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41.癖


 いやー、今日も朝から実にいい天気だ。晴れ晴れとした空、静かで広々とした町、心地いい風、それに嫌がらせの夢いっぱい。


「おはよう、フェリル、クオン」

「「……」」


 二人はいずれも不快そうな顔で俺から目を逸らす。うんうん、見事な演技力だ。俺が昨晩丁寧に指導した通りだな。


「お、おい、どうしたんだよ」

「「……」」

「……なんだよ、感じ悪いな……」


 このタイミングで視線を【逆転】させてみると、エスティルとマゼッタが顔を見合わせてニタリと嫌らしい笑みを浮かべているのがわかった。例の手紙が早くも功を奏して俺たちの仲を引き裂くことができたと思ったんだろう。この調子でどんどん勘違いしてくれるとありがたい。


「バ、バ、バーブゥ……!」

「アレク様? 何をそんなに怯えてるのかしら? 朝の体操の時間よ~!」

「バブギャッ!? オブギャアッ!」

「……」


 ロクリアがひたすらアレクの腹を殴ってるだけに見えるんだが、あれでも体操なのか。多分腹筋を鍛えようって意味もあるんだろうけどダメージのほうが大きそうだな……。


 ちなみにモンスターどもはとっくにやっつけてるし、しばらくこの町どころか俺たちに近付くことさえないだろう。ついついそのことで俺は思い出し笑いをしそうになってしまう。


 ワイバーンの件が尾を引いてるのか、エスティルとマゼッタがしきりに交戦したがってたわけだが、モンスターで溢れるエイゼニルの町へ意気揚々と向かう中、俺がやつらの目を盗んで転送魔法で先回りして全滅させたんだ。


 その上、二人にはモンスターがもういないのにまだいるように【逆転】で思わせてやった。町に着いてそれを元に戻したとき、あいつらの愕然とした様子は本当に笑えた。このなんともいえない気持ちよさ、癖になりそうだ。


 さらにみんなが寝静まった頃を見計らって俺が大量に殺気を放っておいたから、これでしばらくは嫌がらせに専念できるってわけだ。魔王退治なんておまけみたいなもんだからな。


 唯一気懸りなのは、あれだけ強い殺気を放ったのに一定の距離を保って尾行してくる例のやつくらいだ。まだ大きな動きがないからいいが、それでも少しは気を付けないと足を掬われる危険性すら感じた。俺にこんなことを考えさせるなんて、なんとも不気味なやつだ……。




 ◇ ◇ ◇




「な、何!? フェリルどの、クオンどの、それは本当か!?」

「エスティル、声が大きいですぅ……」

「はっ……す、すまん……」


 勇者パーティーはエイゼニルの町を発ち、異界フィールドへつながる狭間地帯を目指して出発したわけだが、その中央でエスティル、マゼッタ、フェリル、クオンの四人が固まる形になり、先頭にはオルド、後方にはアレクとロクリアという陣形になっていた。


「グルルァ、本当である……。我はオルドに心底失望した。ゆえに、哀れにも精神を破壊されたロクリアとアレクに力を貸したい」

「クオンもオルド様にとても失望したので力を貸したいです」

「そ、それは頼もしいが……失った心を本当に自力で取り戻せるのだろうか? そういうスキル持ちをいくら探しても見当たらなかったのに……」

「ですねぇ。それでショック療法としてオルドと行動を共にすることで正気に戻す方向に賭けていたのですがぁ……」


 二人はしみじみと語るも、今は期待感のほうが強いのか口元は緩みっぱなしであり、それを隠そうと右手を添えるのだった。


「我々の友人の女性なのであるが、狂った状態を元に戻すリカバリー能力を持っているのだ。しかし人前に出るのがとても苦手で、それでひっそりと暮らしているから見付からなかったのであろう」

「なのです」

「「……」」


 フェリルたちの発言により、エスティルとマゼッタはもう喜びの色を一切隠さなくなった。


「た、助かる! フェリルどの、クオンどの……みなで力を合わせ、ともに女の最大の敵であるオルドを打ち負かそう!」

「オルドをやっつけるですぅ!」

「……わ、わかった。グルルァ……」

「……わかりました。ウミュァア……」

「「……」」


 不思議そうにまばたきするエスティルとマゼッタ。


「ど、どうしたのであるか?」

「どうしたのです?」

「……前から気になっていたんだが、その時々発する唸り声みたいなのは一体何かなと……」

「なんですぅ?」

「……あ……こ、これは我の口癖のようなものでな。気にするな」

「クオンもです。どうか気にしないでください」

「が、合点。しかし、そういった妙な癖は早めに治したほうがいいかと……」

「ですねぇ。なんだか獣みたいですしぃ……」

「「……」」


 フェリルとクオンは、揃って気まずそうに口元を真一文字に結ぶのであった。

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