77.蛇
「みんな、わかってるな……? すぐにクソオルドを殺すんじゃなくて、真綿で首を絞めるように少しずつ痛めつけてやろうぜっ!」
「はっ、アレク様」
「わかりましたぁ、アレク様っ……」
「わかったわ、アレク。とにかく気持ちの悪い男だし、今すぐ殺してしまいたいのが正直な気持ちだけれど……」
「……ひ、ひいぃっ……」
ちょっとわざとらしい怯え方だったかもしれないが、やつらの顔に浮かんだ嫌らしい笑みは消える気配がなかった。やっと憎い俺をボコれるという喜びがそれだけ強いんだろう。
「フェリルどの、クオンどのも、すぐにでも殺してやりたい気分だろうが、くれぐれも手加減を」
「……あっ、わ、わかったである」
「わ、わっかりました……」
フェリルとクオンがエスティルに話題を振られてはっとした顔をする。まあそれでも違和感は持たれてないみたいでほっとした。
「いっ……嫌だあぁぁっ!」
俺がよろめきつつ逃げ出すと、やつらはこのチャンスを逃すまいと一斉に迫ってくるのが気配で読み取れた。
「オルドめ、くたばるがいいっ!」
「死んじゃえですぅ」
「消え失せろや、女に相手にされねえ惨めなクソオルドめがっ!」
「目障りなのよ、あなたの存在そのものがっ!」
「オルドよ、覚悟するのである」
「覚悟してください」
やつらの押し寄せるような罵声と攻撃を、偶然のように見せかけてのらりくらりとかわしていく俺。あんまりやると俺がボロボロの状態じゃないってことがバレる可能性があるので、【逆転】スキルで必然を偶然に変えているというわけだ。しかし、フェリルとクオンに関しては当然だが必死に向かってくるロクリアたちとは明らかに温度差があって面白い。
それにしても、熱量が高い連中は目が異様にぎらぎらしてて時間がかかりそうなので、そのあり余っているであろう気力と体力の具合を【逆転】してやる。魔族たちのトップが亡くなった以上、なるべく早く異界フィールドから脱出しないと、いずれ狭間地帯が消えて二度と人間界に戻れなくなってしまうからだ。
「「「「はぁ、はぁ……」」」」
当然だが、ロクリアたちが一斉に息を切らしたもんだから噴き出しそうだった。危なかった……。
「……ま、まぐれだ、こんなの……。運のいい男め……」
「……な、なんか疲れちゃいましたし、とっとと片付けるですぅ……」
「……ぜぇ、ぜぇ……マゼッタの言う通りだ。異界フィールドが原因かもしれねえ。こうなったら、もう殺そうぜ……」
「……ふぅ、ふぅ……そ、そうね……。ひと思いにやっちゃいましょう……ヒーリングッ!」
やつらがロクリアの【聖痕】スキルによる至高の回復魔法で元気になり、一斉に襲い掛かってきた。まあ気力も低下させてるからこれで回復も打ち止めだろう。
「死ねっ! 死ぬのだ、オルド!」
「くたばっちまえですぅ!」
「死ね、死ねっ! 砕け散れゴミクズッ!」
「早く、早くこの世から消えて! 陰気で不快なだけの生き物っ!」
「……」
そうか、生き物であることだけは認めてくれるんだな、さすが俺の幼馴染……。しかしお前には言われたくないと思って少しはむかついたので、そろそろネタバラシといこうか。
「そろそろ種を明かすぞ」
「「「「はっ?」」」」
「俺の魔法力が半分になってるっていう設定な、あれは嘘だ」
「「「「へ……?」」」」
「だってほら、みんな攻撃を当てられないだろ? もう時間の無駄だからやめといたらどうだ……?」
「……ハッ、ハッタリだ! ハッタリに決まっているっ!」
「エスティルの言う通りですぅ! こいつは魔王を倒してヘトヘトになってるはずですぅ!」
「そうだそうだ! まぐれでかわしてるだけだってのに調子こきやがってよ、ゴミクソの分際で……!」
「陰気なこの男がやりそうな手よ……」
「……」
そうか、信じてはもらえないか。まあそりゃそうだよな。いとも簡単にそんなことが認められるはずもない。もしそれを認めてしまえば、憎くて仕方ない俺に今まで弄ばれていただけっていう最悪の現実を直視することになるわけだからな。
「じゃあ早く殺せよ。まぐれなんだろう?」
「「「「……」」」」
やつらの口数が少なくなってきていることから、少しは効き目が出始めたようだ。いいぞいいぞ、どんどん焦っているのが伝わってくる。絶対に認めたくない。でも、もしかしたら……そんな恐怖がじわじわと襲ってきてるんだろう。
やつらの荒い息遣いを煽るかのように俺は避け続け、そして時折笑みを浮かべてやるのだった。もうそろそろだな。終わりのとき――こいつらとのサヨナラ――は、目前まで迫ってきている。獰猛な蛇と化して、狭い箱の中で小動物たちを追い回しているような愉快な気分だ……。




