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ギャルとボーズと白球と  作者: 野村里志
4/20

「余裕がない男はダメだよ。懐深く構えなきゃ」



 ガツガツガツガツ


そんな表現がふさわしいぐらいにその男は凄まじい勢いで弁当の中身をかき込んでいた。その弁当の大きさはもはや一般の弁当箱ではなく、内容量一リットル越えのタッパーで用意されていた。


「いやー、坂本。今日も食うな~」


 前の席の男子が後ろ向きに座り直し坂本誠二に話しかける。誠二は口いっぱいにご飯を頬張りながら返事をする代わりに頷いてみせた。


「もうみんな慣れちまったけど、何度見てもやっぱりすげえな。色々と」


 誠二は引き続き爆速で箸を進める。もう既に弁当の半分近く食べ終わっていた。

 その大量の食事をさっそうと食べ進めてしまう誠二は確かに異常ではあった。しかしこれぐらいなら育ち盛りの高校生ならある程度考えられる。問題はその食べている時間だった。


「まさか一限終わりに早弁でこれだけ食うとはね」


 よく見ると誠二の弁当袋の中には他にも5,6個の特大おにぎりが入っていた。


「ほら席に着け~。チャイムなるぞ~。坂本、その口に入ってるので最後な」


 数学教師が少し早めに教室に入ってくる。


 時刻は午前九時二八分。私立桐国高校3年1組は今日も平常通りであった。




「じゃあショートホームルームやるぞ」


ガツガツガツガツ


二限目と三限目の間、各クラスはそれぞれショートホームルームを行う。最も特段説明事項がなければ少し長めの休み時間のようなものであり、誠二は先程食べきらなかった弁当を食べていた。


 クラスの室長が形式的な伝達事項だけ述べて、一分ほどでショートホームルームが終わった。


 私立桐国高校は自主性が非常に重んじられている。そのため自由度が高い。その反面無秩序になりかけている側面もあるが、学校の方針としてそれを尊重している。


 そうした成果かどうかは分からないが、創立して以来非常に進学実績の良い進学校になっている。というのもその自由すぎる校風が好きで入ってくる優秀な生徒も多いからである。この点で良いサイクルが生まれてるといえた。



もぐもぐもぐもぐ


 三限が終わった休み時間、誠二は特大のおにぎりを頬張りながら必死にノートにシャーペンを走らせていた。

「何だ、坂本。数学の宿題終わらせてなかったのか~」


「そういうお前達はどうなんだ」と誠二は声を掛けてきた男子連中に目をやる。彼らはわかりやすく「お手上げ」というジェスチャーだけとった。彼らは先生に指されたときの覚悟を決め意気揚々と談笑にしゃれ込んでいる。


 誠二はおにぎりを一気に口に放り込んで、口いっぱいに米を頬張りながら三次関数と格闘を続けた。








「坂本君ってさ~。ホントせわしなく動いてるよね~」


 昼休み。いつも通り三人でご飯を食べているときに唐突に桑原智ことトモが話し出す。


「いや、もう見慣れたけどさ、休み時間中ずっと何か食べてるじゃん?そんで昼休みは野球部の昼練習に行っちゃうしでしょ」

「確かにね。なんか一人だけ時間のスピードが違う気がするよね」


 高橋優衣もそれに同調しながら笑う。


「……トモ、ユイ。なんで急にアイツの話すんの?」


 堀岡芽衣は不満げな視線を送りながら智のほうを見る。


「別に~。相合い傘の話を聞かされてなかったな~とか思ってないよ」


 智はニヤニヤしながら答える。


「そうだね。私も別のクラスの子から教えてもらわなければ知らなかったしね」


 優衣の方もどこか楽しげな様子である。


(やっばー、ミスったな。もう遅いから誰も居ないと思って注意してなかった。まさか見られてたなんて)


