入社理由?特にないです。
こんな伴太くんがなんでわざわざ石渡みたいな介護会社に入社したのかと言うと、それには訳がある。なんと伴太くんは「社会福祉主事」の資格保持者なのだ!はぁ何それというそこのあなた。この「社会福祉主事」は福祉事務所の職員になるためには必須なのだぁ!。(注なくてもなれる場合もあります)しかもしかも福祉業界の要である相談業務に就くためにはなくてはならない資格であり、現場の介護職員から生活相談員に役職がアップするすごおおおおおい資格なのだぁ。とまぁ冗談はここまでにして、なんで陰キャの伴太くんが、そんなたいそうな資格を持っているのかと言うとこの「社会福祉主事」は任用資格である。つまり福祉事業所に任用されるための資格である。逆に言えば福祉事務所に就職しなければ、こんなもん持っていても無駄なのだ。さらにこの資格は別に試験を受けてとるもんじゃない。大学で社会学や心理学と言った社会福祉っぽい講義の単位を三教科取得するだけでいつの間にか取れてしまう。戦後の混乱期、少しでも福祉の人材を確保するために量産したのだが、戦後から七十年以上たっても変化はない。こういった人間を福祉業界では蔑称で「三科目主事」と言われる。他にも講習を受けてとる場合もあるが、ここでは割愛する。「社会福祉主事」で相談員業務になれるが、これは都道府県によって若干の違いがあるが、介護福祉士でも普通にやれる。まぁ介福持っていれば、普通に現場やってもらいたいけど、主事を持っているからって現場では懐疑的だし、大体一年は持たない。まぁ主事からたたき上げてケアマネやサビ管までやっちゃう人間も多いから一概にそうだとは言えないが。
伴太くんは社協で働く同級生から「主事持ってるなら介護でもやれば」というおよそ親身になってアドバイスしたとは思えない軽いノリで大学に問い合わせて実は主事取得者であることが判明した。こうして喜び勇んで石渡に応募した伴太くんの希望職種は当然相談員だった。介護なんか未経験のくせによく現場からサンドバックにされる相談員なんかやるよと思うかもしれないが、介護会社は抜け目がない。
「もちろん芹沢さんには将来的に相談員の業務に就いてもらいます。しかし二、三か月は現場を体験してからの方が仕事内容も分かってスムーズに業務に就けますよ」嘘八百である。足りないのは“現場の介護職員”である。兵隊が足りないのだ。相談員なんか現場の介福持ちを書類上だけ相談員にして、後はケアマネがやればいいのである。こういった詐術は介護会社に少なくない。介護会社に限らないかもしれないが、コンサルタントとして入社したのにいつの間にか介護職員にされていたとか、栄養士採用されたはずなのに現場を手伝ったら夜勤までこなすようになっていたとか事務職員採用だったのに入社初日で排せつ介助をさせられた等枚挙にいとまがない。会社側は伴太くんを介護職員として最初から採用していたのだ。相談員?とりあえず二、三年残ってたら考えてやるよ。
と言うわけでその気もないのに介護職員として第一歩を踏み出した伴太くん。伴太くんは最初の一か月は介護職員初任者研修をとるのが課題である。介護職員初任者研修は前にも書いたと思うが、介護職員をやるんだったら最低限の知識がある証明書みたいなもんである。訪問ヘルパーになるんなら必須の資格であるが、有料やグループホームと言った施設で働く場合は必要がない。とはいえ介護職員になるんだったら、持っていても損はない程度の重要性はある。なぜこの資格を意外に持っている人がいないかと言うとまず費用が結構高いのだ。旨く行けば二、三万でとれる場合もあるがそこそこ大手の専門校に行こうとすれば最低で五万はかかる。持っていても損はないけど五万払うほどかと思われるだろう。場合によっちゃ十万はとる。暴利である。今はハローワークでタダで取得できる資格に十万ぶっこむぐらいなら、パチンコ屋でマリンちゃんに会いに行ったほうがよっぽど有意義である。そこまで払って介護ってなる人間が多いんだなぁこれが。最近は安い時期を見計らって会社が資金を出して従業員に取らせる。その代わり会社を辞められないということになるが、うまいことやって介護福祉士になってくれれば労働者も会社も収入が増えるんで万々歳である。ただ最近は実務者研修と言う罠もある。完全に厚生労働省の天下り先を確保するために作られたとしか思えん代物だがここでは割愛する。
なんだか介護業界の解説みたいな小説になっているが、伴太くんは久しぶりにシャーペンを手に取り初任者研修の勉強を始めた。初任者研修は十五日ほどの座学やグループワーク、そして実践で基礎の基礎を勉強する。最初は課題を解いて座学初日に提出するのだ。課題は別にテキスト見ながら解いていいし、レポートもあるがそれもテキスト見ながらならまだ何とかなるだろう。しかし学生を卒業して十年近くたつ伴太くん。誘惑が多くあまり課題がはかどらない。この課題は割と難易度が高めに設定されている場合が多く、それなりにテキストを読まないと解けない。それでもカンニングOKの課題なんだから、自動車免許より簡単なはずである。しかし伴太くんは眠気に勝てないし、今日はソシャゲのイベントだから、ネットでエロ動画漁ってたらとかなんだかんだ言って結局一か月時間があったのに終わったのは前日の夜。レポートなんかその辺の小学生の方がよっぽどマシな感想文書いてくるレベルの出来である。案外やってこない奴もいるからセーフなんだよなこんな有様でも。
伴太くんは県庁所在地にある、さわやかふれあいカレッジに入校した。全国に拠点を持つ福祉教育の雄だ。さぁ伴太くんの物語が始まる。本当はもう働きだしているはずなのに、なんか色々と書いていたら、もう4話になるのにまだ現場どころか初任者研修だよ。小説書くのって難しいなぁ。