだ。しかしパウンドを禁止されている寝技のスパーにおいては、攻略のすべも見つけられなかった。


「ほんっと、ドッグ・ジムの連中は小憎たらしいよねー! こりゃーキヨっぺじゃなくても、燃えちゃうなー!」


 灰原選手は、そんな風に言っていた。

 犬飼京菜と沙羅選手は、難敵である。だからこそ、出稽古する甲斐があるのだ。この出稽古に参加したメンバーは、合宿稽古に負けないぐらい有意義な時間を過ごせているはずであった。


 そうして日々は流れすぎ、出稽古の四日目――ついに、沙羅選手が寝技の稽古に参加するこちになった。

 まだ左肩にテーピングを巻いている状態であるが、それでも遠慮は無用とのことである。そうして寝技のサーキットに取り組んだ結果――やはり、沙羅選手を圧倒できるのはユーリと鞠山選手のみであった。


 ただし、シンガポール陣営の三名と多賀崎選手も、互角以上の勝負をすることができた。グラップラーたるランズ選手などは、はっきりと優勢であったのだ。沙羅選手も寝技ではトリッキーな動きを見せないため、パワーでまさるシンガポール陣営の三名は優位に立てるようであった。


「左肩が完治したら、マコトやグヴェンと同等といったぐらいだろうだわね。だけどやっぱりキャッチ・レスリングに柔術の技が上乗せされてるだわから、なかなかに厄介なんだわよ」


 鞠山選手は、そのように評していた。

 沙羅選手は《アトミック・ガールズ》に乗り込んでくる前からキャッチ・レスリングをベースにしており、それが大和源五郎のもとでいっそう磨かれることになったのだ。そうしてダニー・リーの手ほどきで、柔術の技も身につけつつあるわけであった。


「マーさんはムエタイ、大和さんはキャッチ・レスリング、ダニーさんは柔術で、隙がないよね。古式ムエタイとジークンドーを考慮に入れなくても、ドッグ・ジムの指導力の高さが痛感できたよ」


 そのように語っていたのは、多賀崎選手である。多賀崎選手はただひとり沙羅選手と同じ階級であるし、立ち技でも寝技でも互角以上の勝負ができたのだ。しかし、沙羅選手が左肩を負傷していることを考慮すると、やはり実力は伯仲しているのだろうと思われた。


 そうして最終日たる五日目も、大変な熱気の中で稽古が進められて――それが終了したのちには、初日以来の登場となるサキと理央の手料理でささやかな打ち上げが開かれることになった。


「いやー、やっぱり地獄のお盆だったなー! いちいち家に帰って仕事にまで行かなきゃいけないのが、いっそう地獄だよねー!」


 誰よりも速いペースでアルコールを摂取した灰原選手は、そんな風にわめきながら瓜子の肩を抱いてきた。


「でも、今日はうり坊たちの愛の巣にお泊りだもんねー! 酔って歩けなくなったら、おぶっていってねー!」


「灰原選手をおぶって帰る体力なんて、残されてないっすよ。あと、誤解を招くような発言もおつつしみください」


 五日間の稽古で充足した思いを抱えながら、瓜子はそのように答えてみせた。

 本日は、灰原選手と多賀崎選手、愛音と蝉川日和の四名が瓜子たちのマンションに宿泊する手はずであったのだ。こちらのリビングにはトレーニング用の分厚いマットが敷かれているので、そこに敷布を敷いて雑魚寝をしていただくのだった。


 他の面々も、楽しげに歓談している。犬飼京菜はドッグ・ジムの関係者で左右を固めているが、グヴェンドリン選手たちがダニー・リー越しに言葉を届けているようだ。このような大人数を招くことは想定されていないため、ガタつく戸棚を横に倒して椅子の代わりにするという、なんとも野趣にあふれた打ち上げであったが――その熱気は、赤星道場の合宿稽古にも負けていないように思われた。


