87.新魔王
あれから数年後――
強化魔王と死霊王が賢者オルドによって一蹴され、平和が続いていた世界に新たなる魔王が誕生した。
その報告を受け、王様の命令によりオルドが勇者パーティーを選出することになる。被追放者たち四人で構成された『リバース』である。そんな彼らが遠方の山中に出現した狭間地帯を訪れていた。
「「「「――っ!?」」」」
屈強な化け物たちをなぎ倒しながらなんとか狭間を潜り抜けた彼らは、やがて異界フィールド奥地に巣食う《《魔族たちの親玉》》を発見する。
『オ、オルドオォォ、死ね……殺すうぅぅ……』
『オ、ルド、死……死になさい……』
『今すぐ死ぬのだ、オルド……』
『死んでくださいぃ、オルドォ……』
そこに我が物顔で鎮座していたのは、毒々しい紫色の葉をつけた大樹の化け物であり、風がまったくない状態でも枝が揺らめき、幹の部分には恨めしそうな人間たちの顔が幾つも覗いていた。
『『『『死ねええぇぇぇぇ……』』』』
その禍々しさは筆舌に尽くしがたいもので、魔の樹から痛々しい悲鳴や呪うような呻き声が途絶えることはなかった。
「こ、これが新たに誕生した魔王だっていうのかい? ベイベー。まさか樹の姿とは……」
「うーん、魔王にしては、なんだか弱そうだけど……」
「確かに弱そうでしゅが、不気味さはあまりあるでしゅ」
「ですねぇ……」
勇者ガリク、剣聖ライレル、魔術師マチ、錬金術師メアリーによって構成されたパーティーが呆けた様子で魔王を見上げていたが、まもなくはっとした顔を見合わせた。
「と、とにかくやっつけなきゃ!」
「了解だぜ」
「退治しましゅ」
「はいっ」
『『『『ウゴオォォッ!』』』』
魔王の樹は倒せるものなら倒してみろと言わんばかりに、勇者パーティーが何度果敢に攻撃してもたちまちのうちに再生し、執拗に枝を伸ばして襲い掛かってきた。
「――はぁ、はぁ……。これ、いくら倒そうとしてもダメだね、《《攻撃そのものが栄養になってる》》っぽい……」
「オオウッ、タフすぎるぜ。一体どうすればいいんだろうね? ベイベー……」
「む、無理でしゅうぅ。このままじゃ、こっちの体力が持たなくなっちゃいましゅ……」
「ふぅ……やっぱり、オルド様がいないとダメなんでしょうか……」
疲労困憊の様子で顔を見合わせる勇者パーティーを前にして、魔王の樹についた面々が一斉に嫌らしい笑みを浮かべる。
『クククッ……どうだ、馬鹿ども。お前たちじゃ相手にならねえ。悔しかったら、クソゴミ野郎のオルドをとっとと連れてきやがれってんだよ……』
『そうそう、アホ賢者さんを連れてきなさい。いつでも相手になるから……』
『うむ……今回ばかりは自分たちが勝つ。だから早く連れてくるのだ……』
『ですねぇ……さっさと愚者さんを連れてくるのですぅぅ……』
『『『『ププッ……』』』』
「こ、こいつ、言わせておけばぁ……オルド様の悪口は絶対に許さないよっ!」
「そうそう。周囲に猛反対されながらもあるじに勇者として選んでいただいたのに、こんなところで簡単に負けるわけにはいかないぜ、ベイベー……ンッ、それも気持ちいいかもしれないけど……」
「ガリクウゥ……」
「そっ、そんなに睨まないでぇ――」
「――あ、みなしゃん、今《《いい考え》》が浮かびましゅたっ!」
「「「えぇ?」」」
マチが何かひらめいた様子でメンバーに耳打ちすると、いずれも納得顔でうなずき、魔王に背中を向けてそのまま帰り始めたのだった。
『『『『えっ……?』』』』
「なるほどー。目からうろこだね。《《植物だし、水をあげなきゃそのうち枯れちゃう》》ってわけかあっ」
「つまり、放置プレイが一番快感……いや、ベストだということだね、オウイェッ。シンプルだけどグッドアイディアだぜっ、ベイベー」
「さー、帰って特製オムライス食べましゅよ!」
「いいですねっ」
『お、おいこら、待てよ。頼むからオルドを連れてきてくれ……』
『あいつに思い知らせてやりたいのに、放置なんて嫌よ。気が狂うわ。殺して……お願い……』
『オルドを連れてこないのなら、頼むから今すぐ殺してくれ……』
『殺してほしいですぅ……』
『『『『シクシク……』』』』
オルドに対抗するべく、魔族以外の者たちから負の力を吸収する能力を持って生まれた魔の樹は、攻撃という栄養を与えられなければ魔族たちの象徴として誕生した単なる不気味な樹でしかなかった。
「――アレク、ロクリア、エスティル、マゼッタ、達者でな……」
後日、狭間周辺は賢者オルドの脆弱な結界を【逆転】させた超強力な結界によって完全に封鎖されることになった。
『『『『……殺シ、テ……』』』』
異界フィールドにいる複数の人格で構成された魔王は、およそ百年の月日をかけてゆっくりじわじわと養分を失い、全員の気が狂った頃にようやく枯れていったという……。




