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42.我慢


 エイゼニルの町を発ってからしばらく経ち、周囲が暗くなってきた頃に俺たちは次の目的地であるグラニアル――バルドリア地方の中心より少し下にある村――まで来ていた。


 ずっと向こう側にある山麓近くに煙が立っているのが見える。あれは山火事でもなく霧でもなく、微妙に紫がかっていることからもわかるようにいわゆる瘴気というやつで、凶悪なモンスターで溢れている狭間地帯が山麓近辺にあることを意味しているんだ。


 慣れていない人間が近付けばたちまち動けなくなることだろう。すなわちゆっくりできる安全地帯はもうここら辺りまでってことで、夜が明けるまではこの村で過ごすことにした。


 この村は田園地帯に囲まれた世界一長閑な住処として知られていたが、稲はことごとくなぎ倒され、食い散らかされた遺体で賑わっている。


 これもロクリアのバカが魔王にバフをかけるからこんなことになったんだ。本当の敵は身近にいたわけで、恨むなら俺でも魔王でもモンスターでもなく、当時俺を追放した勇者パーティーのほうだろう。もちろん俺も力を貸そう。頭部のない、体が半分千切れた子供らしき遺体の手を握って約束する。ただ精神が壊れた程度で逃げられると思ったら大間違いだからな……。


「……」


 ふと、【逆転】スキルなら生き返らせてやることもできるんじゃないかと思ったが、さすがにそこまでやるのは神に対する越権行為のように思えて怖くなってくる。一人だけ生き返らせるってわけにもいかないし、一度やり出すときりがなくなるしな。俺はあくまでも神スキルを持った人間であって神そのものではないんだからやめておこう。


「オルドよ、ここは空気が悪いな……」

「不幸の臭いで頭が変になりそうです……」

「ああ、そうだろうなあ……」


 二人とも鼻が抜群に利くからそうだろう。山ほどある死体の臭いに関しては、人間の俺でも我慢の限界を超えそうだから良い匂いに【逆転】させておくか……って、大事なことを思い出した。


「そんなことよりフェリル、クオン。俺と一緒にいたらエスティルとマゼッタに怪しまれるぞ?」

「それなら心配はいらん。死体の多さのあまり、やつらはすぐ逃げるように宿に閉じこもったのであるからな」

「もう息をしていないとはいえ、民と向き合わないなんて勇者パーティーとは思えません」

「まあまあ、そういうやつらだし――」

「――バブーッ!」

「待ちなさい! この程度で怖がるなど、勇者としての名折れっ!」

「……お……」


 心が壊れてる二人組はちゃんといるなと思ったら、ロクリアが怒った様子で逃げるアレクを捕まえると、その泣き顔を髑髏に突っ込んでいた。


「……相変わらずだな」

「精神が壊れても、根本的なところは何も変わらぬということであるな」

「不幸がうじゃうじゃです」

「……ああ。今度はやつらの性格の悪さを逆手にとってやろう」

「……オルドよ、一体何をする気なのだ? そろそろ教えてくれても……」

「クオンも知りたいです」

「まぁ待て。もうじきわかる。さて、まずは女になるか」


 俺は【逆転】スキルで自分の性別を変えた。たったそれだけのことなんだが随分とすっきりしたような気がする。憑き物が落ちたような、何か大事なものがごっそり抜け落ちたような、そんな不思議な感覚だ。それに短髪を長髪にしたので、あとは服装次第で完全に別人だと思われるはずだ。


 そういうわけで、俺は早速服を探しにその辺の建物の中を適当に物色することにした。なんだか盗賊みたいだな……。


「――どうだ?」

「……か、可愛いぞ、オルドよ……」

「オルドお姉様……」

「……そ、そうか……。ちょっと恥ずかしいけどな、遊びのために我慢だ……って、なんか違和感があると思ってたら、やっとその正体がわかった。いつもの唸り声はどうしたんだ?」

「……それが、それが原因で危うく我々の正体がバレそうになったのだ。口癖とはいったが、さすがに人間のものとしては不自然すぎると思うので我慢している……」

「クオンもです……」

「……そうか。二人とも健気だな。さすが俺のペットだ。よしよし……」

「……グルルゥ」

「ウミュァア……」


 さすがにご主人様に撫でられると唸り声は我慢できないらしい……。

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