 芽衣は自分のうっかり具合がつい恨めしく感じてしまう。雨の日に同じ傘で帰ったりしたらそうなる可能性だって十分にあったはずなのにそれを失念していた。


「だ~か~ら~。アイツとはそんなんじゃないって。何度も説明したじゃん」

「“アイツ”?“アイツ”なんて呼び方しちゃうんだ~」


 智はさらに楽しそうに返す。芽衣はもう自分でどんどん火に油を注いでいる気がした。


「まあまあ、トモ。それくらいにしてあげなよ」


 ここでやっと優衣がブレーキをかける。智はしぶしぶ「は~い」とひやかすのをやめる。


「でも実際のとこどうなのかは気になるところではあるよね。まあ教室では話しにくいことかもしれないけど」

「別に本当になんもないんだってば~」


 芽衣は勘弁してといった様子で優衣の肩をゆらす。優衣は

「はいはい」と言いながら少し楽しげに食事を再開する。


「でも正直な話、結構優良物件だよ。坂本君」


 智が箸を芽衣に向けながら話す。


「背も高いし、運動もできる。顔もアイドルっぽいイケメンじゃないけどかっこいいほうじゃん?」

「え~。そうかな~」

「そういえばさ、メイってどういう男子がタイプなの?」


 優衣がメイに聞いてくる。


「別に、どういうのが良いかって言われると難しいけど」


 メイはちょっと考えながら答える。


「なんかこう優しくて、頼りがいがある人かな。運動もできた方がいいかな。あと芯がある人が好きかも。何かに一生懸命打ち込んでる人とか……」


(て、あれ?)


 芽衣が自分で言ってて何かまずい予感がした。


「「へ~」」


 二人はより一層ニヤニヤしながら芽衣を見つめる。


「違っ、違うって!そうじゃないの!」

「どう違うのかな?まだ何も言ってないけど?」

「あーもうメイ可愛い」


 二人は完全にからかいモードに入ってしまっており泥沼状態であった。


「私はもっと堂々と……そう、余裕がある人がいいの」

「そう?ちょっと隙がある方が良くない?てか坂本君はけっこう堂々としてる気もするけど」

智が答える。これには優衣も同感のようであった。

「そんなことないよ」


 芽衣が反論する。


「余裕がない男はダメだよ。懐深く構えなきゃ」


ちょうどその時、芽衣が力説する後ろに大きなシルエットが現れる。


「悪かったな、余裕がない男で」


 思いも寄らない声に芽衣が振り返ると後ろには噂の男が立っていた。


「まったく、勝手に人のことあれこれ批評しやがって……。あと声がでかい。静かに喋れ」


 三人に一瞬「ヤバっ」という雰囲気が流れたすぐさま智がリカバリーした。


「ごめん。坂本君、悪気はなかったの。つい面白がっちゃって」


 智は声のトーンを少し上げたいかにも男子受けする声で坂本に謝る。二人はただただ智の技に感動していた。


「別にいいけどさ」


 誠二は少しすねたように答える。その口調はギャップも相まってどこかかわいらしくもあった。


「……アンタ昼の練習さぼったの?」


 芽衣がこの時間帯に教室にいる坂本を訝しんで質問する。


「失礼な。俺が練習なんかさぼるわけねえだろ。今日は雨降ってるから昼練が簡単なミーティングに変わって早めに終わったんだよ」

「ふーん」


 芽衣は素っ気ないリアクションを誠二に返す。冷静に考えれば元々は自分が被害者なのだ。それなのに自分まで大声で噂話してる女だと思われるのが少し癪であった。


「あとお前さ」


 誠二が芽衣に向かって話しかける。


「楽しい話してたのかわかんねえけど、鼻水出てんぞ。鏡見とけよ」

「えっ、嘘っ!」


 芽衣は急に顔を真っ赤にして慌てて鼻のあたりを手で覆い隠す。慌てて鞄からティッシュを取り出そうとするもその拍子に箸を落としてしまう。


「嘘」


 ひとしきり芽衣が慌てふためいたのをみてから誠二が答える。


 芽衣はそれを聞いて動きを止め、「あんたねぇ」とうなりながら拳を握る。


「余裕がない女もダメだな。あと声がでかい女もな。慎ましさに欠ける」


 誠二はしたり顔でそうだけ言うと、笑いながら自分の席へ歩いて行く。


「あいつムカつく~」

「まあまあ。メイも落ち着きなって」

「そうそう、坂本君に嫌われちゃうよ~」

「あんた達ね……元はといえば二人がはじめたんでしょうが!」


 芽衣は「うがー」と二人に威嚇してみせる。二人はそんな芽衣を見て一層楽しんでいた。

 

 昼休みの喧噪は続く。もっとも教室内には雨と言うこともあり多くの生徒が談笑しているため彼女たちが特に目立つこともなかった。


 本日も桐国高校3年1組は平常通りであった。


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