「じゃ、ウチはそろそろおいとまさせていただくわ」


 と、料理があらかた片付いたところで、沙羅選手が腰を上げる。

 灰原選手は「えー?」と不満顔でそちらを振り返った。


「そりゃーあまりに愛想がないでしょ! あんたもドッグ・ジムの人間なんだから、打ち上げぐらい最後まで参加したらー?」


「明日は朝から埼玉なんやで? なんぼなんでも、試合を二の次にでけへんわ」


「えーっ! 試合って、明日だったの? あんなハードな稽古して、だいじょーぶ?」


「そないにコロコロ態度を変えられたら、挨拶に困るところやね。ほな、お疲れさん」


 すると、ダニー・リーから事情を聞いたらしいシンガポール陣営の三名が慌てた顔で立ち上がった。


『シャラ、今日までありがとうございました。あなたとの稽古は、素晴らしい経験になりました』


『私も心から感謝しています。そして、あなたがMMAに復帰する日を心待ちにしています』


「わざわざ律儀なこっちゃね。明日の飛行機が墜落してもうたら格闘技界の大損失やろから、せいぜい安全運転を祈っとくわ」


 最後まで人を食った態度を崩さず、沙羅選手は食堂を出ていった。

 声をかけそびれてしまった瓜子は、大急ぎでユーリのほうを振り返る。


「あの、自分も沙羅選手に挨拶してきます。ユーリさんは、どうしますか?」


「ユーリはいつでもどこでも、うり坊ちゃんとイチレンタクショウなのですぅ」


 ということで、瓜子はユーリとともに食堂を飛び出すことになった。

 この廃工場の二階は居住スペースになっており、沙羅選手も帰るのが面倒なときは泊まっていくのだと聞いている。果たして、沙羅選手のしなやかな後ろ姿は通用口ではなく廊下の奥の階段の手前にあった。


「沙羅選手! おひきとめしちゃって、すみません! 自分からも、お礼を言わせてください!」


「なんやのん。今生の別れでもあるまいし」


 沙羅選手は首だけをねじ曲げて、瓜子たちに苦笑を浮かべた横顔を向けてくる。

 その背中に追いついた瓜子はひとつ息を整えてから、沙羅選手に笑顔を返した。


「沙羅選手とお会いしたのはひさしぶりでしたから、きちんと挨拶しておきたかったんですよ。次だって、いつお会いできるかわかりませんしね」


「そらあ、おたがい忙しい身やからな。商売繁盛で、めでたいことやで」


 沙羅選手はしかたなさそうに身体ごと向きなおり、くびれた腰に両手を置いた。


「そっちは十月に、またシンガポールなんやろ? それでついに、アジアのチャンピオン様かいな。豪気な話やね」


「結果はどうなるかわかりませんけど、自分もユーリさんも最高の結果を目指します。……沙羅選手は、まだしばらくプロレスのほうが忙しいんすか?」


「ウチにとっては、そっちが本業やからな。副業のために、本業を二の次にはでけへんわ」


 沙羅選手は薄ら笑いをたたえたまま、切れ長の目にいくぶん鋭い光をたたえた。


「自分らに言うても意味わからんやろうけど、こっちは正念場なんよ。秋口に、《NJGP》とやりあうことが決まったんでな」


「《NJGP》? えーと……それって、沙羅選手がもともと所属していたプロレス団体でしたっけ?」


「せや。《シトラス》vs《NJGP》の五番勝負、大トリはウチの出番やで。で、相手はウチの足をぶち折ってくれた根性曲がりの元センパイ様や」


 その言葉に、瓜子は息を呑むことになった。

 沙羅選手はかつて王座挑戦者決定戦で魅々香選手に敗れた際、《NJGP》の先輩一行から不興を買い――試合中の反則行為で、左の足首を折られることになったのだ。そうして半ば追放されるような格好で退団して、マキ・フレッシャー選手が所属する現在の団体に移籍したのだった。


