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アトミック・ガールズ!  作者: EDA
23th Bout ~Our life~
622/955

05 大怪獣ジュニアと摩天楼ジュニア、再び

 第十試合が終了したところで、弥生子は入場口の裏手に移動した。

 同行してくれるセコンド陣は、大江山軍造とすみれと六丸である。すみれは出場選手であるにも拘わらず、頑としてこの役目を譲ろうとしなかったのだった。


 扉の向こうでは、晴輝が試合を行っている。その歓声を聞きながら、弥生子は大江山軍造の構えたミットに軽く攻撃を当てていった。

 六丸がいれば古武術のためのウォームアップを行うこともできるが、それは人前では見せない約束となっている。しかしまた、そちらの稽古も毎日欠かしていないため、試合直前に慌てる必要はなかった。


 やがて、扉の向こうからひときわ大きな歓声が聞こえてくる。

 それを覗き見した六丸が、笑顔で報告してきた。


「三ラウンド、ハルキくんのKO勝ちみたいです。ちょっと長引きましたけど、さすがですね」


 弥生子は「そうか」とだけ答えて、最後の攻撃をミットに打ち込んだ。

 半年間も試合から離れていたためか、肉体そのもののコンディションは万全である。

 骨折から回復した左足にも、異常は見られない。そちらの筋力を完璧に戻すために、弥生子は半年間もの休養期間を設けたのだ。どれだけの焦燥感を抱え込もうとも、弥生子には万全のコンディションで試合に臨む責務が存在するのだった。


 しばらくして、晴輝の陣営がこちらに舞い戻ってくる。

 晴輝は全身を汗に濡らしていたが、目立った手傷は見られない。それで弥生子も、ひそかに安堵の息をつくことになった。


「相手もなかなかしぶとかったんで、最終ラウンドまでかかっちまいました。でも約束通り、勝ってみせたッスよ」


「うん。おめでとう」


 弥生子は短く祝福の言葉を伝えて、扉の前に立つ。

 すると、晴輝のチーフセコンドを務めていた青田芳治が近づいてきた。


「弥生子師範。半年ぶりの試合なのだから、試合勘を取り戻すまでは決して無理のないように」


「うん。わかっている」


 試合の瞬間が迫るごとに、弥生子の口は重くなっていく。

 それをわきまえている青田芳治は冷徹なる面持ちでひとつうなずき、晴輝たちとともに立ち去っていった。


 六丸は白いガーゼのマスクを装着し、頭にはウェアのフードをかぶる。《レッド・キング》の試合模様はインターネット上で有料公開されるので、素顔を隠す必要があるのだ。そうして六丸はフードとマスクの隙間から、子犬のような目で弥生子を見つめてきた。


「弥生子さん、頑張ってください」


 弥生子はそちらにも、「ああ」とだけ答える。

 そして――弥生子の名前が、コールされた。


 すみれの手によって開かれた扉から、弥生子は花道に足を踏み出す。

 千三百名からの観客たちが、凄まじいばかりの歓声で弥生子を出迎えてくれた。


 しかし、弥生子の心はしんと静まり返っている。

 ほとんど半日をかけて、弥生子は気持ちを整えているのだ。これから死地におもむく人間として、弥生子は花道を踏み越えた。


 その最果てでウェアとシューズを脱ぎ捨て、ボディチェックを受け、ケージに上がりこむ。

 対角線上には、ヒグマのように巨大な姿があった。弥生子が生命をかけて倒すべき猛獣――エドゥアルド・パチュリアである。


 彼とは二度目の対戦であり、先の試合から一年と八ヶ月が過ぎ去っていた。

 あの日と同じように、エドゥアルドは空手着の下だけを身につけている。彼はフルコンタクト空手の雄たる玄武館の門下生であり――そして、昨年の世界大会でついに優勝を果たした身であった。


 世界中に支部を持つ玄武館の世界王者が、《レッド・キング》のような弱小団体の、しかも女子選手を相手にした見世物のごとき非公式試合に出場してくれたのだ。それもまた、おたがいの父親の代から連綿と続く交流の結果であった。


 彼の父親であるグレゴリ・パチュリアは全盛期の《レッド・キング》に参戦して、大吾と数々の死闘を繰り広げていた。世界中から未知なる強豪を招聘していた当時の《レッド・キング》においても、屈指の実力者であっただろう。大吾の両膝が限界を迎えたのも、グレゴリの強烈な下段蹴りが何割かの原因となっているはずであった。


