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31.病


「よ、よ、よく来た、賢者オルド……」


 王城の謁見の間には、殺気にも似た異質な雰囲気が漂っていた。


 王が座る玉座の脇は屈強そうな兵士たちで固められ、さらに後方には僧侶たちの姿も多く見られた。どれだけ俺を恐れてるのかってことだな。国を総べているはずの王が、まるで蛇に怯える小動物のようだ。それでも顔は明らかに怒ってるのが笑える。これだけ頑丈に守られないと強気になれないっていうのか。


「……コホン、こたびは非常に喜ばしい。オ、オルド、お前の名誉が回復した日だからなっ!」

「ありがたき幸せ、王様」


 まったく喜びを感じさせない台詞だったが恭しく返す。どれだけ王が不服でも、俺の名誉が回復したことに変わりはないわけだから気持ちは晴れやかだった。


 俺は以前とほぼ同じ容姿になったものの、今のままだと王都内を歩けば民から石でも投げられかねないってことで、王命で兵士たちが城門に不敬罪が誤解だったとする貼り紙を貼ったのだ。


 これからどんどん噂が広まって名誉は回復され、教会の出禁も解除されるんだろう。まあ王の態度を見ればわかるが、どうせ魔王を倒せばまた妙な難癖をつけられて追放されるか処刑され、名誉は失墜してしまうはずだ。


 だから、討伐するにしても普通のやり方ではしないつもりだ。最後には被追放者の村に住む俺たちが幸福になり、王や勇者パーティーがどん底まで叩き落とされる道を選ばせてもらう。これは相手が選んだことでもあるんだから恨まれる筋合いはない……。


「バーブゥー」

「あへへ……アレク様ぁー。髪が乱れてるわよぉー」

「バブッ!?」


 ロクリアが笑みを浮かべつつ、両手でアレクの髪を掻きむしり始める。おいおい、あれじゃもっと乱れるだろ……。


「びっ……びええええんっ!」

「あらあら……泣いちゃダメよ……勇者様でしょ!?」


 あいつ、今度は物凄い勢いで往復ビンタを始めた。うわ、めっちゃ痛そう……。


「バビバビバビバビバビビイィッ! ……バブッ――」

「――まだ寝ちゃダメ! ヒーリングッ!」

「バブッ……!?」


 とうとうアレクが失神してしまったと思ったら、ロクリアに回復魔法で起こされてまた強烈なビンタ攻勢が始まった。軽い地獄だなこりゃ……。


「よ、よすのだ、ロクリア!」

「ダメですよぉ!」

「は、放して! 勇者様を鍛えるのよー! あひんっ……」

「……ク、ククッ……」


 エスティルとマゼッタが止めに入ってようやく収まったわけだが、俺はどうしても我慢できずに笑ってしまった。


「き、貴様のせいだぞおおぉぉっ!」


 突然王様が立ち上がって王冠を投げつけてきた。俺とは違う意味で我慢の限界だったらしい。見事に俺の腕に命中したものの、まったく痛くなかった。


 鍛え上げられた体になったというのもあるが、直前に皮膚の強度を【逆転】したからだろう。どれだけ鍛えても皮膚を鋼鉄のように固くするのは不可能だが、神のスキルでは当然のように可能だったということだ。とはいえこれで痛がらないのは不自然なので、俺はあえて腕を掴んで痛そうに振る舞ってみせた。


「い、いてて……」

「……はぁ、はぁ……」


 王はしばらくここまで聞こえるほど荒い呼吸を繰り返したあと、真っ青な顔で呆然と玉座に座った。


「何故王様がそのようにお怒りになられているのかは存じませんが、気に入らないのであれば魔王退治は辞退させていただき――」

「――い、いや、待て、オルド、待ってくれ! わ……わしが……ぐぬ……悪かった……今のはあれだ。何故か急に頭に来て、王冠を投げつけてしまった……」


 苦しい言い訳だが、相手は国王様だからな。表向き上は信じないわけにもいかない。


「そうでしたか。それはそれは。しかし、そこにいる精神が病んだ二人では戦力になるのか甚だ疑問ですので、新人を二人入れてもよろしいでしょうか」

「ぐっ……し、新人だと……?」

「はい」


 もちろん、広場で俺を待っているフェリルとクオンのことだ。呼ばれてもいないのに王城に立ち入ることはできないからな。王は再び立ち上がって俺を睨みつけてきたが、今にも倒れるんじゃないかっていうくらい額から汗がダラダラと出ている。王冠を投げつけられたものの逆に気の毒になるレベルだった。


「ダメでしょうか」

「……よ、よい。好きにしろ……しなさい……」


 がっくりと玉座に座り込む王。まもなく苦し気に自身の胸を掴み出した。


「うっ……い、息が、できん……」

「王様!? おい誰か! 今すぐ主治医を呼ぶのだ!」


 大臣が血相を変えて王に駆け寄り、どよめきが上がる。元々結構な歳だし、あの様子だともう長くはなさそうだな。ヒーリングじゃ病は治せないから、煎じ薬とかのほうが効くだろう。もっと効くのは俺の【逆転】スキルだが、平民の俺に治癒されるのは王室の人間にとって屈辱以外の何物でもないだろうから遠慮しておくとしよう……。

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