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62.綱渡り


「ラ……ライレル様……む、む、無理っす。あんなのに勝てっこないですよ……。伝説級の化け物が相手とか……正直……あるじを相手にするようなもんでしょ……」


 拳聖ルディアの戦いぶりを前にして、ガリクの目は今にも零れんばかりに見開かれ、足はガクガクと震えていた。


「……ガリク、そんなに怖がらないでよ。僕まで怖くなっちゃうでしょ……」

「……し、し、しかし……」


 ライレルは知っていた。ガリクはここに来たことで心身ともに以前よりずっと強くなっており、怯むようなことはほとんどなくなっていた男なのだと。それがここまで恐れているということが、ルディアの強さを物語っていたのである。


(早く行かなきゃ、助けなきゃ……みんなを守れない……なのに、立ち向かうことが怖い。折角オルド様に力を貰ったのに、こんなにも無力だなんて悔しすぎるよ……)


 ライレル自身も、一歩前に踏み出すことすら躊躇してしまうほどの迫力だった。


「……そ、そそっ、そうだ、ライレル様、俺を思い切りぶって……」

「え?」

「い、いいから……」

「じゃあ遠慮なく」

「ぎひっ!」


 ライレルに猛烈な勢いでビンタされてその場に倒れるガリク。まもなく立ち上がった彼は元の状態に戻っていた。


「ふう。おかげさんで緊張が解けたみたいっす……」

「さ、さすが変態……」

「最高の誉め言葉だよベイベー……」

「ガリク、こんなときにふざけてられる……?」

「に、睨まないでっ。それにしても、ルディアはなんで国に加担するんですかねえ……」

「ど、どういうこと? ガリク」

「国が選別した勇者パーティーに追放されたやつなのにってことです。なんでそんなやつが国側につくのかなって。普通、追放された人間ばかりのこっち側につくはずじゃ……?」

「そういえば、確かに――」

「――ぎゃああぁぁっ!」

「「あっ……!」」


 その直後だった。一人の兵士の追い打ちによって、村人が殺されてしまったのだ。


「な、なんてことを……」

「信じられないぜ、ベイビー……」


 今まさにライレルたちが怒りを原動力にして前へ進もうとしたとき、ルディアが一喝とともに兵士を殴り飛ばしてしまった。


「……つ、つええ……」


 あまりの強さに青ざめるガリクだったが、ライレルはその光景に一筋の光明を見出していた。


「ガリク……もしかしたら戦わずに済むかもしれない……」

「ええっ!?」

「さっき、ルディアが勇者パーティーに追放されたって言ってたよね?」

「あ、はい。そうっすけど……?」

「話がわからない人でもなさそうだし、一応こっち側につくように僕が説得してみるよ。あそこまで強い人を相手にする以上、村人たちを守るためにはそのほうがいいかもしれないし。それでもダメだったら……」

「……死ぬ覚悟ですね、ライレル様。俺と一緒に……」

「ガリクは死ぬなら一人で惨めに死んでね♪」

「……嗚呼、快感っ……」




 ◇ ◇ ◇




『ティアルテよ、全ての準備は整ったか?』


 魔王城、謁見の間に魔王の姿はなかった。その代わりのように玉座に座った髑髏の大臣ジルベルトが、目下のティアルテに対して重い口を開く。


『はい、今のところ何もかも首尾よく運んでおりまする、ジルベルト様。魔王様は軍のほとんどをわらわに託しており、僅かな兵を引き連れて勇者パーティーの元へと向かっている最中かと……』

『……そうか。寸前まで勇者たちに気付かれないためにも少数精鋭でいったほうがいいという意見までも聞き入れてくださるとはな。しかし、今も綱渡りではあるが上手くいきすぎて怖いくらいだ……』

『それだけジルベルト様が長い年月をかけて準備をなさってきたからかと……』

『うむ……だが、妙に不安なのだ。権力というものは魔力でもあり、素晴らしいものだが得た途端に失うことが怖くなるのだと、よく死霊王様も仰られていた……』

『ジルベルト様であれば上手く扱えるかと……』

『……お前も煽てるのが上手いな、ティアルテ』

『魔王様に長くお仕えしてきたので……』

『カカカッ……それがしも暴君にならぬよう、たまには足元を正さねばな。さ、そろそろ最後の仕上げといこうか』

『はっ、死霊王様……』


 ティアルテが一層恭しくひざまずき、しばらくジルベルトの乾いた笑い声が響き渡るのだった……。

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