 その息子たるエドゥアルドも、父親に負けない実力をつけている。その証に、玄武館の世界大会で優勝してみせたのだ。

 彼はいまだに二十代の半ばであったため、これからも輝かしい道を歩いていくことだろう。

 そのさなか、こんな脇道にそれて弥生子の相手をしてくれるのは、ありがたい限りであった。


『メインイベント、第十二試合、五分三ラウンド、男女ミックス、フリーウェイト、インフォーマルマッチを開始いたします!』


 リングアナウンサーが、そのように宣言した。


『青コーナー、二百三センチ、百二十八キログラム、玄武館ジョージア支部所属、玄武館第十一代無差別級王者、ジョージアの摩天楼ジュニア……エドゥアルド・パチュリア!』


 エドゥアルドは石像のように無表情のまま、十字に組んだ腕を腰の脇に振り下ろし、「オス!」という野太い声を響かせた。

 前回の対戦時より、彼は十キロも軽くなっている。しかし、弥生子の倍以上であることに変わりはなかったし――おそらくは、余分な肉だけが削ぎ落されたのだろうと思われた。


『赤コーナー、百七十二センチ、六十二キログラム、赤星道場所属、大怪獣ジュニア……赤星、弥生子!』


 弥生子は観客への礼儀として、軽く右腕を上げてみせる。

 歓声は、煮え湯のようにわきたっていた。


 弥生子は歩を進めて、レフェリーのもとでエドゥアルドと相対する。

 四十一センチの身長差であるため、弥生子の頭は相手の肩にも届かない。文字通り、肉の壁と対峙しているような心地であった。


 エドゥアルドは筋骨隆々というタイプではなく、十キロも体重が落ちた現在でも全身にうっすらと脂肪がのっている。ただし、日本人とは比較するべくもないほど骨太で、筋肉量も尋常でないため、本当にヒグマそのものの印象であった。

 その顔は彫りが深くて、落ちくぼんだ目が炯々と光っている。静かな闘志を燃えさからせる、武道家の眼光だ。彼や父親は空手家としての誇りを心の最上段に据えながら、MMAという異種の競技に挑んでいるのだった。


 弥生子は、死ぬ覚悟を固めてこの場に立っている。

 いっぽう彼は、弥生子を殺める覚悟を固めていることだろう。たとえオープンフィンガーグローブを装着していようとも、その巨大な拳が弥生子の身にクリーンヒットしたならば、生命を落とす可能性は十二分に存在するのだった。


 そのプレッシャーに耐え得る精神力こそが、エドゥアルドの一番の脅威であった。

 きっと百キロ未満の男子選手であれば、弥生子を殺める覚悟までは固めていないことだろう。人間というのは、意外に丈夫なものであるのだ。

 しかし、倍以上もウェイトに差があれば、話は別である。弥生子でも、体重三十キロていどの小学生を相手にするならば、大きな怪我を負わせないように細心の注意を払う必要があった。


 しかしエドゥアルドは、本気で戦うのだと決意している。

 それが、この重く静かな眼差しの正体であるのだ。

 たとえ相手を殺めることになっても、決して手心などは加えない――それが、空手家として弥生子の前に立つエドゥアルドの覚悟であったのだった。


「……両者、クリーンなファイトを心がけて」


 レフェリーにうながされて、弥生子は右拳を差し出した。

 エドゥアルドは、大きな手の平で弥生子の拳を包み込んでくる。特注のグローブをはめた彼の手は、弥生子の頭でも包み込めそうな巨大さであった。


 弥生子はエドゥアルドの巨体を見据えたまま、フェンス際まで引き下がる。

 大江山軍造が「慎重にいけよ!」と声を張り上げていたが、口を開く気にはなれなかったので右手を軽く上げてみせた。

 さらに、すみれの「頑張ってください!」という声が響き――そこに、試合開始のブザーが重ねられた。


 弥生子は拳を垂らしたまま、徒歩でケージの中央を目指す。

 いつ如何なる時でも自然体で――それが、六丸から習った古武術の基本であった。


 いっぽうエドゥアルドは胸の高さで拳を構えつつ、すり足で近づいてくる。

 いかにもフルコンタクト系の空手家らしい構えだ。玄武館では拳で頭部を殴打することを禁じていたし、もとよりこの身長差では顔を守る甲斐もないはずであった。


 ただ――弥生子の脳裏に、違和感がよぎっていく。

 一年八ヶ月前の記憶と、何かが違っていた。構えや足運びは同一であっても、どこかリズムが違っているのだ。


(昨年の世界大会でも、エドゥアルドのスタイルに変化はなかった。しかし……あの頃は、まだこれほどウェイトも落ちていなかったはずだな)


 十キロもウェイトが異なれば、動きのリズムに変化が生じて然りであろう。

 しかし、弥生子のなすべきことに変わりはなかった。


(すべては、流れのままに……一瞬の判断に、生命をのせるのだ)


 それが、六丸から習い覚えた古武術の基本姿勢であった。

 戦略を練るのではなく、その瞬間ごとにもっとも正しい行動を選び取る。六丸が習得したのはスポーツでも武道でもなく、路上で相手を打ち倒すための殺人術であるのだ。そこからMMAでは反則となる要素を削り落としたのが、弥生子の駆使する古武術スタイルであった。