「《NJGP》をおんだされたウチが《シトラス》で返り咲いて、因縁の相手とデスマッチや。なかなか盛り上がりそうな舞台やろ?」


「そ、そうっすね。プロレスのことはよくわからないんすけど……何も危険なことはないんすか?」


「危険やない格闘技なんてあるかいな。プロレスかて、格闘技の端くれなんやで?」


「は、はい。だけど、凶器を使うことが許される競技なんて、他にはなかなかないでしょうから……」


「そんなもんは全部かいくぐって、ウチがマットに沈めたるわ。《シトラス》王者の看板にかけてな」


 沙羅選手はにやりと笑いながら、いっそう鋭い眼光となった。


「うり坊たちには知ったこっちゃないやろうけど、《シトラス》なんざインディーズに毛が生えたていどの弱小団体だったんや。それがついに《NJGP》を同じリングに引きずり出すことができたんやから、正念場やろ。こいつをちょちょいと乗り越えて、《シトラス》を日本で一番の団体にのしあげる。……それが今の、ウチの目標やな」


「そうっすか……それじゃあやっぱり、アトミックに復帰する余裕はないっすよね」


「さっきも言うたけど、ウチにとってMMAは副業や。MMAなんざ、プロレスでハクをつけるためのPR活動なんやからな。……そないな人間に引っかき回されたら、誰かて気ぃ悪いやろ」


 と――沙羅選手はふいに眼光をゆるめて、やわらかな眼差しになった。


「ほんでもって、自分らのせいでアトミックはえらく底上げされてもうたからな。もう片手間でどうこうできるレベルやないやろ。せやから、ウチは魅々香はんにベルトをぶん取られたわけやからな」


「は、はい。でも、沙羅選手はお強いっすよ。この五日間で、それをまた実感させられました」


「それでも魅々香はんには届かんかったし、多賀崎はんもご同様やろ。ウチがアトミックでベルトを狙うにはMMA一本に絞る必要があるやろし、ウチにそんな気はさらさらないいうこっちゃな」


「それじゃあ……MMAは、もう引退なんすか?」


 瓜子が思わず身を乗り出すと、沙羅選手は同じ眼差しのまま咽喉で笑った。


「このペースでもベルトをぶん取れるぐらい力をつけたら、またお邪魔させてもらうわ。こないな不届きもんに仕事場を荒らされないよう、せいぜい励むこっちゃな。……ほな、お疲れさん」


 沙羅選手はコンクリの階段をのぼって、薄暗がりの向こうに消えていった。

 そうして瓜子がその場に立ち尽くしていると、視界にユーリの心配そうな顔が割り込んでくる。


「うり坊ちゃん、だいじょうぶ? どうか元気を出してほしいユーリちゃんなのです」


「ええ、大丈夫っすよ。……ユーリさんは、意外に大丈夫そうっすね」


「うみゅ。沙羅選手がMMAから離れてしまうのは残念な限りですけれども……そのお気持ちは、わからなくもないような気がするからねぇ」


 そう言って、ユーリはふにゃんと微笑んだ。


「沙羅選手は、MMAが副業だって言ってたでせう? ユーリにとっては、楽しい楽しい『トライ・アングル』の活動も副業であるのです。だから、沙羅選手も……どんなにMMAが楽しくっても、あんまり大きな顔はしたくないってシンキョーになっちゃったんじゃないかにゃあ」


 沙羅選手の真情は、誰にもわからない。

 ただ、あのやわらかな眼差しを思い出すと――瓜子も穏やかな心地で、ユーリに笑顔を返すことができたのだった。


「もしかしたら、そうなのかもしれませんね。ユーリさんには、『トライ・アングル』も頑張ってほしいっすけど」


「うみゅ。だから音楽関係のみなさんにお叱りを受けないように息をひそめつつ、こっそりライブを楽しませていただいているのでぃす」


 そう言って、ユーリは天使のように微笑んだ。

 やっぱりユーリにとっても、沙羅選手は特別な存在であるのだろう。だからこそ、我欲を抑えて沙羅選手の心情を慮ることができるのではないかと思われた。


(それに沙羅選手も、引退するわけじゃないって言ってくれたもんな。きっとまた、にやにや笑いながらMMAの舞台をひっかき回してくれるさ)


 そんな思いを胸に秘めながら、瓜子はユーリとともに打ち上げの場に戻ることにした。

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