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初任者研修の人々

 十年ほど前、まだ介護職員初任者研修じゃなくてヘルパー二級が介護職員の入り口だったころ、ヘルパー資格というのは子供が小学生になり多少は自分の時間ができたお母ちゃんたちの資格だった。家事や子育ての延長みたいなヘルパー資格は主婦がとるにはお手軽で急拡大した介護業界の人材確保にお母ちゃんたちは貢献した。当時のヘルパー資格は尿取りパッドで実際にショ〇ベンしてみたり、二日間の実習があったりしたがヘルパー二級と初任者研修は資格としては同格だった。

しかし現在はお母ちゃんもいるこたいるが、生徒も様変わりした。伴太くんみたいな比較的若手とは言えないが、世間一般的に言えば青二才の年齢の人間も、還暦近いおっさん、おばさん、大学生、専門学生、そしてとりあえずとってみようかなと数万かけ、休日も使ってわざわざ介護を学びに来る優秀そうなサラリーマン、このご時世に介護業界に参入した飲食店経営者などなどある意味掃きだめと言われる人間模様をこれでもかと見せつける。


伴太くんは一応大卒だが、全国的な知名度が皆無に等しい田舎の私立大学でそこでもまともな勉強どころか遊びもやらなかったから、自分と違う種類の人間がいる場は苦手である。案外大学生は、チャラ男やパリピも多く特に就職先からどうせなら会社が金出すからとっておいてという新社会人も少なくない。この手のパリピは伴太くんみたいな労働者より経営者にシンパシーを抱き必然的に伴太くんは孤立した。そりゃ大学生にとって陰気な三十路より陽気な四十路よ。


初任者研修は割とグループワークや実践の時間も多い。当然二人ペアになってやる講義もあり、同じような陰気なおっさんと組みそれらをこなす伴太くん。こんなことがあった。一応やる気がある伴太くん。排せつ介助の実習で女子大生の股ぐらを凝視してしまい、ヤバい険悪な空気を創り出してしまった。その時の伴太くんの一言。

「いや、別に僕にその気はないから」


 なんやかんやでネットで書かれているほど講義自体は悪くはない。講師の介護福祉士もごくたまにハズレがいるが、仕事に対して誠実な人が多く、いいことなんかほとんどない介護業界の三年に一回ぐらい訪れる感動のエピソードを披露してくれる。やはりこの業界は高齢者相手が多く、死に関するエピソードが多い。普段は風呂ギライの利用者様が今日はやけにおとなしく入浴された。しかも丁寧に一つ一つ体を洗っていき、さっぱりして帰られた。その二日後亡くなったとか、夜中に居室から明かりを漏れていた時に何事かと巡回してみたら利用者様が札束を数えていた。「息子には内緒やぞ」と念を押されたという心温まるエピソードを披露してくれる。本当に実話かどうかって?札束の方は俺が体験した話だから実話やぞ。


 こうして最終テストを終え二週間ぐらいに賞状みたいな奴と携帯用でラミネートされた奴の二枚の受講証明書が出る。この時専門校で出会った“同窓生”たちと最終日にメールやラインを交換し、その後飲みに行ったりするのだ。数十年ぶりの学生気分、そして数十年ぶりの卒業生気分を味わえるのだ。まぁこれ以降金輪際会うことなんかないけどさ。


 しかし飲み会とか嫌いな伴太くんはとっとと帰って家でゲームをやった。女子大生から「変態ガリメガネ」とあだ名されていたと知ってか知らずか、ゲームに出てくる半裸の女戦士に欲情する伴太くん。彼が介護業界の真の恐ろしさを知るのはまだまだ先の話。


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