チョイなチョイなー♪
グループホームきさらぎには、名物利用者がいる。きさらぎが新規オープンしたのは平成17年。介護保険が本格的に施行され、世の中の経営者たちが福祉で儲けようと参入を始めたころだ。グループホームと言うのは認知症の高齢者が助けあって生活する。そこそこ介護度が重くなれば、特養に行けると思われたんだろう。しかし世の中そううまくいかずオープン当初からいる利用者、要支援1だった人が現在では要介護3になった人がいる。吉井正子さん。今年で御年90歳になる昭和5年生まれである。四国出身の吉井さんは、歌が好きで、ずっと歌っている。水戸黄門が始まれば、劇中ずっと歌っているので他の利用者とトラブルになりがちなお茶目な90歳である。
歌ってなければ、ブツブツ独語が多い。やれ金が減っただの年金が減っただの配当が減っただの9割金の話で残りの1割完全に作話である。天皇陛下と仲良くピクニック行った話とか夜中の2時にヘラヘラ笑いながら話す。んな話を長くても16時間勤務の職員ならともかく同じ利用者同士ならたまったもんじゃないが正子はお構いなしである。
伴太くんは今日も正子さんの排泄介助を行う。失禁ならまだしも弄便もやる正子さんは忙しいときなら腹立って仕方ないときもある。まぁこれで金を貰っていると理解できても人間っつうもんはそう簡単に自分の境遇を納得できない。夜中2時に正子さんのおめ◯ょトークを聞かせられるとそりゃため息どころか舌打ちも出てくるもんだ。しかしある意味天真爛漫に金の話をヘラヘラしながら話す正子さんを見ているとしっかたねーな、やってやるかと言う気持ちも起こるもんである。本当に介護と言うのは不思議な商売である。
正子さんが好きな歌は「草津節」である。瀬戸の花嫁とか南国土佐を後にしてとか四国出身テイストの歌は沢山あるが口を開けば「くっさつよいとこー、一度はおいでーどっこいしょー♪」である。水戸黄門は1時間で歌い疲れちゃうが草津節は2時間でも3時間でも歌い続ける。伴太くんはまだまだ介護初心者。高齢者が好きな歌や歌える歌はあんまし知らない。これから覚えないといけない。しかし草津節は3日で覚えた。