 エドゥアルドは、牽制で下段蹴りを放ってくる。

 彼はもともと下段蹴りを得意にしているし、中段以上の蹴りはテイクダウンを取られる危険が急上昇するのだ。彼がもっとも警戒しているのは、テイクダウンにつながる組み技であるはずであった。


 弥生子は前に踏み出していた足を引くことで、その下段蹴りを回避する。

 この体重差では、相手の攻撃を防御することも許されなかった。どれだけガードを固めようとも、それで腕や足は破壊されてしまうのだ。弥生子は、すべての攻撃を触れることなく回避しなければならなかった。


 エドゥアルドは、さらに前蹴りを飛ばしてくる。

 それもまた、後ろに下がることで回避してみせた。


 歓声は、津波のように弥生子たちを取り囲んでいる。

 本日も、大怪獣ジュニアによる残酷ショーは観客の期待を存分にかきたてているようであった。


(しかし、まったく隙がない。これでは、手の出しようもないな)


 弥生子はそのように考えたが、それでも焦ることはない。

 すべては、流れのままにだ。それでこの先、いっさい攻撃のチャンスがなければ――最終ラウンドの終盤で、忌まわしき力を発動させるだけのことであった。


 弥生子は足を止めて、相手の接近を待つ。

 すると――エドゥアルドが後ろに退き、大きく息をついた。

 そして、思わぬ勢いで肉迫してくる。

 弥生子は、半ば駆け足でその勢いを受け流すことになった。


 ただ下がるだけではフェンスに追い詰められてしまうため、相手のアウトサイドに回り込む。

 すると、相手は左腕で裏拳を振るってきた。

 玄武館の試合では、まずありえない動きだ。やはり彼もこの期間で、MMAで戦うすべを磨いてきたようであった。


 身を引くだけでは足りなかったため、弥生子は足を動かしながら上体をのけぞらせる。

 すると、さらに凶悪な攻撃が迫ってきた。

 エドゥアルドは裏拳の勢いで身をよじり、右の中段蹴りを繰り出してきたのだ。


 弥生子は不安定な体勢のまま、後方に跳躍する。

 それではフェンスに激突することになるが、やむを得ない。この中段蹴りをくらったら、その場で試合が終わってしまうのだ。


 弥生子の腹に焦げ目をつけそうな勢いで、エドゥアルドの足先が走り抜けていく。

 それとほぼ同時に、弥生子の右肩がフェンスに激突した。


 その反動を利用して、弥生子は左手の側に跳躍する。

 それは相手の間合いの内を通りすぎる危険な進路であったが、右側はフェンスが邪魔でいっそう危険であったのだ。


 弥生子の逃げる先には、巨大な拳が待ちかまえている。

 エドゥアルドは右の中段蹴りから、さらに右の鉤突きにまで繋げてきたのだ。


 いずれも重々しい破城槌のごとき攻撃であるが、技の連携は流麗の極みである。

 つまり、すべてはエドゥアルドの思惑通りであるのだ。左の裏拳から右の中段蹴り、右の中段蹴りから右の鉤突き――それでワンセットのコンビネーションであったのだった。


 エドゥアルドは、短期決戦を狙っている。

 いや、きっと短期決戦という意識でもないのだろう。ただ彼は、弥生子を倒すために最善の手を尽くしているのだろうと思われた。


 目前に迫る巨大な拳を見据えながら、弥生子は全力で頭を下げる。

 すでに跳躍の途上であったので、弥生子にとってはこれが最善にして唯一の手立てであった。


 弥生子の頭頂部の髪をかすめて、エドゥアルドの丸太のごとき腕が通過していく。

 弥生子はさらに距離を取るべく、さらに足を踏み出そうとした。


 その目の端で、エドゥアルドの巨体が横回転する。

 今度は鉤突きの勢いに身を任せて、そのまま身体ごと横回転したのだ。


 弥生子の背筋に、初めて冷たいものが走り抜ける。

 これは、まるで――猪狩瓜子のごとき挙動であった。

 もちろんエドゥアルドは彼女のように人間離れした集中力は有していないので、ただ愚直にその動きをなぞっているに過ぎないのであろうが――その手足の長さと怪力で振るわれる連続攻撃は、脅威そのものであった。


(そうか。きっとエドゥアルドは、私に勝つために……猪狩さんや桃園さんの試合を分析したのだろうな)


