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79.忘れ物


「「「「うぎゃああぁぁっ!」」」」


 俺は視界をぼやけさせた上で視力を【逆転】し、ロクリアたちが慌てふためきながら逃げる様子を観察する。


 魔王と死霊王を倒した影響か、霧のようなものが薄くなっているのでやつらの表情まではっきりわかるよういなった。いやー、最高だな。あ、転んだマゼッタをエスティルが引き摺り回してる。アレクなんて股間が濡れてるし、ロクリアに至っては鬼の形相で我先にと逃げ回っていた。


 ずっと眺めていたいくらい面白いが、もうすぐ狭間が消えてしまうからそろそろ脱出するとしよう。


 ……あ、そうだ。見世物に熱中するあまり忘れてた。例の化け物を復活させないとな。生死を逆にするのは神の領域に踏み込むみたいで正直乗り気じゃないが少数なら問題ないはずだ。おおよその見当はつくとはいえ、追尾させた黒幕が誰なのか知っておきたい。


 というわけで、やつが死んだ場所の近くで生と死を【逆転】させてやることにする。当然、生きていられるような状態で復活するわけで、一度死んだことで狂戦士状態も解除されているはずだ。


「……」


 そこには、巨大な斧に抱き付く格好で眠る少女の姿があった。二つで一つってわけか? まさか武器が分身がそうだったとはな。一体どうなってんだか……。


「――お兄、ちゃん……」

「……」


 お兄ちゃん? うなされているのか苦しそうだ。なので、悪夢を逆にしてやると安らかな表情へと変わった。


「グルルァ、オルドよ。まさかその恐ろしい化け物を連れて帰るつもりなのであるか……?」

「危険です、オルド様。不幸の臭いがします。ウミュァ……」

「大丈夫だ。俺ならその不幸の原因を取り除くことができる。それに、この子は悪い子には見えない……」

「ふむ……」

「ウミュゥ……」


 おそらく、俺を襲ってきたのは兄の件と何か関係があるんだろう。


「とにかくこの子は俺に任せてくれ。フェリルとクオンはあの魔族の女を頼む。あいつも被追放者みたいなもんだからすぐ馴染むだろう」

「……わかった」

「……わかりました」

「……」


 なんか二人とも不満そうだな。そういやずっとペットを放置してたようなもんだしなあ。


「俺に撫でられたいんだろ?」

「「……っ」」

「そうなんだろ?」

「バ、バレたか……」

「バレてしまいました……」

「そりゃ、俺は二人のご主人様だもんな。さあ、来いよ」

「……グッ、グルルゥ……」

「……ウッ、ウミュァ……」


 二人とも俺に可愛がられてすっかりご機嫌な様子。


「――さあ、急いでここから出るぞ!」

「うむ!」

「ウミュ!」


 こうして、俺たちは猛スピードで異界フィールドを駆け抜けていく。そういや、なんか忘れ物してるような気がするが……まあ気のせいだろう。荷物が軽くなったような気がするのは、魔王退治も無事終わって肩の荷が下りたってことだろうし。


 狭間に到着した頃には、周囲の様子がガラリと変わっていることに気付かされる。とにかく全てがあべこべになっているのだ。これは通常世界との道が塞がれつつあるということを意味していた。


 しかし俺のスピードは尋常じゃないし、フェリルとクオンにも当然サポートしているので、ギリギリのタイミングまではいかず外に出ることに成功した。


 ……あ、そうだ、思い出した。ロクリアたちがまだ来てないんだった。可哀想だが、別々の道を歩みたいとわざわざ宣言してたしこれでいいんだろう。異界フィールドで生活するなんてかなりの茨の道のように見えるが。


「――あっ……」


 思わず声が出る。やつらの気配が近付いてきたのだ。あの様子じゃモンスターから逃げ回るのが精一杯だと思ってたのに凄い執念だな。そこは腐っても勇者パーティーか。


「み、見えてきたっ!」

「まだ間に合いますぅ!」

「急げええっ!」

「は、早くっ……!」

「……」


 俺は地魔法で、とても柔らかい綿のような壁を入り口に置き、逆の硬度にしてやった。魔法で破られないように念入りに結界も張ってやる。ヘトヘトになってるあいつらにこれを破るのは至難の業だろう。別々の道を歩みたいと言った以上、約束は守ってもらわないとな。


「そ、そんなっ!」

「ここから出してくださいぃっ!」

「オ、オルドの仕業なのか!? 頼む、お前の奴隷にでもなんでもなるからよお!」

「お願い! 全部捨ててあなただけ見るから、ここを開けてっ!」

「……はあ」


 俺の呆れたような溜息だけ聞かせてやる。やつらの悲鳴がこだます中、狭間の入り口が徐々に消えていった。


「グルルァ……オルドよ、やつらはどうなるのだ?」

「ウミュァ……オルド様、どうなるのですか……?」

「狭間自体、異界フィールドのほうに近いから狭間が消えたら強制的に戻されるはず」

「「なるほど……」」


 次に会う機会があるかどうかはわからないが、そのときはあいつら魔族になってるかもなあ……。

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