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まだ何も始まってもいない

 ここは県庁所在地から電車で3駅のベットタウン、豊玉市。市内で一番の産業が繊維産業であり平成の大不況を直に受けたこの都市もなんとか建託やらほにゃららコーポレーションやらの単身者用賃貸住宅が次々と建設され、大型ショッピングモールやらパチンコ店やら激安牛丼屋やらが雨後の竹の子用に生えてきた。こうしてどこにでもある日本の地方都市と化した豊玉市は介護保険制度が施行されたと同時に高齢者向けのデイサービス、ショートステイ、そして有料老人ホームが新設されていった。


 学校の歴史のお勉強のような話が続くが、なんでこんなにも高齢者向けの施設が増えたのか?答えは簡単である。元手がほとんどかからないのに開店しやすいのだ。例えばデイサービスなんかその辺の空き家をちょこっと改修すれば、行政からOKが出る。それだけ現在の日本の高齢化事情がひっ迫しているのだが、ここまで規制緩和が進めばどうなるか?介護の「か」の字もよく分からん事業者が参入するのだ。ひどい場合はヤクザのフロント企業が親会社だったこともある。リアル任侠ヘルパーである。ここまで酷くなくても、定食屋の親父が副業としてデイサービスに参入したり、翻訳業をやっているようなおばさんが昼間は元気に「富士山」を歌っていたりなんでもアリなのだ。しかしこういった零細企業は年号も改まった令和にでもなると、合併したり廃業したりしてかなり淘汰された。多少なりとも資金力がないと続けられない業界になってしまったのだ。狭くても事務所があれば開設できる訪問介護も人員が集まらないということで結局は大手に譲渡せにゃ生き残れない。まぁその大手も言うほど人員が足りているわけじゃないんですけどね。こう考えれば日本の介護福祉政策は転換期に来ている。イケイケドンドンの参入期はとうに終わり今はどう維持していくのかが焦点になった。ぶっちゃけ国としては介護報酬を減らしたいが、親や祖父母の介護で本来ならバリバリ働いてたっぷり税金を納めてくる現役世代の生産力が落ちるのはもっと困る。それじゃあどうすればいいのよ、このままずっと自転車操業にするわけ?まぁ俺は一日本人だから先のことは何もわかんないけど。


 零細は消え去ったが、まだまだこの業界は大手より中小企業の方が多いし人材はもっと不足している。人材がいなければ会社は運営できず、そりゃ一応人を入れるのだが散々悪評が集まった業界である。マジでまともな奴が来ないのである。業界が本格化した介護保険制度が施行されたもう20年たつが、まだまだ中途入社が多く新卒から40年介護業界に骨を埋めてきた人間はほぼいない。つまり経験も知識もそれほどじゃない奴が管理職になる。また人によってやり方が全然違うから、新人が入ってきても振り回されやすい職場である。あの人は「陰洗をしっかりやれ」と言うのにこの人「陰部洗浄なんかやらんで、他のことやれ」とか言われるし、気が弱い奴ならそれだけで精神科行きだ。新入社員も社内不倫をやらかして、夜勤をぶっちぎる奴や手癖が悪く看護師から三万くすねてクビになる奴、車を傷つける奴、備品の洗濯機を夜勤中癇癪起こして破壊する奴、一年たっても先輩どころか利用者様に「やる気がない」と言うことを怒られる奴多士済々だ。本当に会社が労働者を選べる立場になってほしいもんだ。すんません愚痴でした。


「まず志望動機をお聞かせ願いますか?」

「ハイ、私は元々人のお世話をするのが好きで、介護と言う仕事に興味を持ちました。ぜひやってみたいです。」

こんな小学生のような面接が行われているのは豊玉市にある「株式会社石渡」の面接室だ。「株式会社石渡」(以下石渡)は元は田舎の薬局だったが、高度経済成長期に衛生用品や医療器具、福祉用具、はたは健康食品まで販売するようになり介護保険施行後は有料老人ホームやサ高住、訪問介護や訪問看護も運営するようになりこの地域ではCMが流れるぐらいの知名度を誇るようになった。しかし介護業界である。ご多分に漏れず、めっちゃ人手不足で掃除のおばちゃんも調理のおばちゃんも介護職員として登録して行政に提出するぐらいはあり触れた会社である。伴太くんは無能でオタクでその癖プライドが高いが、手と足はついてるし、一応日本語がしゃべれる。はっきり言って熱意もクソもない人材(人罪)だったが石渡の総務課主任、一応将来の幹部候補、嶋田は採用の稟議書を書いていた。


(こんなんでも通さないと人手が足りないんだよなぁ、特にあそこは年中人手不足だし、使えんっぽいけどあとは現場が何とかするっしょ)という気持ちである。まぁ生きるために生き方を選んでやれないけどね。

 一方の伴太くんも似たようなもんである。とにかく履歴書がボロボロであり割と詐称もとい簡略化して書いているもののやはり職歴が転々としていることはもろバレであり、んなやつがいきなり正社員採用されるのは介護ぐらいしかない。施設勤務なら別に資格とかもいらんし。ただ最近はあまりに人材(人罪)がひどすぎるから、最低限ヘルパー二級を持っているか介護職員初任者研修(ようは介護職員になるにはほんのちょっぴりだけ知識があるよと言う証明書)をニ〇イか三〇とかでとってきてよ。ぐらいの制限は課すようになった。最短でも一か月ぐらいかかるうえに値段も相場は五、六万から十万ぐらいすることもある。介護で十万とかwwwと言いたいところだが、これぐらいの足切りをしないとマジで入社してから犯罪をしでかす奴ばっかになるから。この話を読んでいる人の中で会社の採用担当者の皆様。採用基準を下げたら、現場は常に修羅場ですよ。精神安定剤飲んでます、飲まないと我を忘れちゃうのとかいうキングコングみたいな女の子が現場に来て、右頬をビンタされた私が言います。採用担当者の方々、明らかな地雷は踏みにいくな!


石渡でも新入社員、特に未経験者には研修がてら初任者研修を取りに行かせる。研修できるノウハウもない会社だから人にやってもらうのだ。なお本社研修と称して、いかにこの会社は素晴らしいのか、いかに社長は経営センスをもった稀有な人物であるかを丸一日で叩きこめるノウハウは持っている模様。

 さて伴太くんは無事初任者研修を取得できるのか?乞うご期待!!!!!

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