 そんな思考を脳裏によぎらせながら、弥生子は胸もとで両腕を十字に組んだ。

 この段階では、まだエドゥアルドがどのような攻撃を出してくるかもわからない。回避することを第一に考えつつ、次善の守りも準備する必要があった。


 エドゥアルドが選択したのは――左拳による、バックハンドブローである。

 やはり、玄武館の試合ではありえない技だ。彼は弥生子を倒すためだけに、この技を磨いてきたのだろうと思われた。


 身長差が甚だしいために、腕の角度はやや下側に傾いている。射程はいくぶん短くなってしまうが、彼が真横に腕を振るったならば、易々とその下をくぐられてしまうのだ。彼の判断は、まったくもって正しかった。


 今からでは、身を屈めることも間に合わない。

 左右に動いても、完全に回避することは不可能であろう。

 であれば、もっとも被害が少ないように動くしかない。


 すでに足を踏み出しかけていた弥生子は、相手に近づく格好で右方向に身体を傾けた。

 左方向に逃げたならば、勢いの乗った拳に激突してしまうのだ。弥生子はすでにガードを固めていたが、それでは最低でも片方の腕をへし折られるはずであった。


 回転技は、軸に近づけば近づくほど勢いを殺せるのである。

 そうして弥生子は、ほとんど体当たりを狙っているような心地でエドゥアルドのもとに接近し――十字に固めた両腕に、肘と上腕の裏側をぶつけられることに相成った。


 相手の肘は真っ直ぐにのびているので、支障はない。

 ただその衝撃は、弥生子の想定を超えていた。トラックにでも轢かれたような衝撃が、腕から背骨にまで走り抜けたのである。


 これが、倍以上の体重差から生じる威力であるのだ。

 その一撃で呼吸を止められた弥生子は、サッカーボールのように弾き飛ばされることになった。


 そしてすぐさま、フェンスに背中を叩きつけられる。

 さきほど弥生子が遠ざかろうとしていたフェンスである。


 二重の衝撃から生じた嘔吐感に耐えながら、弥生子は次のアクションに備える。

 エドゥアルドは石像のような無表情で、弥生子に向きなおってきた。

 そうしてしっかり構えなおすと、一歩の踏み込みで右の正拳突きを繰り出してくる。


 体重の乗った、大砲のごとき一撃だ。

 こんなものをくらったら、それこそ生命が吹き飛ぶことだろう。

 フェンスの角度的に右側に逃げることは難しかったので、弥生子は左側に踏み出した。


 エドゥアルドの巨大な右拳が、危ういタイミングで横合いに通り過ぎていく。

 そして――新たな脅威が、弥生子の鼻先に迫ってきた。

 エドゥアルドの右足である。

 彼は右拳を振るうと同時に、右の上段蹴りを射出していたのだ。


 これもまったく、玄武館の技ではない。そもそも玄武館では顔を殴打することが禁じられているのだから、このような技は成立しないのだ。

 顔へのパンチを目くらましにして、同じ側の足で上段蹴りを振るうというのは――まぎれもなく、キックボクシングから現代MMAに継承された技術であった。


 弥生子は、静謐な心地で頭を下げる。

 どのような苦境でも、弥生子が心を乱すことはない。

 ただし――どれだけ沈着に振る舞おうとも、物理の法則は絶対である。よけられない攻撃は、決してよけられないのだ。


 この距離で、このタイミングで、このスピードで出された上段蹴りは、弥生子の身体能力では回避することができない。

 あの忌まわしい力を解放していれば、その限りではなかったが――それには、二秒ばかりの猶予が必要であるのだ。いま二秒をかけていたら、弥生子の生命はその間にかき消えているはずであった。


 弥生子は、ただ身を沈める。

 よけきれないことがわかっていても、それ以外に道はなかった。


 空手衣に包まれたエドゥアルドの右足が、眼前に迫る。

 決してそこから目をそらすことなく、弥生子はただ身を屈めた。


 白い空手衣の色合いが、じょじょに上方へと消えていく。

 しかしそれが消えきる前に、激突の瞬間が訪れた。


 弥生子の額に、熱い擦過の感触が走り抜ける。

 かろうじて、直撃はまぬがれた。

 しかし、空手家として鍛えぬかれた硬い脛が、弥生子の額をじゃりっと擦っていき――表層上では皮膚が裂け、その内側では脳が揺れた。


 自らの額から弾け散る血飛沫を眺めながら、弥生子の視界がぐにゃりと歪む。

 上下の感覚が入れ替わり、真っ逆さまに奈落に落ちていくような心地であった。

 ほんのかすめるていどの衝撃であったのに、弥生子に脳震盪を起こさせるには十分であったのだ。


 膨張と収縮を繰り返す弥生子の脳裏に、敗北の二文字が陽炎のようにたちのぼる。

 それを思考の牙で嚙み砕きながら、弥生子は忌まわしき力を発動させた。


 今からではもう、何も間に合わないかもしれない。

 しかし今の弥生子には、その道しか残されていなかった。


 弥生子は、まだ死んでいない。

 ならば――生命が尽きるその瞬間まで、勝利を目指すしかなかったのだった。

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